FIREの背景にある、日本の時代背景・価値観の変容とは
最近「FIREとはなにか」について、各所で聞かれたりお答えすることが多くなりました。
あらためて私見をまとめるとともに、下段本論で述べるような解釈・観点に妥当性を見いだせると思います。
社会・個人の両面で、特に現代を生きる若者にとって、
- 明確な共通解
- わかりやすい理想像・ロールモデル
を描きにくい時代になったことが大きいと思います。
この点が、「従来の壮年的早期リタイアと根本的に異なる」とされる背景にあると考えられます。
そこで必然的に現れたのが、「FIRE」という欧米の若年層で起きているとされるムーブメントです。
FIREとは、単なる早期リタイアではない
FIREとは
- 「Financial Independence Retire Early」の略称
- 逐語訳は「経済的自由・早期リタイア」であるものの、
その実、以降仕事をしないわけではなく、国・経済・個人がわかりやすく成長する姿が以前ほど見えにくい時代の中で、自身が望む生き方を実現する「精神運動」に相当。 - 日本では、特にバブル崩壊以降(平成以降)の世代における時代背景・価値観等の変容が当該ムーブメントの背景として挙げられ、従来の単なる早期リタイアとは異なる概念。
背景に「時代・価値観の変容」があり、「バブル崩壊後」が顕著
私は、FIREを論じる上で時代背景の変化への言及は外せないと考えています。拙著「本気でFIREをめざす人のための資産形成入門」でも、時代背景にやはりページを割きました。
時代背景の変化が、
- 特に日本ではバブル崩壊以降に生まれた世代における価値観の変容をもたらし、
- その変容の1つの形として表出しているのが、「FIREムーブメントに代表される精神運動」である
という位置づけです。
さて、その時代背景の変化を知るには、
- 過去
- 現在
の両方を知る必要があります。そのため、実際に当時(過去)を生きた方々に聞いてきました。
戦後復興期について、実際に聞きました
以下がその伺った内容まとめです。これまで拙著やブログで述べたり分析していたことと、ほぼ一致したと思います。
要点
現代は、目標を持ちにくくなっている世の中。今の世代(バブル崩壊以降に生まれた世代)はある意味でかわいそう。現代は戦後復興期と比べて、
- 目標がない社会
- 目標を持ちにくい社会
自分たちの頃(戦後復興期)は、仕事時間がたとえ長くとも精神的な辛さはなく、ただ一生懸命に社会全体が邁進していた。みんなが同じ方向を見ていた。よくなりたいと。
今の人々を見ていると、目標を失っているのではないか。今の人は満たされてしまっている。
- 暑くてもクーラーなんてないから、川遊びや行水などして工夫する、
- 暑い時は、プールに行くお金もなく、海に飛び込んで怒られたり、
- 学校の先生が子供に食べさせるために弁当を持ってくることも
- ご飯を食べたい
- 外国に負けたくない
こういった背景・ハングリー精神がかつてあった。ただそういう状況に置かれて知恵を絞って生き延びようとしていた。今の人は追い込まれていない。人間は追い込まれた時に真価が出る。
- 給食がないと、食べるものもない
- 学校へ行っても鉛筆がない
- 人が多すぎるため、学校は二部制、遅番と早番
- 借金しないとやっていけない
こういう経験が、今の人々にはよくもわるくもない。
得心がいきます。概して考えていたことと一致します。
「時代背景の変化」と、それがもたらす「金銭による効用の変化」
つまり、
- 「ごはんを食べたい、豊かになりたい、敗戦後で外国に負けたくない、といった根源的な欲求に起因する強烈な原動力・生き方があった」時代から、「既に豊かであり、個の幸福を追求できる基盤が整いやすく、ゆえに生き方を模索する余裕・必要性が以前より増している時代」へ、
- 「作ればモノが売れ、働けば豊かになる、というような、全員が同じ方向を向きやすい時代」から、「モノが行き渡り、働けば働くほど追加的に豊かになるとは限らない、というような、全員が同じ方向を向きにくく、社会も個人もみなと同じように普通にしているだけでは成長が見えづらい時代」へ、
こういう根本的な変化が生じているのだと思います。
