為替相場はドル円だけではなく、クロス円も見て初めて分析できる
私は中2から為替取引を開始していたことは、自己紹介の記事で述べた通りです。
そしてKOでは、日銀の人が行う講義は傾聴していました。
為替相場を見るときはクロス円も見よう
そんな私がモーニングサテライト等を見ている時にしていることですが、決してドル円だけを見ずに、ユーロ円やクロス円も同じぐらいの重要度で以て見るということです。
例えば、ドル円が上昇した理由として「FRBの利上げ観測を受け、米国金利上昇により米ドルが強かった」を挙げた際、ユーロ円も同様にドル円と同程度上昇していたらどうなるか。
これはドル高というよりも円安ですよね。
ドル円がクロス円と比較しても独歩高になっていたなら上記理由付けは意味を成しますが、クロス円も上昇していたならば、説明になっていません。ドル円上昇理由が米金利上昇であるならば、ドイツの金利が同様に上昇していないと、ユーロ円上昇の理由にはなり得ないと結論づけられます。
クロス円も見ずにドル円だけを見たであろう解説というのは、実はメディアで驚くほど多くなされています。しかし、必ずユーロ円やポンド円などのクロス円も見た上で、ドル円を見る癖をつけましょう。さもないと結論や理由が非常にとんちんかんなことになってしまいます。
先の欧州危機の最中、豪ドル円やスイスフラン円も上昇しているにも関わらず、ポンド円とユーロ円のみをピックアップし、その上昇理由として「欧州危機の悲観シナリオが和らいだため、英ポンドとユーロが強かった」とする解説がありました。
しかしこれはポンドやユーロが突出して買われている場合を除き、ポンド高・ユーロ高ではなく、単に円安であるということです。
ここまでお読みの方は、もうお分かりかもしれませんが、ドル円が上がったら「円安ドル高」と言ったり、単に「円高方向に進んでいます」とキャスターは言います。これが本当に円高によるドル安である場合には正確ですが、単にドル安であるのに円高方向という言い方をすると、厳密にはとんちんかんな形になってきます。
間違いではないのですが、厳密にはドル安なのか円高なのか、どちらなのかで為替相場を俯瞰する上で、結論が全く変わってくるので、ここは重要なポイントだと私は思います。
このように本当はドル安なのに、円高と解説されたり、円高ドル安と一括りにメディアにされると、後々この解説に矛盾が生じるので、「為替相場は意味不明なもの」と思われても仕方がありません。
まとめると以下の通り。
- ドル円が上昇し、クロス円が下落していたら、それは円安ではなくドル高。
- ドル円が上昇し、クロス円も上昇していれば、円安。
- ドル円が下落し、クロス円が上昇していれば、ドル安。
- ドル円が下落し、クロス円も下落していたら、円高。
上記4ケースはユーロドルも見れば、一目瞭然でしょう。これがまず為替相場を見る上での基本だと思います。
リスク回避で円高になるメカニズム
それではいよいよリスク回避でなぜ円高になるのか、について。
まず為替市場を分析する上で大事になってくるのは、「資本フロー」だと私は考えています。
どういう時に、どのような方向に「資本フロー」が生じるのかがポイントであり、この基本さえ押さえてしまえば、応用が効くのではないでしょうか。
資本フローを理解する3つのポイント
この資本フローを理解する上で重要なポイントは以下の要素。
- 日本は対外純資産が世界最大の債権国
- 日本の経常収支は中国に次いで世界第二位の大幅な黒字(為替規制のある中国を除外すれば実質一位)
- 日本は金融資本の出し手としての規模は米国ほどではないにせよ大きい
上述のポイント3つが意味することは各々下記の通りです。
- 対外純資産が世界最大ということは、外貨建ての資産が多いということです。ここでリスクオフ局面が起こり、手元資金を厚くしようとなれば、外貨を売って円を買う必要がある為、円高圧力。
- 経常収支が大幅な黒字ということは、外貨建ての資産が増えていくということです。つまり、円として日本の本社に還流するには、外貨を売って円を買う必要がある為、円高圧力。
