ドル円相場で考えていること、米ドル・円の代替資産の候補
2022年3月18日、日銀による金融政策決定会合がおこなわれました。
折しも円安が進むなか、個人的にはドル資産と円資産をどうしていくのか、ドル円の展望を考える上で注目していました。
結果としては、今回の金融政策決定会合において、緩和政策の転換示唆や円安に対する消極的な言及はみられませんでした。
注目の日銀金融政策会合要旨:円安に対する積極的なリスク評価みられず
会合要旨および会見については、以下の通りまとめられます。
- 緩和的な政策を維持
- 物価上昇率2%でも「金融引き締め必要ない」
- 円安によるデメリットに対して積極的言及なし
- 円安による日本経済へのメリットには言及あり
まず議事要旨より以下を抜粋します。
わが国の景気は、新型コロナウイルス感染症の影響などから一部に弱めの動きもみられるが、基調としては持ち直している。
海外経済は、国・地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じてみれば回復している。
ただし、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国際金融資本市場では不安定な動きがみられるほか、原油などの資源価格も大幅に上昇しており、今後の動向には注意が必要である。
そうしたもとで、輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響を残しつつも、基調としては増加を続けている。
また、企業収益や業況感は全体として改善を続けている。
(日銀ホームページ、議事要旨より抜粋)
ということで、輸出への言及(黄色線部)は見いだせる一方で、円安によるエネルギーや食品など輸入額の増大については議事要旨での言及は見られませんでした。
記者会見では、円安によるメリットへは言及あるも、円安に対する積極的なリスク評価はみられませんでした。
たしかにこのタイミングで経常赤字をからめて円安のデメリットに言及すれば、内外に対して今後のリスクを自ら流布させてしまうことにもなります。
ゆえに、言及を避けたかったのか、あるいは避けざるを得なかったのか――。ここはなんとも言えないところです。
ただどういう過程と意思決定で今回の会合内容に至ったのかは非常に気になるところです。今回の会合内容は、「通貨価値保持の観点からは消極的と受け止められやすい」というのが率直な印象です。
日米ともに想定しておきたい「金融政策のジレンマ」
年内に米国が量的引き締めに動いた場合、日銀はどうするか。黒田総裁は現在のインフレは「資源高の一時的なもの」という見方に留めているが、インフレが亢進しても国債市場を気にして引き締めには動かないか。しかしそうなると円安がさらに進む可能性も。その場合かなり難しい舵取りを迫られると想定。
— 穂高 唯希|Yuiki Hotaka (@FREETONSHA) January 25, 2022
いずれにしても、年始時点における上記ツイートの通り、FRBだけでなく日銀も金融政策のジレンマにおちいるケースを懸念しています。
円サイドのお話
ジレンマとは以下を指します。
- 通貨価値の保持、通貨信認の観点からは緩和縮小への方向性が望ましい
- 一方で、金利上昇は日銀のバランスシートおよび政府債務の利払いの観点からは望ましくない
各国中銀が金融引き締めに転換するなか、日銀が独歩的に「金融緩和の維持」を続けた場合、内外金利差の拡大等によって円安圧力自体は当面続く可能性が予想されます。
そしてタイミングが悪いことに、昨今の経常赤字が継続すれば、 円安要素がもうひとつ加わることになります。経常赤字が意識されやすい状況では、「有事の円買い」から「有事の円安」に構造が転換されやすくなると考えられます。
もちろん、為替というのは通貨同士の相対的な要因によって形成されます(つまり、円サイド・ドルサイドの両方が要素になる)。上段で述べたのは、あくまで円サイドからのお話です。
仮に「円安が進もうと、円安よりもドル安が進む」ならば、ドル円としては「円高ドル安」に傾きます。ゆえにドルサイドからの観点も必要です。
つまり結局はドル円を展望する際には「ドルサイド・円サイドの各要因の綱引きでどちらに傾くか」ということにはなります。
ドルサイドのお話
では米ドルに関して何に注目しているかといえば、以下です。
- インフレ通貨であること
- 金融緩和による副作用
- 双子の赤字に加え、基軸通貨体制に認められる脆弱性(SWIFT体制をみずから退潮させる金融制裁という諸刃の剣)
これらの観点からは、ドル安を最近のメインシナリオとしてきました。
つまり、ドルサイドの観点からは「ドル安シナリオ」を個人的に想定していました。しかし今般の金融政策決定会合から示唆される通り、黒田総裁の任期中に金融政策が正常化されない(緩和方針を転換しない)可能性、つまり、ドル安と円安が混在するケースを頭に入れておかないといけないな、というところです。
というか上段ツイートの通り、そもそも正常化するにしても国債市場へ配慮しつつ進める必要があるため、繰り返しながら難しいかじ取りを迫られるケースが懸念されます。
よって以上のケース・観点においては、中期的に保守的に構える場合、米ドルも日本円も、個人的には積極的に資産を大きく傾けたい対象とはなりづらいと考えています(一部の人々においては、米ドルに代わる「なにか」を模索する人が増えるのでしょう)。
となると、消去法的に「実物資産(ゴールド、不動産など)への分散」が、株式市場の観点のみならず通貨の観点からも、保守的に構える場合の選択肢に引き続きなりそうだと現時点では考えています(厳密にはゴールドや不動産もドル建てまたは円建てながら)。
人民元は政治的リスクが高いため選択肢からは外しています。
暗号通貨系は、フォーク等によって実質的に供給量の制約がないものならば、選択肢としては相対的に弱いと思っています。
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