静かに進む円安で気になること

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静かに進む円安、ドル円は117円を超える

ドル円が117円を超えてきました。

一昨日や昨日は特段の材料は見いだせなかったなかで、静かに進んだ印象です。

本来であれば、先進国通貨の中でもインフレ率が高い米ドルに対して、相対的に(まだ)インフレが進んでいない日本円は強含んでも良いはずです。

ところが実際にはそうなっていません。むしろドル高円安に振れています。ここが個人的には気になるところです。

経常収支は赤字に転落

3月6日に発表された日本の国際収支統計は個人的には驚きを持って受け止めた数字です。

1月の経常赤字1.1兆円、原油高で過去2番目の赤字幅(日本経済新聞より)

エネルギー価格の上昇により、資源輸入国である日本は直接的に負の影響を受けています。

原発再稼働の是非は別として、以前は原発で20%ほど国内エネルギー消費をまかなっていたのが、現在は一けた台。相対的に増えたのは天然ガスや石炭の輸入。資源価格が上昇すれば、日本の国富も比例して流出する構図が以前よりさらに強まっています。

ちなみに、日本がロシアへの制裁として天然ガスを買わなければ、中国が買ってくるのでしょう。中国からすればロシアに恩を売れ、割安に買えるチャンスとも考えられます。上をめざす国家首脳が考えることは、往々にしてしたたかです。国際社会とは理念より利害で動きやすい、残念ながらそういう側面がありますね。

経常収支の赤字が意味すること

経常収支とは、通貨の信認を担保するに重要な指標と理解します。

日本の輸出産業の海外移転または競争力の変化等によって貿易黒字は貿易赤字に転じ、そして所得収支の黒字で経常黒字を保ってきたのが近年の日本の国際収支といえます。

以前の記事をご参考に供します。

過去記事より抜粋
経常収支を理解する

そもそも経常収支とは、教科書的には以下の等式。

経常収支とは
  • 経常収支 =
    所得収支+貿易収支+サービス収支+経常移転収支

経常収支とは、外国との取引を記録したもので、経常収支が黒字であるということは、

  1. 輸出」>「輸入
  2. 配当金の受取」>「支払

などの要因により、外国への支払い以上に受け取りがあり、国内の資金余剰を示すとされます。

部門別バランス推移(企業・政府・家計・経常収支)

近年の日本は、家計・企業部門が資金余剰で、政府部門が資金不足という状況。総体的には、先述の通り、政府部門の財政赤字は、家計・企業部門でカバーされています。国内の資金余剰、つまり経常収支の黒字ですね。

出所:日本銀行「国際収支」、内閣府「国民経済計算」より筆者作成

仮に今後、経常収支が継続的に赤字になれば、企業部門と家計部門で政府部門の赤字(国債)をいずれ賄えなくなることが示唆され、海外からの国債購入に頼るリスクが意識されやすく、金利の低位安定にはリスク要因になると考えられます。

経常収支が黒字のあいだは取り沙汰されないでしょうが、継続的な赤字となると、リスクが意識され始めることが考えられます。リスクが顕在化する段階ではなく、意識されはじめた時点でマーケットは動き始めます。

日本のハイパーインフレのリスク評価と対策【部門別バランス・経常収支】

日本の通貨信認を支える要素に、経常黒字に加えて、世界一の対外純資産の多さ(ただし、ドイツが抜くのも時間の問題。ドイツにとって割安な通貨ユーロを武器に輸出増が背景)をみずほ証券の唐鎌氏などもよく挙げられています。

ただマーケットの怖いところは、大きなフローがひとたび起こると、なかなかその潮流を変えるのが難しいケースがあるということですね。

仮に円安が進み、多くの人々が円を信認せずに外貨に換え始める実需が喚起されると、対外純資産が多かろうと、それは市場の大きなうねりになってしまうケースが考えられます。

そして円安が進むということは輸入インフレ、コストプッシュ型のインフレが起き、それが通貨価値の毀損を招き、また円安スパイラルにつながるリスクが考えられます。

また、もう1点、感じる変化としてはリスク回避の円買いが近年みられなくなってきています。ウクライナ侵攻でもそれらしい動きがみられていません。これについては、海外投資の流れとして企業部門では、以前の「外債購入(証券投資)」から「海外企業の買収(直接投資)」へとメインが変わってきているので、直接的に「円が安全資産ではなくなった」とは結論づけられないと考えてはいますが。

常に悲観論者になる必要はかならずしもないと思います。ただし、予期しないことが起こるのがマーケットです。ですから、バランスよく客観的にリスクとして頭に入れておくことは重要だと思います。それが投資判断の成否を分ける要素にもなると感じています。

以上が円サイドから見たお話です。ドルサイドから見れば、ドルインデックス自体が上昇しています。有事のドル買いとはいえ、インフレ通貨であるわけですから、意外性を持って見ています。

いずれにしても、経常赤字と財政赤字を抱えながら金融緩和を進め、インフレが高止まりする米ドル、そして上述してきた日本円。どちらも投資先として以前よりも微妙な側面が出始めている気がしています。リスク分散としては、現物資産(不動産、貴金属などコモディティ)への分散は引き続き選択肢にはなってくると考えています。

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