「円安ドル高による外貨預金急増」のニュースをどう見るか
上図のように円安が進む中、以下報道がありました。
個人、外貨定期預金が大幅増 ソニー銀行は金利10倍超に:日本経済新聞
- 外貨定期預金を開設する動きが活発になっている
- 海外の利上げで外貨預金金利が上昇していることが背景
- 金利差拡大で円安が続くとの見通しを持つ個人が多い
こういうニュースをどう見るか、ですね。
「多くの人々が同じ行動をとりはじめた」というニュースは注目に値します。去年から今年の年始にかけて米国株がブームになっていたことも同様です。ほどなくして米国株は株安に転換しました。今回は果たしてどうでしょうか。
シナリオ①・②のリスクを評価する
外貨預金が大幅に増えたニュースについて、以下2つの見方に大別できると思います。
- 多くの人々が同じ行動(外貨預金)を始めたので、円高への転換点が近づいている
- 通貨安の進行途上で見られる「国民の自国通貨売り」でさらなる円安を意識
①・②、どちらの可能性も考えられます。こういうときは、各シナリオのリスクをそれぞれ評価してみるとよいと思います。
結論としては、シナリオ①より②のほうがリスクの余地は大きいと考えられ「多くの人々が外貨預金をはじめる行動は、リスクを限定する観点からは一定の合理性が見いだせる」と考えられます。
シナリオ①:多くの人々が同じ行動(外貨預金)を始めたので、円高への転換点が近づいている
このシナリオならば、リスクは限定的であると考えられます。
円高へトレンドが反転しても、日本円のみで資産を持つ人はよろこばしいですし、円とドルを両方持っている人であっても、ドル建て資産が減少するだけで済みます。
つまり、このシナリオならば、資産が大幅に痛むリスクは限定的です。
ただし、以下に述べるシナリオ②の場合は、リスクが拡大するパターンなので注意が必要です。
シナリオ②:通貨安の進行途中でみられる「国民の自国通貨売り」
現代の中央銀行が発行する通貨は、政府の「信用」が価値の源泉です。金本位制時代のように通貨それ自体に価値があるわけではありません。
そのため、国民(=日本人)が自国通貨(=日本円)を信用できず、「今後も自国通貨の価値が下落する」という予想のもと、円を売って外貨を買う行動をした場合、さらなる円安を招く要因になります。
このシナリオで注意したい点は、最悪のシナリオである「円安に歯止めがかからない」という上限のないリスクが想定されうることです。
円安に歯止めがかからず、資産が日本円のみである場合、円安による資産価値減少をモロに受けることになります。
以上、「シナリオ①はリスクが限定的である可能性が高いこと、シナリオ②は上限のないリスクが想定されること」から、多くの国民が外貨預金に走ることは国民自身がリスクを限定するという意味では合理的な選択と言えると思います。
一方、国家の通貨防衛の観点からは好ましくないでしょう。国民の自国通貨売りは通貨安要因になるからです。
補足
為替市場は、本記事で焦点を当てた個人のフローだけではなく、2国間の経常収支や、企業の投資行動(貿易によって得た外貨をそのまま現地で再投資するのか、円転して国内へ還流させるのか等)、ヘッジファンドのポジション等によっても需給が変わるので、本記事はあくまで日本の個人に焦点を当てて論じたものになります。
ちなみに経常収支を構成する要素である貿易収支は、2022年上半期のみで7.9兆円の赤字と過去最悪を更新するペース(過去最悪の2014年は通年で12.8兆円の赤字)です。主因は原油・LNG・石炭の価格上昇。貿易赤字は円安要因であり、実需面の観点からは、資源高・貿易赤字が続けばさらなる円安が懸念されます。
まとめ
複数のシナリオが考えられるときは、それぞれのリスクを評価してみると、判断材料になることがありますね。
ということで、外貨預金が大幅に増えたニュースについて、以下2つのシナリオのリスクを評価しました。
- 多くの人々が同じ行動(外貨預金)を始めたので、円高への転換点が近づいている
- 通貨安の進行途上で見られる「国民の自国通貨売り」でさらなる円安を意識
その結果、②より①のほうがリスクは限定的だと考えられます。よって、タイミングとしては遅いものの、多くの人々が外貨預金を増やすのは、リスクを限定する観点からは一定の合理性が見いだせます。
いずれにしても、通貨をふくむ資産は平時から分散させておくと心地よいですね。資産を偏在させると、リスクが表面化したときに「リスクを集中させるべきではなかった」といった後悔を生みやすくなります。通貨も分散しておけば、後悔が減り、一定の納得感と心地よさが生まれます。たとえば「ドル50%、円50%ならば、どちらに転んでも半分は納得がいく」からです。
関連記事
中銀の債務超過と通貨安の実例(ベネズエラ・ジャマイカ・チリ)などは、以下にまとめています。
円安関係です。個人でできる対策は、平時からしておきたいですね。