大手企業の「マネープランセミナー」に参加したらバックに保険会社がいて新NISAは危険だとして保険商品に誘導された話
大手企業が抽選制の「マネープランセミナー」を募集していました。ちまたではどんなセミナーが催されているのだろうと興味本位で応募してみました。
すると、当選の連絡が来たので東京・丸の内までホイホイ参じます。
否定的・批評的な記事を書きたいわけではないのですが、内容が内容だけに注意喚起を目的として率直に書きます。
セミナー風景
立派な会議室に案内されました。全部で24席。開場時に到着し、最前列へ。
眼前にモニター、手元にはセミナー資料とお茶。まず資料に目を通します。
10年以上前から毎年やっているセミナーで、FP(ファイナンシャルプランナー)が講師とのこと。
主な構成(前半):真っ当な内容
要旨をまとめると以下のような構成です。
- 平均的な年収では年金で老後資金は足りないよ
- 日本の人口は減り、国債格付けも下がってるよ
- P&GやVISAなど米国株は長期成長してるよ
- 日本円だけでなく外国への投資が必要な時代だよ
- 新NISAという投資優遇制度が始まったよ
- つみたて投資がいいよ
ここまでは私も同意します。しかしここからが「あぁそういうことか」と得心しました。
主な構成(後半):疑義あり
セミナーではここから、
- 新NISAは個別銘柄への投資であり、長期投資は難しい、そんな上手くいかないよ
- だから、税制優遇(保険控除)あり、担当者(外資保険社員)がアドバイスもしてくれて、長期投資ができる「貯蓄性保険」が最適だよ
という聞く人が聞いたら一発アウトな論理が展開されていきます(そもそも新NISAは個別銘柄だけでなく、ETFや投資信託で分散できるので、明らかに誤り)。
「無料マネープランセミナー」のからくり
つまり、こういうことでした。
- FP(ファイナンシャルプランナー)は、「新NISAや外国株投資はいいよ」と言いつつ、「新NISAは長期投資しづらいから危険」として、最終的に保険商品をセミナー参加者に推す
- セミナー参加者限定で「(外資系保険会社の本社で、社員による)無料の個別相談」を案内
- (ここからは推察ですが)保険商品の購入をすすめる
②のとき、なぜかコーヒーが出てきて、「コーヒーでもお飲みいただいて、肩の力を抜いてリラックスしましょう」「その世界のプロに任せるのが一番ですよね」「新NISAが始まり投資元年、行動を起こしましょう(ツッコミ:いやそう言いつつ新NISA推さずに保険推すんかい)」といった誘導文句が展開されていたのが印象的でした。
コスト構造から見えること
- 無料のマネープランセミナーでFPが出てくる
→ つまりFPの人件費がかかっている - しかも丸の内という一等地の会議室で開催
→ 会議室の賃料がかかっている
なのに無料ということは、どこかでコストを回収する必要がある。しかし「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を勧めて買ってもらっても、セミナー開催者には実入りが何もない。
そこで、保険商品を売ることで、バックの保険会社が儲かり、FP(ファイナンシャルプランナー)もマージンをもらうという構図ですよね。なるほど納得しました。
拙著『#シンFIRE論』で「収益構造やコストを見ることで、判断や思考の失敗確率を下げられる」といった旨を記しましたが、上記もよい一例かと思います。
なんかおかしいと思ったんですよね。まずセミナー会場に入る時点で、女性の受付だけでなく、屈強なさわやかラガーマン風のスーツ姿の男性2名。セミナー開催企業の業界とは明らかに異なる、営業マンっぽい雰囲気。のちに判明しましたが、外資系保険会社の社員でした。
情報の見せ方に注意
ほかにも、
- 長期投資のリターンを示すグラフを対数表示にすることで、株式は債券より圧倒的にリターンが高いのに、大差ないと錯覚させるような仕様
- 債券のなかで最も安全なのは資金供給の多い米国債であると断定(一理ありますが、推すならば米政府債務が膨張し、脱米ドルが進んでいることはリスクとして触れるべきだと思いますし、安全資産として位置づける以上、格付けの高い国債で構成される先進国債券を選択肢として示してもよいのでは)
- 下表のような結論ありきの偏った見せ方
新NISA 貯蓄性保険 長期投資 △(人による) ○ サポート体制 × ○(担当者がつく) つみたて時の税制優遇 × ○ ※新NISAの税制優遇の本丸は、売却時なのに、それは記さずなぜか「つみたて時の税制優遇」のみに限定
といった情報の出し方として不適当と感じる部分がありました。詳しく知らない人は鵜吞みにしそうな見せ方です。
よかったと思う点
なお、否定的かつ批評的な内容に終始したくはないので、よかったと思う点も記します。
- 「資産運用の必要性」について知ることができる
- 「外国株への長期投資でリターンが高かったこと」を知ることができる
- 「つみたて投資の有効性」を知ることができる
- 「円資産のみに集中させることはリスクである」と知ることができる
まとめ
上記のようによかったと思う点もありますが、総じてセミナー参加者に保険商品を買わせたい意図的な誘導が多い内容だと思いました。結局は外資系保険会社とFPに間接的に手数料を持っていかれる構図です。
保険商品は保険会社がマージンをとる以上収益性は劣るので、単純に資産形成をしたいならば、自分で投資信託やETFを買うほうがよいと思います。
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
- eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
といった商品に、自分で証券口座を開いて投資すれば手数料は僅少で済みます。
正直、いまだにこうしたセミナーをしかも大手企業が開催している事実に閉口しました。詳しく知らなければ、セミナー内容を鵜呑みにすると思います。
企業も営利目的である以上は仕方ない部分もあるとは思います。
しかしこのような実態を目にすると、私が2016年頃からやってきた「投資のご相談」という活動の意義をあらためて感じるとともに、今後も利害関係に縛られずに、相談者目線で活動していきたいと思いました。
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