日本のハイパーインフレのリスク評価と対策【部門別バランス・経常収支】

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日本のハイパーインフレのリスク評価と対策【部門別バランス・経常収支】

ハイパーインフレに関する質問をいただきました。

以下ガチ回答にて長くなりました(笑)内容的に一部難解かもしれません、ご容赦ください。

まずハイパーインフレとは、「急激に進行するインフレーション(物価上昇、貨幣価値の毀損)」のことであり、日本でも議論の対象になりますね。

インフレが起こった際に金融資産が現預金に偏在していると、資産全体の価値が大幅に目減りします。

よって、資産保全のためにも株式・不動産(・純金、暗号通貨)といった一定のインフレ耐性のある資産に分散しておく方が無難だと考えられます。

さて、以下ご質問をいただいています。

ご質問

題名: ハイパーインフレ・預金封鎖への対策について

メッセージ本文:
穂高 唯希 様

いつもブログ楽しく拝見しております。穂高様の鋭い分析と美しい文章表現に日々感動しております。
著作も素晴らしく、投資友達にプレゼントしたほどです。

大変唐突で恐縮なのですが、日本におけるハイパーインフレの可能性と、その対策について穂高様のお考えを伺いたいです。

といいますのも、私もFIREを目指しており、アメリカ株に資産のほとんどを投入する
フルインベストを行っています。

当方の居住地域は田舎なので、畑もあり、自給自足的なライフスタイルを送ればセミリタイアは十分実現可能と考えており、そこに対しての不安はさほどないのですが、もし日本がハイパーインフレなどになり、戦後の預金封鎖資産課税のようなことが行われたらどうしたらよいかについて悩んでおります。

ゴールドへの投資は利息を産まないというデメリットがあるし、外貨を現物で大量に持つのも防犯上ちょっと危ないかも?と思いますし、株の口座はマイナンバーなどと紐づけされて資産課税の対象になるかも?などとの不安にさいなまれております。

悩める子羊のわたくしめですが、穂高様のアドバイスをお願いいたします。

日本のハイパーインフレを考える

ハイパーインフレを考える際には、以下がポイントと思います。

  1. 1国全体で見た部門別バランス
  2. 経常収支・財政赤字
  3. 外国人投資家の保有比率(≒金利上昇リスク)

政府債務と民間資産

まず日本のケースでは政府債務の規模が象徴的ですね。

その債務規模も根拠に「円に対する信認の低下 → ハイパーインフレ」というのが、日本での一般的な論理展開と思います。

日本の金融機関等(=預金や保険料という形で間接的に金融機関を通して国債を負担・保有している日本国民と同義)、つまり家計金融資産が政府債務を下回ることが現実味を帯びた時に、ハイパーインフレリスクが意識され始める時期だと思います。

現在、

  • 政府:約1,200兆円
  • 家計:約1,800兆円

であり、上記論理展開における差し迫ったハイパーインフレリスクは高くないと考えられます。

もっとも、国内(国民)によって国債発行が賄われ、国民が海外など対外資産向けに貯蓄を大きく取り崩すといった国富の大規模な流出がないという前提条件付きです。

この条件下では、国債の金利上昇分(政府債務上昇要因)は、国民の受取利子上昇分(家計資産上昇要因)で相殺され、理論的にはバランスが保たれます。

もし、政府債務が家計金融資産を上回ることになれば、日本国内で円建て国債の新規発行を引き受けきれない・消化しきれない事態が意識され始めるでしょう。

すると、以下2案が考えられます。

  1. 外国人投資家に国債を購入してもらうか、
  2. 日銀が国債の購入量を増やすか、

外国人投資家の国債保有率上昇リスク

外国人投資家の持ち分は増加傾向ですが、仮に、外国人投資家の持ち分が大きく増えると、懸念されるのは何らかの事象をきっかけに(例えば政府債務が家計金融資産を超える際に)売り浴びせに遭う可能性があります。

すると、国債価格が下落(=クーポン/利回りは上昇)し、新規発行時の利払い負担が増え、悪循環に陥いると想定されます。

この利払い負担に耐え切れなくなると、「デフォルト宣言」に繋がりやすくなるでしょう。

「外国人投資家の国債保有比率」と「金利上昇リスク上昇」は比例

ちなみに、フィスコのレポートによれば、「外国人投資家の国債保有比率が20、30、40%の場合、公的債務が金利に与える限界影響は1.7、3.3、5.5ポイント」とあり、外国人投資家の国債保有比率が上昇すると、債務額による金利上昇リスクが高まることを示唆しています。

国債保有比率(外国人) 金利の限界影響
20% 1.7
30% 3.3
40% 5.5

日銀の国債保有率上昇リスク

「自国通貨建て政府債務を拡大すれば、生産力上限まで経済拡大可能」、つまり、その手段として中央銀行(日本で言えば、日銀)による財政ファイナンスも解決の一手になり得る、という理論もあります。

日銀が国債を購入するという財政ファイナンスが採られると、ハイパーインフレなしの財政ファイナンス継続可否がポイントと思います。

ちなみに、以下が財政法第五条であり、日銀の国債直接引き受けを禁じる内容です。

『財政法第五条  すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。 』

日本は市中銀行が一旦引き受けるという間接的引き受けが行われてきたわけですが、直接と間接に大きな違いはないと理解します。一旦銀行が経由するか否かというだけで、そこに本質的な差異は見いだせません。

