円安加速で私たちが考えたいこと

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円安加速で私たちが考えたいこと

好ましくないシナリオというのは、あまり書きたくはないところです。

しかしもし好ましくないシナリオが現実化すれば、やはり対処していかなくてはならないことがでてきます。

円安がいま進んでいます。株価の上下に関わらず、円の全面安が目立ち始めています。

円安加速によるリスクを考える

今のタイミングで円の全面安が起こると、どのようなリスクが増大するでしょうか。

  1. 日銀の債務超過
  2. 政府の利払い増加
  3. 食の安全保障が揺らぐ

①・②は金融面です。なかでも私たちが特に考えたいのは、③です。少々お付き合いください。

日銀の債務超過

日銀の債務超過に関しては、コロナショックで株価が下落した2020年3月、国会でも議論になりました。当時は株安が進めば日銀が保有するETFの価値が毀損され、債務超過の懸念が生じることから話題になりました。

今回のシナリオでは、株ではなく債券が要因として浮上します。円安によるインフレ、からの短期金利の先高観測、からの金利上昇圧力が起きれば、まず債券価格が下がることになります。

日銀が多く保有する国債の価格が下がれば、保有証券の時価が下がるため、バランスシートを時価評価するかぎり「債務超過のリスク」が増大することになります。

日銀が債務超過におちいると、どうなるのでしょうか。

「日銀の債務超過自体は直ちに大きなリスクを誘発するわけではない」という論がまずあります。日銀の元理事の山本謙三氏によれば、「日銀は一般の民間企業とは異なり、日銀は自身で資金創出でき、資金繰りに窮することはないから」とされます。

一方で国家の中央銀行が債務超過におちいるということは、その中銀が発行する通貨やその通貨をベースにした政府が発行する借用証書の信用力に疑義が生じることは想像がつきます。

これがさらにマーケットのトリガーとなって、大きな一方向の流れ(たとえば円安のさらなる加速化)になるリスクが考えられます。

通貨の信用力が落ちれば、ドルスワップのコスト増も考えられます。日本の多くの企業は為替を利用して海外ビジネスをしていますから、ドルスワップのコスト上昇は直接的に企業負担の増大リスクにつながることも考えられます。

日銀の債務超過自体は近年継続的に起きたことがないのでなんとも言えない部分もあります。それ自体が問題というよりは、信用が保てるかが焦点と思います。ご興味ある方は、以下に詳しい記事を載せておきます。

金融バブル崩壊論。通貨・債務の危機、日銀の債務超過などリスクと対策を点検。
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政府の利払い増加

「円安によるインフレ、からの短期金利の先高観測、からの金利上昇圧力が起きれば、まず債券価格が下がることになります」

と先ほど述べました。

金利上昇が起きれば、債券価格の下落のほかには、「政府債務の利払い増加」が考えられます。

金利が上がれば、借りたお金を返済する金利が上がるということです。

今の日本は、政府が借用証書である国債を発行し、大部分は国内の貯蓄余剰によってまかなわれています。

よって、政府の利払い増加そのものは、デフォルトした他国と異なり、海外投資家ではなく国民への返済負担の増大を意味します。

すなわち、この観点においては「海外投資家が政府への貸付をやめる、返済を求める」といった強硬的な手段で迫られることは考えにくいとは思います。

ただし、ここで冒頭の通り「タイミングが悪い」と思った背景に「先日発表された経常収支が大幅な赤字だったこと」があります。

出所:日本銀行「国際収支」、内閣府「国民経済計算」より筆者作成

先日の記事(後段の関連記事)で説明した通り、経常赤字が仮に今後続くと、「国内は貯蓄余剰」だった状態が、徐々に「国内資金の流出」を意味することになります。

国内の貯蓄余剰によって政府債務の増大がまかなわれてきた日本ですが、経常赤字が続いて国内の貯蓄が減少すれば、いずれ海外投資家に国債の買い手として依存しなければならないシナリオが浮上してしまいます。

こうなると、日本の信用力を支えるとされる①対外純資産 ②経常黒字のうち1つが片手落ちとなってしまいます(日本円は米ドルと異なり基軸通貨でないため、米ドルほどの無条件で海外投資家から継続的にグローバルアセットとしての国債需要による財政ファイナンスは期待できません)。

このようなケースでマーケットがどう動くかです。大きなフローが生じ始めるとイヤなところです。最悪のシナリオは、往時のギリシャやトルコ、アルゼンチンのようにデフォルト懸念が増大することになってしまいます。