こういう変化が起きると、人は疑問を持つようになります。模索し始めます。人によってめざす方向性・生き方が多様化するからです。
反対に、以前のようにみんなが同じ方向を向いていれば、疑問を持つ必要もなく、模索する必要性は生じにくいですね。
つまり、時代背景の変化は、人々の価値観の変容をもたらす大きな要素になり得るのです。
早期リタイアは、FIREという概念の一部でしかない理由
FIREは、単に「株式投資で経済的自由を達成して早期リタイアする」という表層的な話ではなく、そういう時代でもあるのだろうと思います。
つまり、株式市場がたとえ凋落しようと、現代の時代的背景・価値観の変容がある限りは、別の手段で経済的自立を図る人は増え続けるでしょうし、主体的な人生を描くことを志向する人は増え続けると思います。
株式投資は単なる1つの手段でしかなく、早期リタイアもまた1つの手段でしかないのです。
あくまで本質的な部分とは、上述の緑枠で囲った時代背景の根本的な変化を直接的に影響を受けたバブル崩壊以降に生まれた平成世代以降に特に顕著にみられる精神運動であるということです。
ここが、それまでの世代での早期リタイアとは根本的に異なる「FIRE」という昨今勃興した概念だと私は思います。
- 待遇のよい企業に勤めていようが、
- 世間でいう一流企業に勤めていようが、
- 給料が高かろうが、
そんなことは根本的に関係ないということです。従来的に、あるいは世間的によしとされていたことが、必ずしも今の世代には魅力的に映るとはかぎらないのです。
時代背景の変化は、金銭で得られる効用にも変化を生じさせます。
金銭で得られる効用に変化
以前はお金があればあるだけ、
- 食事は豊かになり、
- 食べられる量も増え、
- 手に入る家電やモノも増え、
- お金1単位の追加による追加的な効用は綺麗に正比例しやすい、
そんな時代でした。
現代は、お金はある程度あれば、豊かな生活が既に送れますね。あらゆる市場の自由化・イノベーションにより、Netflix・Amazon・シェアサービス・サブスクリプション、便利で安価なサービスが数多あります。
お金1単位の追加による追加的な効用は、以前ほど高くないのです。
まとめ
まとめますと、以下の通りです。
FIREとは、以下の概念であり、
- 「Financial Independence Retire Early」の略称
- 逐語訳は「経済的自由・早期リタイア」であるものの、
その実、以降仕事をしないわけではなく、国・経済・個人が成長する姿が以前ほど見えにくい時代の中で、自身が望む生き方を実現する「精神運動」に相当。 - 日本では、特にバブル崩壊以降(平成以降)の世代における時代背景・価値観等の変容が当該ムーブメントの背景として挙げられ、従来の単なる早期リタイアとは異なる概念。
そして、時代背景の変化がポイントです。その時代背景の変化とは、以下であり、
- 「ごはんを食べたい、豊かになりたい、敗戦後で外国に負けたくない、といった根源的な欲求に起因する強烈な原動力・生き方があった」時代から、「既に豊かであり、個の幸福を追求できる基盤が整いやすく、ゆえに生き方を模索する余裕・必要性が以前より増している時代」へ、
- 「作ればモノが売れ、働けば豊かになる、というような、全員が同じ方向を向きやすい時代」から、「モノが行き渡り、働けば働くほど追加的に豊かになるとは限らない、というような、全員が同じ方向を向きにくい時代、そして個人も社会も普通にほかの人と同じようにしているだけでは成長が見えづらい時代」へ、
この時代背景の変化による影響として、
- 人々の価値観の変容
人は疑問を持つようになります。模索し始めます。人によってめざす方向性・生き方が多様化するため - 人々の金銭的効用の変化
お金はある程度あれば、豊かな生活が既に送れるため、お金1単位の追加による追加的な効用は以前ほど高くなくなる
といった点が挙げられる、ということです。
Best wishes to everyone.
関連記事
時代背景にさらなる変化が起こらない限り、市場の低迷があろうとも達成手段を変えて不可逆的な形で進むムーブメントになっていくと思います。
では仮に大衆化した場合は、どうなるでしょうか。
出版されたFIREに関する書籍について、アナリストさん・NewsPicksさんによる検証記事です。