日銀がどこまで国債を引き受けた場合に、財政ファイナンスという単一の観点からは臨界点を突破するのか、あるいはハイパーインフレという臨界点がそもそも存在するのか、ここが今後どうなるかは不透明。

というのも、結局マーケットがどう見るかが決定的な要素だからです。理論的にアウトであっても、だれもマーケットから降りなければ影響は限定的です。

しかし、以上述べてきたことに倣えば、国内で賄えている限りはいくら日銀が大量に保有しようとも、売り浴びせによる金利上昇リスクは高くないと考えられます。国内機関投資家が自らの足をすくうような行為に走るのも考えづらい。

経常収支と財政赤字ファイナンス

また、国内で国債発行を賄えるかを考える際に、経常収支にも気を配っておいてもよいと思います。

経常収支を理解する

そもそも経常収支とは、教科書的には以下の等式で成り立ちます(KO吉野直行先生・現名誉教授の授業を思い出します)。

経常収支とは
  • 経常収支 =
    所得収支+貿易収支+サービス収支+経常移転収支

経常収支とは、外国との取引を記録したもので、経常収支が黒字であるということは、

  1. 輸出」>「輸入
  2. 配当金の受取」>「支払

といった要因により、外国への支払い以上に受け取りがあり、国内の資金余剰を示します。

部門別バランス推移(企業・政府・家計・経常収支)

近年の日本は、家計・企業部門が資金余剰で、政府部門が資金不足。総体的には、先述の通り、政府部門の財政赤字は、家計・企業部門でカバーされています。

出所:日本銀行「国際収支」、内閣府「国民経済計算」より筆者作成

国内の資金余剰、つまり経常収支の黒字を意味します。

仮に今後、経常収支が赤字になれば、企業部門と家計部門で政府部門の赤字(国債)を賄えなくなることが示唆され、海外投資家の国債購入に頼ることが意識され、金利の低位安定にはリスク要因になると考えられます。

経常収支が黒字の際は取り沙汰されませんが、継続的な赤字となるとリスクが意識され始めるでしょう。

コロナ禍で急増する財政支出それ自体に、直接的な影響はなし

ちなみに、昨今はコロナ対策という名の下、財政出動が急増し、政府債務は引続き増加の一途です。

ただし、その場合には、国全体を1つの対象として見る必要があります。たとえば、Go toキャンペーンなどは、政府資産を民間に移転する性質のものですね。

コロナで弱っている業種に対する補助金のような意味合いの場合、政府支出が1兆円増えたとしても、ホテル・飲食業など特定業種における民間収入が約1兆円増える場合、1国全体ではバランスします。(公共事業も乗数効果(≒波及効果)を考慮せずとも同様のことが言えます。)

そのため、国全体として見ればプラスマイナス0であり、Go to キャンペーンという単一の事象で見れば、「デフォルト → ハイパーインフレ」という論理展開を前提とした場合には、デフォルトに対する影響がポジティブでもネガティブでもなく中立であるため、ハイパーインフレに対しても中立との考えです。

ハイパーインフレに対する対策

とはいえ、Xデーはいつ訪れるか不明なため、

  1. 海外の金融機関に資産を移す(たとえば三菱UFJのユニオンバンクなど)
  2. 金庫に純金を保管
  3. 暗号通貨の保有

といった方法を、私の知人・友人はしている人もいます(米ユニオンバンクは、MUFGが買収。ほか海外金融機関より手続きは簡便)

私も以前、ユニオンバンクで資料を取り寄せたことがあります。渡米せずに口座開設が可能なので、海外口座ながらハードルは高くありません。

いざ現実となると、社会的に混迷を深めるでしょうから、対策がどこまで効くのか不透明な部分もあります。資産課税は、海外の金融機関に及ばない見方もある一方で、送金時に課税される可能性もないとは言えません。また、純金の換金が正常に行われるのか、媒介手段として機能するのかも不明です。

ただし、あまりに不透明な部分が多すぎる、且つ切迫性を感じないリスクであれば、私は以上を踏まえて過大評価せずというスタンスです。

まとめ:現状、ハイパーインフレのリスクは過大評価せず

あくまで現時点ですが、ハイパーインフレについては、政府部門・民間部門の両部門をバランスした1国全体の観点からは、差し迫ったリスクを私は見いだせません。

仮にそういったリスクが現実化した場合、頼りになるのは自身の生存技量ですね。お金とは本来媒介手段でしかないので、そもそもそれ以上でも以下でもなく、直接的には本来関係ないと思います。

作物を作る知識、つまり農業であったりご質問者さまのように畑を保有していれば、治安が脅かされない限りは食の調達に寄与しそうですね。

資本主義という社会システムでは忘れそうですが、ハイパーインフレのリスクを突き詰めて考える場合、結局はお金・原始的な生き方にも思いを馳せることかもしれません。

Best wishes to everyone!

純金つみたてについては、私はやっていましたが、今はやっていません。これからやるかもしれませんが。

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