SVB破綻、量・質ともに金利上昇に脆弱なポートフォリオであった

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SVB銀行破綻。バランスシートと現状を確認。

最近マーケットで、SVB傘下のシリコンバレー銀行の破たんが話題となっています。

「2008年の金融危機以降で最大の米銀破綻」ということで、センセーショナルですね。

いまどのような状況なのか、確認してみましょう。結論としては、以下のようにまとめられます。

ポイント
  • SVBは、よくないタイミングで米国債の保有を増やしていた
  • さらに、中長期債が多く金利上昇に脆弱であった
  • つまり、SVBは量・質ともに金利上昇に脆弱なポートフォリオであった

ではまず、米当局の対応を、リーマンショックと比較してみましょう。資本主義の側面も見えてきます。

「銀行破たん → 信用不安 → 金融危機 → 実体経済悪化」を止めようとする金融当局

銀行が破たんしてまず連想されやすいのは、「信用不安」です。

銀行は「信用創造」といって、実際の預金額以上に融資ができ、預金額を増やせます。

たとえば、

  • AさんとBさんが、銀行に100万円ずつ預金をする
    →Aさんの預金:100万円、Bさんの預金:100万円(計:200万円)
  • Cさんがカフェの開店資金として銀行に90万円の融資を希望する
  • 銀行は90万円を融資する
    →Aさんの預金:100万円、Bさんの預金:100万円、Cさんの預金90万円(計:290万円)

つまり、実際には銀行に200万円しかお金が存在しないのに、290万円の預金が存在することになります。こうして「無」から「有」が生み出され、「創造」と呼ばれます。

このプロセスが繰り返されることで、銀行は実際に受け入れた預金額の何倍もの預金を持てます。

しかし、もし仮に「この銀行の経営はヤバい」という噂や憶測(=信用不安)が広がると、預金者は自分の預金を引き出して確保しようとします。これを「取り付け騒ぎ」と言います。

預金者が銀行預金を一挙に引き出すと、銀行は手元資金より預金額が膨らんでいる(上段の例でいうと、290万円の預金に対して、実際には銀行の手元に200万円しかない)ため、資金が足りなくなります。

今回のSVBでは、まさにその現象がみられ、WSJによると「今年に入り予想以上のスピードで顧客が預金を引き揚げ始めると、SVBは保有していた一部の有価証券を売却せざるをえなくなり、損失を計上。これが、9日の米株市場でSVB株の急落を招いた」としています。

※債券は満期まで保有すれば額面で償還されるので問題ないわけですが、資金難で債券を売却せざるをえなくなると、含み損が確定され、損失が発生

1社がこのような状態になると、たいてい「他社も危ないんじゃないか」と思うのが人間心理ですね。

今回も、SVBが破綻したことで、米国株式市場では銀行株に売りが広がりました。

この状態が進むと、不安が不安を呼び、ほかの銀行にも預金者の引き揚げが連鎖し、複数の銀行の手元資金が足りなくなり、資産売却などに追われ、現在のように金利上昇で債券の評価損を抱えている場合は満期までに損失を確定させることになってしまい、破綻するケースが出てきます。

こうなってくると、銀行はリスク回避姿勢や手元資金を確保する等の理由で、貸し出しを渋る(=「貸し渋り」といいます)ようになる傾向がみられます。貸し渋りが起きると、融資が必要な企業に資金がまわらなくなります(=「市場の流動性が低下する」といいます)。

つまり、いつのまにか金融機関以外の企業(実体経済)に悪影響が及ぶということです。これを、「信用収縮」といいます。信用創造で信用が膨張したものが元にもどるということです。

このように、金融危機や、ひいては実体経済への影響を防ぐために、金融当局は信用不安を払拭しようとします。

リーマンショックでは、米当局はどう対応したか

リーマンショックでの当局の対応は、最終的に公的資金の注入でした。

08年10月14日、米政府は「TARP(不良資産救済プログラム)」で、当時の米GDPの約5%(約7000億ドル)の公的資金を金融機関(GS:ゴールドマン、BoA:バンカメ、Citi:シティ)に注入しました。

これは、民間の債務を政府が一時的(または永続的に)肩代わりすることになります。つまり、民間債務を政府債務に一時的にせよ移転されます(なお、GS、BoAはのちに完済、Citiは6割を普通株に転換で政府と合意)

これは資本主義でよくみられる現象で、ある意味モラルハザードを生みます。なぜなら、「銀行はいくら損失を出しても、信用不安から金融危機が起こることを防ぐために、政府は最終的には救済してくれる」という実例によって、「金融機関は税金で救済される」となるからです。

今回注目に値したのは、「米財務省とFRBがどう対応するのか」という点でした。資本主義の一端が垣間見えるからです。

現時点では、「預金の全額保護」という対応を米金融当局は打ち出しています。

米当局

預金は全額保護されるので、安心してください

具体的には、「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」という新たな枠組みを作って、米国債などを担保として最長1年の融資をする、と。これは、イエレン財務長官とバイデン大統領の協議で決まったということなので、議会承認はないようですね。