- 金融資本の出し手として、世界に対して直接投資/対外証券投資を行う場合、当然外貨建てで普段投資を行っています。ここでリスクオフ局面が起こり、手元資金を厚くしようとなれば、外貨を売って円を買う必要がある為、円高圧力になります。
以上の理由から、リスクオフ局面になると円高が起こるということになります。これがリスクオフでの円高のメカニズムとされます。
リスクオフ・リスクオンというよくメディアで用いられるある種”曖昧なワード”は、上述のポイントを知った人が聞けばそのワードの背景まで理解した上で噛み砕いて理解しやすくなります。
「消去法的に安全通貨の円が買われる」などとまことしやかにメディアでよく言われますが、機関投資家や顧客の資産を預かる企業体が「なんも買うもんないし、消去法的に円買うか・・・」なんて行動をするでしょうか。
先述の”資本フローを理解する上でのポイント3つ”を更に一般化して応用しやすくするようにすると下記の通りになります。
- 当該国が、対外的に債権国or債務国
- 当該国の経常収支が、黒字or赤字
- 当該国が、投資資金の出し手なのか受けてなのか
ちなみに2016年に起こったニュージーランドのクライストチャーチでの地震直後はNZドル高ではなく、NZドル安になりました。3.11の東日本大震災の時は大幅な円高が起こったこととは対照的です。
なぜニュージーランドの地震でNZドル高ではなくNZドル安が起こったか?
それは上述3ポイントが全て日本と反対だからです。
- 当該国が対外的に債権国or債務国 → NZは対外債務国
- 当該国の経常収支が黒字or赤字 → NZは経常収支が赤字
- 当該国が投資資金の出し手なのか受けてなのか → NZは受け手
よって、当該国の機関投資家を含む企業が手元流動性を確保しようと、平常状態との反対行動が起こり、ニュージーランド(NZ)の場合はNZドル安になったのです。
リスクオンで円安になる理由
更に「3.当該国が投資資金の出し手なのか受けてなのか」については、リスクオン時に円安要因に関係してきます。
たとえばS&P500指数・ダウ平均・NASDAQ3指数共に上昇するような、リスク選好的な市場環境の時になぜ円安が進行する傾向にあるのか?
それは、市場環境が良い時に、日本の事業法人や個人投資家、機関投資家がリスクを取って対外投資を行うからです。そしてこれは日米のように豊富な手元資金を持つ国家では、対外投資の規模がその分大きくなるため、日米は市場環境が良い時に自国通貨を外貨に換えて対外投資を行う傾向があります。
故にリスクオンでは円安になる傾向があると。
投機筋のポジションは長期では相殺される
また、海外投機筋によるポジションは先物の取引所として有名なシカゴマーカンタイル取引所(CME)で取引される先物ポジション(シカゴIMM通貨先物ポジション)の積み上がり具合もよく為替相場分析で引用されますが、これは結局いわばゼロサムであって、買いポジションが積み上がれば将来の売り圧力になるだけです。
つまり、将来的にはいずれかの時点で相殺されます。
なので、私はどちらかと言えば、上述したポイントに挙げたようなファンダメンタルズの部分の資本フローに着目するわけです。
とはいえ、10年単位の長期的な展望を分析するには、各国のインフレ率の差異に注目する必要があります。円キャリー取引という金利要因の側面もあり、別途詳述します。
また、資金フローはあくまでリスクオフ・オンの際に、日本全体として手元資金を厚くする・または少なくするといった行動が前提となっています。仮に証券投資ではなく直接投資が主流で、そういったフローが起きない場合は、本記事の主旨に外れることになります。
Best wishes to everyone!
米国株投資を行う上で為替も重要な要素の1つですが、ファンダメンタルズの観点で米国経済の強さを人口・軍事・金融の面から紹介しています。
ベトナム株投資も結構おもしろいです。