米国株投資で円高による目減りリスクをどう考えておくか
米国株投資の円高リスクについて記します。
「金融市場全体のリスクに対してどう向かい合うのか」という広範な問いへの答えにもつながることです。
究極的には金融市場・金銭への依存度を減らすことにあると思います。ゼロにすることは難しくとも、減じることは可能と思います。
題名: 米国株(ETF)配当金が円高で目減りするリスクについて
メッセージ本文:
三菱サラリーマン様
いつもブログを愉しく読ませて頂いております。
私は全世界株式インデックスの積立投資をしておりますが、米国高配当ETF積立によるFIREを目指す投資法にも大変関心があります。
そこで感じた疑問ですが、三菱サラリーマン様は 配当金>生活支出 を達成された中で、大幅な円高により配当金が減り生活に影響を与えるリスクをどのように考えていらっしゃいますか?
アベノミクス以降ドル円は概ね100円〜120円範囲内に収まっていますが、例えば十数年後極論50円〜70円の範囲内で推移する可能性もゼロではないと考えています。こうなった場合、円換算の配当金は想定の半分近くになるので、ギリギリFIRE生活をしている人などにとっては大きな影響を与えると思います。
現在FIREに向けて米国高配当株投資をしている人へのこのリスクに対するアドバイスも含め、三菱サラリーマン様のご意見をご教授頂ければ幸いです。
質問とは関係ありませんが、三菱サラリーマン様のブログは本当に毎日楽しみに拝見しております。投資に関する記事はもちろん、精神性を学ばせて頂ける記事も大変勉強になります。ありがとうございます。
米国株投資による円高リスク
米国株投資でFIREなどをめざして資産形成する場合、ドル円の為替レートはたしかにリスクになり得ます。定期取り崩しでも配当金でも、円高になれば円換算額は目減りします。
過去の経緯をたどれば、市場が株安(リスクオフ)になる際は円高も併発しました。株安20%でも、円高も10%起これば、円建て資産は28%下落(0.8 × 0.9)です。
日本の米国株投資家は、仮に米国株に暴落が起き、さらに円高が併存した場合は資産が一時的にせよ大きく毀損されることになります。これはまず留意しておきたいところです。
ドル円購買力平価
下図はドル円の購買力平価と為替レート推移です。(出所:国際通貨研究所)
ドル円レートは、概して輸出物価と消費者物価のあいだで収れんしており、足もと69~111円のレンジです。2021年5月時点では70~116円でした。現在はレンジを上抜けているため、過去の傾向からは円安にかなり振れた状態。いずれレンジ内への揺り戻し(円高)が起きてもおかしくはありません。
マクロ的な観点
マクロ的な観点を確認しておきます。
円が安全資産であり続けるかどうか
日本の経常収支が赤字に転落し、対外純資産の動向に変化等がないかぎりは、円が安全資産であるというロジックはまだ成り立ちやすいとは考えられます。「まだ」と書いたのは対外純資産の増加ペースは近年鈍化しており、加えて経常収支が仮に赤字に転落すれば円が安全資産である根拠が薄れるリスクが高まるからです。現在の経常収支は以前のような貿易収支ではなく所得収支の黒字に頼っており、いわば「高度成長時代の遺産に頼っている」ともみなせます。遺産を食いつぶしたシナリオは考えたくありませんが、将来的に起こるリスクは存在するでしょう。
前段の前半部分について逆に言えば、高水準の規模で対外債権国で、経常収支が黒字でないと、巨額の債務を正当化しづらいのではないかと(純債務ベースでは健全という見方もありますが)。
いずれにしても円が安全資産であると国際市場からみなされ続ける等のケースにおいては、リスク回避的な円買いの潜在需要はある(つまり株安と円高が併発する)と考えられます。
米ドルの基軸通貨としての絶対性が揺らぐかどうか
ただし他方、米ドルは貿易赤字と財政赤字の双子の赤字が続き、資金が流出し続けています。レーガン政権時代を彷彿とさせますね。加えて現代は当時の高金利政策どころかFRBは金融緩和を大規模に進めてきました。
