静かに進む「脱・米ドル」と「金への逃避」
「脱・米ドル」を示唆するニュースが昨今増えています。
考察するとともに、実際に最新の関連データを確認してみましょう。
米ドルの「武器化」が招いた米ドル離れ
おさらいになりますが、脱・米ドルの背景として以下の経緯を指摘できます。
ウクライナ戦争以降、ロシアは外貨準備高のうち米ドル建て資産が凍結(決済が制限)されました。
つまり、「自分の資産を米ドルで持っていたがために、使えなくなってしまった」という事例となりました。
言い換えれば、「米国の意に沿わないと、米ドル資産(外貨準備のうちFRBへ預けている預金)が凍結されるリスク」が顕在化した、ということですね。
政治的手段として制限されるリスクがある通貨に対して、各国は安全保障上保有リスクを感じるでしょう。米ドル以外の通貨や金(ゴールド)を持つ動きが各国でみられます。
米国債を売り、金を買う中国
たとえば、世界最大の外貨準備を持つ中国は米国債を売り、再び金を買い始めています(出所:米財務省 Major Foreign Holders of U.S. Treasury Securities、国家外汇管理局)。
脱ドルを示唆する各国の動き
そのほか米国の同盟国であるフランスを含め各国は米ドル以外の通貨での取引を拡大しています。通貨の代替となる金は複数の通貨建てで最高値を更新しました。
- 中国、初の人民元建て決済 仏トタルとLNG取引
- インドとマレーシア、貿易をルピー建て決済可能に
- ブラジルが中国との自国通貨建て決済を発表
- ロシア・中国に加えサウジまで…「ドル覇権」亀裂の始まり
- トルコ中銀、「脱ドル」へ新たな措置 選挙後に廃止との見方も
米ドルは、1960年代に米国の貿易赤字が累積し、1971年8月にブレトン・ウッズ体制(ドルを金と交換する制度)を停止したことで危機に直面しました。しかし近年に至るまでたとえば以下のような資金循環によって米ドルと米政府債務は支えられてきたと言えます。
- 日本:対米貿易で得たドルを米国債へ投資
- 中国:対米貿易で得たドルを米国債へ投資
- サウジ:石油取引をドルだけで決済、得たドルを米国債へ投資
米国外の米国債保有者のうち日中で約3割を占めます。
米国はドル・米国債を発行し、各国からモノを買い、各国は売却代金でまた米国債(米ドル)を買う。
このような資金循環が織り成す巨額の米国債への需要をもとに、米国は米ドルの価値が保全でき、米ドルを刷って巨額の政府債務をファイナンス。こうして米国は「特権的な経済的利得」を得る構造。
ただし、とくにリーマンショックで金融がほころびはじめたあたりから、金融緩和の規模が肥大化しました。緩和をすると、企業も家計も低利で資金調達しやすくなる一方で、低金利を前提とした企業や個人は利上げで債務不履行におちいる事態も生じてきます。
貨幣供給が行きすぎれば、貨幣価値が下がるリスクも内包します。
歴史的転換といえるサウジの「脱ドル」
とくに③サウジの件は大きな転換といえます。
『ニクソン政権は1974年10月にキッシンジャー国務長官をサウジに派遣し、「王家の保護を約束する見返りに原油輸出を全てドル建てで行う」ことに合意という密約』があった(出所:日経、毎日)。
世界経済の中核資源であってきた石油取引が全て米ドルで決済されてきたところ、今般、一部人民元建てに変わったことになります。
世界の主要エネルギーで脱石油が起こった2021年あたりから、脱・ドルの可能性は指摘されていましたが、今回のドルの「武器化」でそのペースが速まった可能性があります。
もっとも、依然としてリスク回避局面で米ドルへの逃避現象が今年も見られましたし、各国の中央銀行の外貨準備高で約60%を占めるのは米ドルです。
したがって、ただちに基軸通貨としての地位を失うことは考えにくいものの、底流として徐々に広がっていく可能性は頭に入れておきたいところです。
世界の外貨準備に占める米ドルの割合は、低下している
データを確認すると、以下のように世界の外貨準備に占める米ドルの割合は緩慢ながらも低下傾向です。
「貨幣」と「現物」
- 金(ゴールド)へ分散
- 「貨幣より現物」という観点
私たちは生まれたときから貨幣経済なので、貨幣経済が当たり前だと思っています。
しかし1933年に金本位制が崩壊し、1971年に「金・ドル交換」が停止されて以降、貨幣そのものに実質的な価値はなく、担保となっているのは「信用」という観念的なものです。
現在の貨幣体制は「信用創造」といって、Aさんが銀行に100万円を預けると、銀行はそのうち90万円をBさんに貸し出すことで計190万円が記録されます。お金はある意味で霞のようなものですね。
金融資本主義から現物主義、つまり「貨幣より現物」というリアリズムが台頭するでしょうか。土地・建物・資材・食料。
日本は食料を海外に依存しすぎているため、この点はやはり承知しておきたいと思います。
最近、有機農家さんをたずねて話していたのですが、昨今は家庭菜園を始める人が増え、種の交換会も多くの人が集まるようになったそうです。
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