止まらぬ円安、「伝統芸能」な文言が躍る日銀の会見

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止まらぬ円安、「伝統芸能」な文言が躍る日銀の会見

日銀の金融政策決定会合後の記者会見を経て、本日朝方にかけて1ドル158円を突破したことが衆目を集めています。

日銀の会見要旨を見ましたが、今回もご多分に漏れず不思議な文言が躍ります。一例を挙げると以下です。

基調的な物価上昇率に、円安が今のところ大きな影響を与えているということではない

としたうえで、今後、円安が物価の動きに影響を及ぼすことになれば金融政策による対応を検討する考えを示しました。

会見ではたいてい不思議な文言が躍ります。伝統芸能の域に達しつつあり。むろん明晰な頭脳集団であられる以上、建前と本音、表裏の意図は異なるものと推し量りますが。

建前となる上の文言について一応指摘すれば、日本はエネルギー(原油、鉱物など)や食料といった物価の基調に影響を及ぼす財の大半を輸入する国である以上、円安は直接的に輸入物価を押し上げることになるため、「円安が物価上昇率に大きな影響を与えていない」というのはやはり不可解な文言です。

(円安が「米国」の物価上昇率に大きな影響を与えていない、ならわかりますが。なぜなら、円安ドル高は「インフレに悩み、輸入超過の米国」にとっては好ましいからです)

頭の体操としての、2つの筋書き

ではなぜかような不思議な文言が、金融政策決定会合のたびに躍るのでしょうか。以前も記しましたが、今後も同様のことが続けば、やはり以下の可能性を否定する材料に欠くことになります。

  • インフレ税という見えにくいかたちで、政府債務を圧縮
  • 他国の意向に「配慮」

あくまで推測の域を出ませんが、いくつかの筋書きを想定し、事前に頭の体操や布石を打っておくことが、賢明な判断を下すための定石です。

インフレ税で、政府債務を実質的に圧縮

社会的な事象を見るとき、利害関係や収益構造に着目することが一手です。

では、インフレによって、だれが得して、だれが損するでしょうか。一面として、お金を借りている人(政府)が得をして、お金を貸している人(国民)が損をします。

インフレでは、固定金利の借金が有利になります。物価上昇に伴う名目賃金の上昇で税収が増えても借金の額は変わらないため、物価が上がるほど実質債務は減り、財政赤字(政府債務)が減ります

(ただし、日銀と政府を統合してバランスシートを見ると、日銀が国債を大量に購入したことで、日銀のファイナンスがおよそ準備預金であることから、政府債務の金利は変動)。

以前も記しましたが、これはインフレ税とも呼ばれ、歴史的にも財政問題はたいていこの方法で解決されてきました。現代でも政治力の不足や有権者の反対で調整できていない(後述)ため、この方法で解決される可能性があります。

最大の被害者は、貯蓄の少ない年金生活者が挙げられます。現在のマクロ経済スライド方式では、現役世代の人口減少や平均余命の伸びによって年金支給額が決まるため、物価上昇は部分的にしか反映されません。加えて、改定は年1回なので調整タイミングも限定的で、実質的な年金受給額は目減りする構造です。

つまり、最大の票田である高齢者は、インフレ税で最も被害を受ける層のひとつとなりうるわけですが、「既得権を守ろうとするほど、政府の財政健全化は遅れる」というジレンマを指摘できます(念のため申し添えますが、これは構造を指摘しているのであって、高齢者を批判する色彩は皆無です、私もいずれその高齢者になります)

なお、これまで述べてきたように、円預金のみで資産を構成する人も、実質的に資産が目減りすることになります(年を重ねるほど一般にリスクをとらないため、年齢層が高まるほど円預金の資産構成比率は高まる傾向にあるはずです)。

他国への「配慮」

先日、イエレン財務長官が為替介入に対して否定的な声明を出しました。

現在インフレが最大の経済的課題であり、ガソリン価格が政権浮揚に直結する歴史的経緯もみられる米国にとっては、「ドル高が国益となる状態である」という視点が成り立ちます。日本が為替介入(ドル売り)すれば、利害が相反するため、否定的な姿勢であるのは不思議ではありません。

為替相場は、2国間における通貨の交換比率であるため、相互に利害が一致していることが望ましくはあるのでしょう。しかしお隣の国は為替操作国に認定されようがお構いなしに介入をしています。

これが「配慮する、または歴史的に配慮せざるを得ない国」とそうでない国の違いでしょうか。日銀の政策は、「配慮」の可能性を邪推してしまうほど、表では不思議な一面がみられます。

まとめ

ということで、日銀会合を経て円安がさらに進んでいる現在、以下2つのシナリオ(可能性)について記しました。

  1. インフレ税
  2. 他国への配慮

①は今までも何度か述べてきたものです。②も扱う題材は異にすれど、これまでに述べてきたことと通底する一面です。

もっとも、そもそも利上げ余地は潜在成長率の低さから限定的で打ち手に乏しい可能性も。

現時点では推測の域を出ませんが、いずれにしても、いくつかの潜在的な筋書きを念頭におき、個々人が資産防衛を図っていくことで、いかなる状況でも相対的には賢明な未来を描きやすいものと思います。

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