退職しましたので、「退職金に対してどういう捉え方をしてきたか」、そして「退職金に対して債権者として、どう向き合うのか」について、書いておこうと思います。
例えば、「自分が入った会社の、年ごとの退職金」を算出してみたことはあるでしょうか。
個社ごとの算出方法は、労働契約書なり労働協約書なりに記載してあるはずなので、一読の上、算出しておくこと、1つ視点を持つという意味で一案と思います。
退職金という概念に対して債権者としてどう向き合うのか
退職金を考えるにあたって、そもそも「退職金とはどういう性質なのか」を把握しておく必要があります。
ということで、種々のお金を勘定科目という1つの言語で表した「会計」という側面から考えてみます。
まず退職金は、「会計上はどのように扱われているのか」について、おさらいしておきます。
そもそも退職金とは。会計上の観点。
退職金とは、そもそも退職給付会計において、「退職給付債務」という形で、「企業から見て ”従業員に対する負債” 」として認識・計上されています。
つまり、従業員側から見れば、債権です。
そして、退職給付(退職金)とは、「従業員に対する後払いの労働対価」という性質を帯びています。そうです、後払いなんですね。
入社時「退職金という概念自体なくなっても良いのでは」と当時は思っていました。なぜなら後払いだからです。未払い賃金と換言することも可能ではあります。
この「後払い」という性質を考えるにあたって、「現在割引価値」という概念があります。
その意味するところは「金銭は時間が減るごとに金利(厳密にはリスクフリーレート)に応じて減価していく」ということです。
よって、この観点から言えば、労働者の観点からの理想的な受け取り方は、退職金を全て1年ごとに手当なり賞与なりに算入する形です。(ただしこの場合は税負担が追加的に生じるので、現行の退職所得控除に相当するものが維持される前提になります)
しかし、この受け取り方は、あくまで「退職金カーブが急峻でない場合」に限ります。
退職金カーブという重要指標
上図は退職金カーブのあくまで一例ですが、10年目まで非常に緩やかで、15年目まで傾きはやや急となり、23年目あたりから急峻になっています。
一見すると、このような傾きの退職金カーブは、「勤続年数が長いほど得」なように見えます。
退職金というのは、基本的に傾きが急になっていくため、金額だけを見れば「若くして辞めると損」のように見えます。(後述の通り、実際にこのモデルケースでは、その通りとも解釈できます)
しかし、先ほど申し上げた「時間と共に価値を減じる」という現在割引価値の概念を当てはめると、退職金カーブの傾きによってはそうとも限らないことがわかると思います。
例えば、「25歳で得る300万円と、35歳で得られる350万円では、25歳で得られる300万円の方が価値が高そう」なこと、イメージしやすいと思います。
一方、上図で示したようなモデルにおける「25歳で得る150万円と、35歳で得られる750万円」ということになってくると、個々人によって判断がやや微妙になってくるかもしれません。
ただし、上図の退職金カーブモデルケースでは、数字上は勤続年数が長い方が利得が上回ります。(あくまで数字上であって、若年期の選択肢を広げる等の定性的なお話はここでは省きます。)
当該ケースでは、30歳で退職所得は約350万円(税後同額)、50歳で約3,500万円(税後約3,200万円)。350万円をたとえ「株式投資でややハードルの高い設定と思しき年利7%で20年」まわせたとしても、50歳時点で1,350万円に留まり、3,200万円を大きく下回ります。
このように、退職金は後払いであることから、つい「毎年の賃金に算入して欲しい」とも考えたくなりますが、あくまでそのカーブの傾き次第ということが1つ言えると思います。そしてその背景には、現在割引価値という概念があります。
カーブは自分で算出しないと、通常わざわざ示してはくれませんから、自分で手を動かす必要がありますが、動かす価値はあると思います。
退職金は、ある会社とない会社が存在しますが、税制上も恵まれていると思います。
なお、退職金は以下退職所得控除が反映されたのち、所得が控除額を超える場合は源泉徴収されます。(出所:国税庁)
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
▶【セミリタイアへの準備】退職金にかかる税金は年金で受給するより一時金で受給すると優遇措置がある
自分で年度ごとの退職金を把握しておく
私は退職金の算出方式がやや複雑だったので、Excelで算出一覧表を作成していました。
算出方式は個社によって異なるでしょうから、1度自分の会社の退職金を年ごとに算出してみると、大いに有用と思います。
退職金というのは、大きな額が動きます。税制上も退職所得控除がわざわざ設定されているぐらいです。サラリーマンである以上、大いに関係あり、「今やめた時に生じる退職金額」は把握しておくこと、良案です。
何事も現行ルールの把握は重要ですが、退職金というのはサラリーマンにとっての1つの制度であり、立派な債権。その債権額は、1人の債権者として把握しておいて損なきことに思えますが、いかがでしょうか。
今、「自分が何を持っているのか」ということを定量的に可視化しておくことは、人生で何か判断を迫られたときに1つの材料に確実になり得ます。
Best wishes to everyone.
サラリーマンのバイブル「労働協約書」は精読必須。
会社には様々な制度がありますが、持株会についての記事です。
まずは既存制度で自分にできる方策を探すことと思います。