食の安全保障が揺らぐ

以上は金融面でした。

次は私たちの日々の食卓に関連することです。これはぜひ一度かんがえていただきたい問題です。

円安が起きれば輸入物価が上がります。

日本の食料自給率は、カロリーベースでわずか37%です(令和2年時点)。

食の欧米化が大きな要因となって、食料自給率は1965年の73%から低下の一途。食の大半を外国に頼ってしまっているのが現状です。

円安が加速すれば、あらゆる輸入コストが上昇することになります。たとえ国内で生産する農産物であっても、外国飼料を用いていれば、コストは上がります。

輸入コストの観点に加え、いま起きている有事の際、「食」はどうなるでしょう。

当たり前ですが、どの国だって、自国ファーストです。

いざ危機が起きれば、傀儡政権でないかぎり、自国民より優先して他国のために食料を輸出する国はほぼないでしょう。

ウクライナ危機以降、第二次大戦前の「ブロック経済」のような状況に似てきました。

西側諸国の金融決済網「SWIFT」がある一方、中国が中心となって構築されつつある「CIPS」があります。

これには、米国に敵対するイランなどアラブ諸国やロシアなどがすでに前向きかまたは加わっていることが以前より指摘されています。西側の決済網からなんとかして独立することは、反米的な国・覇権を目指す国々にとっては悲願であり必須事項といえます。

ブロック経済になると、第二次大戦前のように「資源を持つ国」と「資源を持たざる国」でより明暗が分かれるのでしょう。

当然、悲しきかな日本は後者のままです。全ての根幹は「食」であり、食の安全なくしてはなにも始まりません。

円安と地政学リスクによって、その食の安全保障における危機が顕在化したと言ってよいのではないでしょうか。

エネルギーも食も他国に依存する日本にとって、円安の加速と地政学リスクは直接的に国民の日常生活に負の影響を受けることが考えられます。

もちろん、国内に輸出産業が健在で供給力に制約がない等の前提条件が成り立てば円安にも応分のメリットもあることを併記します。しかし今の日本は貿易で稼いでいるのではなく海外子会社からの配当金などの所得収支で稼いでいるのが近年で起きた変化です。

私たちにできること

  1. 日銀の債務超過
  2. 政府の利払い増加
  3. 食の安全保障が揺らぐ

この3つのうち、上2つについてはマクロ的な金融の話なので私たち日本人ができることは限られているかもしれません。

しかし最後のひとつ、これは私たちにできることは多々あるのです。

まずは日本の農産物、海産物といった国内の製品を大切にすることではないでしょうか。応援することです。優先して買うことです。

安いから海外産、ではなく。これは排外主義ではなく、安全保障の確保です。

値段が問題になるなら、地方の農家民宿に泊まって、農家さんと知り合い、直接購入させていただくのもひとつです。

自国の食は自国の人々から得ようという安全保障を一人ひとりが平時から構築しようとすることです。家庭菜園もひとつです。地方移住で電気・ガスなどのエネルギーへの依存度や、自作によって食への依存度を減らすのもひとつです。

私もFIREして以降、農業にたずさわりました。日本の農家の方々の話を聞けば聞くほど、そう思うのです。

農家の方々を応援するには、私たち消費者一人ひとりが賢くなる必要があります。良いものを守り、なにかを淘汰できるのは私たち消費者でもあります。

先日鹿児島の農家、漁師の方々ともお会いし、一晩中お話を拝聴する機会がありました。

その方達が切に訴えていたのは、

  1. 農家がどれだけ心を込めて作物を育てているか
  2. 海外と比べどれだけ品質に気をつけているか、細やかな体制をJAが確立しているか
  3. 輸入自由化でどれだけ食の安全保障が傷つき、農家が耕作地を放棄せざるを得なくなったか
  4. 食育というものがいかに大切か
  5. 日本人に合った日本食がいかに大切か
  6. (海外でも使用される)食品添加物にいかに潜在的な危険があるか

こういうことでした。

本当に頭が下がる思いでした。細かく、丁寧に行き届き、そして自然にも配慮された農業、こういうことができるのはこの方々ならではなのではないでしょうか。この農家さん達のお話は別途まとめる予定です。

身体は食べたものでできています。思考力など、人間のあらゆる能力にも関係してきますね。

私たちはもっと食に対して注意を払い、理解を深め、そして日本の現状に危機感を持つべきだと思います。

食品や調味料の原材料への理解を深め、パッケージの裏を見てチェックする。日本食を大事にする。日本の農産物を大事にする。日本の海産物を大事にする。コンビニ食ではなく、食品添加物や農薬の少ない国内産品での手料理を大切にする。

そういう丁寧な暮らしを取り戻すべきだと思います。これは私たち一人ひとりが明日からでも意識または実践できることです。

危機というのは、今まで置き去りにしてきたことを見つめ直すチャンスでもあります。

国家の主権者は政治家ではなく、それを選ぶ国民である以上、国民一人ひとりの声と行動がマクロ環境を動かすことにもつながります。

ぜひ、みなさまが日々の食卓から見つめ直すきっかけにでもなれば、幸いに思います。

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