YCC修正への思惑が交錯するなかで言えること
日本銀行のYCC(イールド・カーブ・コントロール)政策が修正されるのではという思惑が最近の市場の話題となっています。
なおYCCとはカンタンに言えば「長期金利も操作すること」です。本来、中央銀行の伝統的な金融政策は短期金利のみを人為的に調節し、長期金利は市場にゆだねられます。ところが長期金利も人為的に操作するという非伝統的な金融政策が、YCCです。
現在までの時系列の流れ
現在、以下のような流れになっています。
YCC修正の思惑が高まる(7月7日) → 円高・銀行株上昇 → YCC修正の思惑しぼむ(現在)
つまり、まず7月7日に内田真一副総裁のインタビュー記事(日経新聞)をきっかけに、7月の金融政策決定会合で日銀のYCC修正観測が浮上しました。以降、円高・銀行株の上昇が進み、そして7月21日にロイターがYCC修正なしの見通しを関係筋の話として報じました。
日経新聞の原文を確認すると、「状況によって修正の選択肢も排除しない」といったバランスのとれた発言で、この文章自体でYCC修正はやや思惑的な印象を受けます。
YCC修正観測で円高が進み、銀行株が上昇した
この報道を受け、円高(1ドル145円→138円)、銀行株の上昇という流れになりました(なお、円高はその後YCC修正観測の後退から、のちに円安へ回帰)。

三井住友フィナンシャルグループ 株価(出所:SBI証券)
たとえば三井住友FGの株価は、翌週に上昇しています。YCC修正による金利上昇は銀行の収益拡大につながることが背景にあると考えられます。
内田副総裁の発言:総論としては緩和維持
ただ、内田副総裁は6日時点の共同通信のインタビューでは、
慌てて利上げをしていく環境には全くない。(金融引き締めに転じれば)2%を実現できなくなってしまうリスクのほうがはるかに大きい
と述べ、現行の大規模な金融緩和策を継続する方針を示しています。
つまり7日の日経が報じた内田副総裁の発言からYCC修正の思惑が高まったわけですが、その前日にはYCC修正への思惑をかきたてるどころか緩和維持の方針を示しているということですね。
飛ばし記事か、当局の意図的なリーク記事でないかぎり、YCC修正観測はやや思惑的なのではないかというのが個人的な印象です。
YCCの修正はサプライズでなされる可能性に留意
なお、YCCの修正は構造上、事前に予測されると海外勢の国債売りが積み上がってYCC修正と同時に利益を海外勢に献上することになります。日銀がこれを嫌う矜持があるかぎり、サプライズでYCC修正がされるはずです。
その意味では昨日ロイターがYCC修正観測の後退を印象付ける記事を「関係筋」の話として出したのは逆にYCC修正への思惑が高まるとの邪推も成り立つでしょうが。
まとめ
いずれにしても言えるのは、YCC修正を織り込んで銀行株は上昇しており、今から銀行株の買い増しは個人的にはしないかなというところです。
株は期待先行で動くので、YCC修正期待で上昇した銀行株を今から買うのは、「リスクリワード的に微妙」、つまり「負うリスクに対して得られる期待利益が大きくない」と個人的には考えます。
米国の商業銀行のほうが現時点で相対的な割安さを感じます。
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