また、以下の声明も出ています。

米当局

SVBの破たんに伴う損失が納税者の負担にはなることはない

つまり、「リーマンショック当時のように、銀行の借金を政府がいったん肩代わりするなどして最終的に国民負担になる、ということはないですよ」と(株主や担保なし債権者が、破たんによる損失を負う、または買収などで処理になるのでしょうか)

さすがにリーマンショックと同様に、公的資金で銀行を救済すると、納税者の怒りを買うだけでなく、資本主義のモラルハザード(金融機関だけ優遇される)が露呈します。ある意味で資本主義の面目を少なくとも表面上は保った格好といえるかもしれません。ただSVBの買い手が見つかるのかは現時点では不明です。

事態がもし悪化すると、実質国有化や時価会計の停止に追い込まれるのでしょう。

では次に、SVBの破たんに至る背景を探るべく、バランスシートを確認してみましょう。

SVB:長期債多く、金利上昇に脆弱、2022年に評価損24億ドル拡大

バランスシートを確認すると、以下のことが言えます。

  1. 保有米国債が急増した(20年:44億ドル → 21年:156億ドル)
  2. 金利上昇に弱い長期債を多く保有している

つまり、現在のようなFRBの利上げによる金利上昇局面で、脆弱な資産構成であったことがわかります。

長期債は「金利上昇に弱い」という特徴

「金利上昇に弱い長期債」と書きました。理由を以下に記しておきます。

債券は、定期預金のように、満期まで待てば額面金額で償還されます。しかし満期までの途中期間では、金利によって債券価格は変動します。

長期債ほど金利による価格変動が大きくなる(筆者作成)

満期までの残存期間(=デュレーション、といいます)が長い「長期債」ほど、金利の影響が大きくなり、金利上昇に脆弱になる構造です。

以上をふまえ、SVBのバランスシートを確認しましょう。

SVBは長期債を多く保有していた

SVBのバランスシートを見ると、

  • 米国債のうち約90%は1~5年
  • MBS(住宅ローン担保証券)のうち95%以上が10年超

ということで、長期債の割合が高めです。したがって、SVBは金利上昇に対して脆弱といえます。

債券の評価損が拡大していた

実際にSVBの「米国債やMBSの損益」を確認してみましょう。

2021年末から2022年末にかけて、約24億ドル評価損が拡大しています。

純資産が162億ドルなので、昨年末時点で資本に対して約15%毀損したことになります。その後、2023年も金利は上昇していますから、さらに評価損が拡大したと考えられます。

この評価損は売却可能(AFS:Available For Sale)な債券にかぎった数字です。時価評価しない満期保有目的債券(HTM:Held To Maturity)も潜在的に評価損になっていると考えられます。

保有米国債が2021年にかけて急増していた

また、米国債の保有額は以下のように推移しています。

  • 45 億ドル(2020年)
  • 158 億ドル(2021年)
  • 161 億ドル(2022年)

2021年に約4倍に増加。つまり、「金利上昇直前の最悪のタイミングでSVBは債券投資を急増させていた」ことになります。

以上から、債券の量・質ともに金利上昇に弱い構造であった、と言えます。

(ちなみに、同様のリスクを見越してか、日本では金融庁が2023年始に地銀に対して金利上昇に備えるよう勧告を出しています。また、メガバンクはすでに以前から長期債から短期債へシフトし、金利上昇に備えている模様。では長期債を多く持ってるのはだれか、日銀ですね)

まとめ

ということで、以下のようにまとめられます。

ポイント
  • SVBは、よくないタイミングで米国債の保有を増やしていた
  • さらに、中長期債が多く金利上昇に脆弱であった
  • つまり、SVBは量・質ともに金利上昇に脆弱なポートフォリオであった

まずは米当局は、取り付け騒ぎなど信用不安の拡大を防ぐべく沈静化に努めた格好。

あとは、このSVBの破たんが「単に個別事情かどうか」が焦点の1つとなりそうです。仮に連鎖的にほかの金融機関も破たんすれば、実体経済に影響がおよぶ懸念が生じます。

また、FRBの利上げによる金利上昇が破たんの一因と考えられ、利上げペースを緩める要因になりそうです。先物市場では、FRBの次回利上げ幅の予想が0.5%から0.25%に後退するかたちで反応しています。

米金利の先高観が後退すれば、米国サイドでは「株高・ドル安」要因。日本国債への資金逃避にも波及すれば、日本サイドでは円安要因。信用不安が高まれば、株安、金や債券高(金利低下)の要因になると考えられます。

いずれにしても金利上昇で保有債券は値下がりするため、SVBのように自己資金に対して多くの債券(質も含めて)を保有する企業は淘汰され、そういった企業が続出すれば市場心理の悪化、信用収縮ひいては株安の懸念があるといったところでしょうか。

もっとも、満期まで不良債権化せずに耐えられれば額面価格で償還はされます。

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