逆イールド化は着実に迫りつつある
2018年12月現在、米3年金利が5年金利を11年半ぶりに上回りました。そろそろ逆イールド化(=長短金利差が逆転)が迫ってきていますので、改めて以下の点について詳述したいと思います。
- 逆イールド化とは
- 逆イールド化による景気と株価への影響
逆イールド化とは?
逆イールド化とは、長短金利差が逆転することです。
つまり、「短期金利が上昇する一方で長期金利が伸び悩むなどして、短期金利が長期金利を上回ること」を意味し、当該現象は米金融当局者の間でも景気後退のサインとされています。
短期金利・長期金利とは?
そもそも一般的に、
- 短期金利は「2年国債の利回り」を指し、
- 長期金利は「10年国債の利回り」を指します。
短期金利・長期金利はどうやって決まる?
短期金利と長期金利は各々その決まり方が異なります。
短期金利:中央銀行の金融政策
短期金利は償還期限が2年の国債利回りのため、長期的な指標や国家財政というよりは、短期的な視点、つまり中央銀行であるFRBの金融政策(利上げ・利下げ)に影響されます。
市場に供給される資金供給量を調節することで、中央銀行は短期金利を誘導するのです。
長期金利:市場が決める
一方長期金利は、中央銀行の金融政策の影響よりも、市場の資金需給が色濃く反映されます。短期金利に加えて市場参加者の予想が反映されます。
長期金利とは、短期金利に潜在成長率+期待インフレ率+リスクプレミアムを加えたものであり、平易に言えば、たとえば以下が見込まれると上昇します。
- 好景気
- 物価上昇
- 国家財政悪化等による国債発行
【逆イールド化】米国 過去30年間長短金利差推移
(1988年~2018年)
そのような中、目下長短金利差は2018年12月7日時点で0.13%まで低下しています。
以下は米国の長短金利差(米10年債利回りー米2年債利回り)の過去30年間推移です。
上図が示す通り、2018年12月7日現在で長短金利差はゼロに近づいており、逆イールド化(長短金利差の逆転)が迫っています。
逆イールド化の影響として示唆されることは以下の通り。
- 伝統的な銀行業ではネガティブ影響
- 過去逆イールド化から景気後退までの所要時間は平均約18か月
- 株価は過去30年間で3回の逆イールド化から2回の暴落
1つずつ見ていきましょう。
1.銀行に対するネガティブ影響
そもそも銀行は、短期金利で資金を調達し、長期金利で貸し出しを行うことで利ざやを確保して収益を得ます。
そのような業態にも関わらず、短期金利より長期金利が低くなると、借入利率より貸出利率の方が低くなってしまいますから利ざやが確保できませんから、銀行は悪影響を受けます。
2.過去、逆イールド化から1年半後に景気後退局面
上表は米国の長短金利差・長短金利差がマイナスとなっている部分(黄丸)及び景気後退局面の期間(赤枠)を表したものです。
長短金利差がマイナスに逆転した期間は以下の通り。(期間中にプラスに転じた部分含む)
- 1988年8月21日~1989年11月5日、
1990年4月15日~1990年5月20日 - 1998年5月31日~2000年12月24日
- 2005年12月25日~2007年5月27日
この期間前後に、3つの暴落が生じました。
1987年10月19日ブラックマンデー、01年ITバブル崩壊、07年サブプライム危機/08年リーマンショック、
01年ITバブル崩壊、07年サブプライム危機のいずれも長短金利差がマイナスになって1~2年後に発生しています。
過去長短金利差マイナス時点から起算して平均18か月後に景気後退局面入りしています。
つまり、仮に今年中に長短金利差逆転(逆イールド化)となれば、2020年には過去の経験則上では景気後退入りが予想されます。
3.過去30年間で長短金利差逆転が3回発生、うち2回は暴落に繋がっている
下表は、S&P500の推移と長短金利差の推移を並べて図示したものです。
1998年5月末~2000年12月、長短金利差逆転 ⇒ 2001年 ITバブル
長短金利差が逆転して2年以上後にはなるものの、ITバブルでS&P500は約40%暴落。
2005年12月末~2007年5月末、長短金利差逆転 ⇒ 2007年末サブプライム危機・08年リーマンショック
長短金利差逆転から2年弱かけて、サブプライム危機からのリーマンショックが起こっています。
一方、ブラックマンデーは起こった後に長短金利差が逆転しているので、ITバブル・リーマンショックとは異なるケースです。
よって、過去30年間においては、3回逆イールド化が起こっており、そのうち2回において株価暴落が約2年後に起こっていることになります。
そして去る2018年12月3日に、米3年金利が5年金利を11年半ぶりに上回りました。
米2年金利も10年金利とわずか0.13%に縮まっており、いよいよ逆イールド化が現実味を帯び始めています。
逆イールド化が必ずしも景気後退の兆しで確定というわけではないものの、投資家にとっては運用金利に見合わない調達金利になってくるのは事実ですし、実際に今年5月のFOMCの議事要旨でも、数人の参加者が逆イールド化は歴史的にリセッションのリスクの高まりを示してきたと言及されています。
ブラード・セントルイス地区連銀総裁は2018年5月、「2018年後半から2019年初めにかけて長期債利回りが短期債より低くなる「逆イールド」が起きる可能性があるとし「実際に逆イールドが起きれば、米経済にマイナスのシグナルを送ることになる」と警鐘を鳴らしています。
株式市場の調整局面というのは、循環的に必ず起こるものですから、投資家はいつそのような調整や暴落が起きても良いように、自身のポートフォリオに対して適切なリスク管理をしておく必要があります。
具体的には現金比率などの安全資産の比率を上げるなどして、各人のリスク許容度に合った運用を心掛けたいところですね。
Best wishes to everyone!
株価下落に備えて、現金比率を高めた方が良いのか、というご質問への回答です。個人的にはまとまったキャッシュフローがあるたびに追加投資に回しています。
現金比率については、各人のリスク許容度などによって変わってきますが、目安を挙げておきました。
ディフェンシブな株式でポートフォリオを固めるのも一案です。