止まらない円安と政府・日銀のスタンス
円安が進んでいますね。
約1カ月前の3月10日までドル円が115円台だったことを思えば、かなり急激なスピードで円安が進んでいることになります。
大手メディアの報道では、日米金利差の拡大が要因とされています。
確かにグラフで重ねてみると、ドル円相場の推移と日米金利差の推移は、概ね一致しますね。
最近何度か述べていますが、マーケットの怖いところは、「一旦ひとつの方向に動き出すとそのまま方向感が定まって、継続する」ということがあります。
アジア通貨危機(1997年)における欧米ヘッジファンドの動向が一例として挙げられるでしょう。
市場の脆弱性を見つけ、儲かるとなれば順張りでどんどん仕掛けてくるファンドもあるでしょうから、動きが増幅されやすくなることがありますね。
さて、個人的にいまだに頭に残るのは、前回の日銀政策金融決定会合で、円安のデメリットよりもメリットを強調する路線を変えなかったことです。
これは明らかに円安が進むことを容認しているかのような姿勢であり、あるいは容認せざるを得ない状況(例:下段ツイート)だったのか、そこは推測の域を出ない部分がありますが、いずれにしても上の記事(以下引用)でも触れた通り、あの時にスタンスを変えなかったのはなぜだろうか。
ただどういう過程と意思決定で今回の会合内容に至ったのかは非常に気になるところです。今回の会合内容は、「通貨価値保持の観点からは消極的と受け止められやすい」というのが率直な印象です。
年内に米国が量的引き締めに動いた場合、日銀はどうするか。黒田総裁は現在のインフレは「資源高の一時的なもの」という見方に留めているが、インフレが亢進しても国債市場を気にして引き締めには動かないか。しかしそうなると円安がさらに進む可能性も。その場合かなり難しい舵取りを迫られると想定。
— 穂高 唯希|Yuiki Hotaka (@FREETONSHA) January 25, 2022
日銀としても動こうにも動けない事情が上記の通りあると推測できるので、今後はたしてどういうスタンスを打ち出すのか、気になるところです。
近日行われる日米の通貨当局の会合で、米国がどのようなスタンスを取ってくるのかが当面の注目イベントでしょうか。
今になって財務相の円安けん制発言が出ていますが、前回の日銀政策金融決定会合で円安を歓迎した時点で、早晩こうなることは賢明な当局者であればさすがに目に見えていたはずです。
ところがそうしなかったのはなぜなのか。単に楽観的であったのか、はたして別の事情があるのか。どうなんでしょうか。
日銀の独立性がどの程度まで現在担保されているのかは市井の私からは計ることはできませんが、「政府と日銀が一体となって、インフレによる実質的な政府債務の圧縮に意図的に誘導」というシナリオも、以前と比べると、一笑に付しづらくなってきたのではないか、とも(ただ、日本は潜在成長率が低いこともあり、そもそもこの手の圧縮(金融抑圧)が可能なのかという議論はあると思います)。
その辺がテールリスクとして気になるところです。仮に現実となった場合は、民間部門の資産も圧縮されることになります(具体的には、実質マイナス金利となる債券保有者、預金者や保険契約者などの犠牲によって、公的債務の対GDP比を低下させる)。
歴史を振り返れば、第二次大戦後は、英米ともに債務比率低下局面では、主にインフレ高進が債務圧縮に作用したとされています。経済実態以上に低金利を続け、インフレを促進することで債務圧縮という構図です。いわゆる「金融抑圧」と呼ばれる事象です。
そして、返す返すもこのタイミングで経常収支が赤字に転落したのは、日本にとって痛いですね。継続的でないとよいのですが。繰り返しながら、継続すると財政ファイナンスは海外資金に頼ることになります。
財政支出の野放図な拡大は、特に経常赤字の状態では厳に慎まないと、通貨価値の毀損懸念は高まりやすいと思います。ただし議会制民主主義で大衆の支持を得られない緊縮政策は採りづらいでしょう。
そして繰り返しながら、通貨リスクのヘッジとしては、相対的には内国通貨ではなく外貨建て資産、伝統的にはゴールドや不動産などの実物資産への分散が挙げられます。
一方で、さすがに為替市場もゼロサムゲームである以上、ポジションの解消やきっかけ次第で、どこかのタイミングでトレンドが反転することも頭に入れておきたいところです。日米の中銀政策スタンスがあまりに対照的(米:引き締め、利上げ、日:円安の実質的な容認)であるため、その材料が見いだしづらくはあるものの、以下記事の通りドル安要因は存在し続けています。
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