米国がいくら債務を増やそうとも限界点を超えないかぎりは、ドル買い需要は一定以上かならず存在するのが今の世界の国際通貨体制であると理解しています。米ドルが決済通貨としても主流である基軸通貨であることが要因として挙げられます。日本や中国も今まで貿易黒字で稼いだ米ドルは結局は米10年債等へ再投資することになってきました。米国債やS&P500がグローバルアセットであり続けるかぎりは、日欧の投資家からのドル買い需要も一定以上は存在し続けるでしょう(対象が米10年債なら長期金利の下押し圧力にもなります)。
しかしそれも双子の赤字が加速化したり、長期金利の高止まりや、米国の覇権に疑義が生じれば限界を迎えるリスクは想定しておきたいところです。これらの観点からは長期的にはドル安シナリオのリスクも踏まえて、分散された資産ポートフォリオを構築したいと個人的には思っています。
とはいえ円安がそれ以上に進行すればドル円で見た場合は全体として円安ということになるわけですが。
いずれにしても、日本の対外純資産の構造に変化が見えるなか、今後はリスク回避の円買い(円高リスク)よりも、米ドルそのものの米国由来のドル安のリスク(上述の「双子の赤字・金利・覇権国としての揺らぎ」など)を主として意識したいところです。
関連記事:日本の31年連続「世界最大の対外純資産国」に黄信号…円は安全資産でいられるか? 背後にドイツが迫る
関連記事:揺らぐ「リスク回避の円買い」 対外純資産迫る2位転落
関連記事:主要通貨購買力平価[ドル円]
円高リスクに対する選択肢
では円高リスクに対してどのような選択肢が考えられるでしょうか。
日本株
円高になって円建て運用益が減るリスクを想定する場合、資産運用という観点からは日本株も選択肢にはなります。
ただし日本株は東証1部の中でも収益力・ガバナンス・成長性など格差が大きいので個別株投資が穏当だと考えられます。すると、ETF・投資信託にくらべて敷居はやや高くなりますが、直接的な為替リスクは表面上は避けられます。
同じ株式なので、市場局面に応じて個別株の選別を適切に行えないと、為替リスクは減らせても全体的なリスクは減らせないことには留意しておきたいところです。
ドル円ヘッジ
FXでドル円ショートでヘッジをかけておくことも一案と思います。
レバレッジはかけずに1倍程度にしておいた方が安心ではあります。レバレッジが低いほどヘッジにかける資金はその分拘束されることになります。
ほかの資産クラスを持つ
観点を資産運用以外に向けると、事業所得や不動産投資によるキャッシュフローを得ておくことも分散になります。リスク分散の観点からはゴールドもひとつでしょう。
実質利回り7%の物件であれば、5年後に7割でしか売れずとも利益は残ることになります。教育・産業・自然資源などの観点から需要が強い地域は有力ですね。
究極的には…
あとは究極的には、自活能力を高めることです。作物を育てる能力、家庭菜園ができる土地、有事の際に転居できる土地などを確保しておくと、そもそも金銭的な心配はやわらぐと思います。金銭的な心配というのは描くシナリオによってキリがなくなるのです。
作物を譲り合って、日本らしい互助的な文化を守る。自然豊かな土地でもこういったことは可能です。
こういった人間らしい生活というのは、充実感・幸福感をダイレクトに感じられると思います。ある意味で当然かもしれません。人間はそうやって生きてきたからです(ただし心理学?的には人間がそうやって生きてきた=幸福を感じる、という等式はバイアスがかかったものなのだとか)。
あとは語学能力や人的資本(・社会資本)を養って、いかようにでも生きていける領域を広げておくこともひとつですね。
金融市場にも会社にも国にも依存しすぎない方策を個人レベルで立てておくことが、真の自立を得ることにつながる気がしています。そういう人が増えれば社会レベルでも健全になりやすいのではないでしょうか。
Best wishes to everyone.
関連記事
究極的には、やはり生き方がどうあるかということだと思います。
はたらく意味ですよね。そういったことを考えられる、ある意味で恵まれた時代かもしれません。
自然循環型のものを多く見つけておくと、「なにかあってもなんとかなる」と思えるのではないでしょうか。