S&P500は下落、弱い労働市場の指標は一転強い結果、金融引き締め姿勢の緩和を打ち消す
S&P500は直近の上げ幅をまたも失う状態。
後述のとおり雇用統計の指標は強めで、ここ数日の指標を根拠とした「労働市場の需給がゆるむとの甘い期待」がしぼんだ格好。
米長期金利、ならびに期待インフレ率も5年・10年ともに上昇。
労働市場の指標
労働市場の時系列を確認してみましょう。
10月4日・6日と連続して労働市場の指標は弱い結果が続き、市場には以下のような期待が生じやすい環境でした。
- 労働市場において金融引き締めの効果が出てきている → 金融引き締め姿勢が緩和するかも?(期待) → 金利低下・株高
ところが10月7日発表の雇用統計は強めの内容で、市場は上記期待が打ち消される内容ととらえ、株安に転じたと言えます。
各指標の詳細は以下の通り。
8月雇用動態調査/JOLTS(米労働省、10月4日発表):弱い
- 非農業部門の求人件数(季節調整済み、速報値)は、予想より弱い
約1005万3000件と修正後の前月比で、111万7000件減少
求人数は2020年初と比べ2倍ほど高水準も、今年3月をピークに徐々に減少傾向 - ちなみに、賃金インフレの1年程度の先行性がみられる「非農業部門自発的離職者数」は鈍化傾向でしたが、やや反発
9月人員削減数(民間調査会社チャレンジャー、10月6日発表):弱い
- 2万9,989人(前月比↑46.4%、前年比↑67.6%)
4カ月連続で前年上回る
「労働市場にほころびの兆し、採用ペースは鈍化、まとまった規模の解雇も(発表元のチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス)」
雇用者数は底堅い伸びも、失業率は7カ月ぶり悪化。需給ゆるみの兆し。失業率上昇要因は、労働参加率の上昇。よって「労働力不足により上昇していた賃金の伸びが鈍化する(=労働市場で金融引き締め効果アリ → FRBの引き締め姿勢が緩和される)のでは」と期待が持てた内容。
9月雇用統計(米労働省、10月7日発表):弱い・強い・強い
6月 | 7月 | 8月 | 9月 | |
---|---|---|---|---|
平均時給 (前年比) |
↑5.2% | ↑5.2% | ↑5.2% | ↑5.0% (予想↑5.1) |
失業率 | 3.6% | 3.5% | 3.7% | 3.5% (予想3.7%) |
非農業部門雇用者数(前月比) | ↑29.3万人 | ↑52.6万人 | ↑31.5万人 | ↑26.3万人 (予想↑25.0万人) |
- FRBが最も重視しているであろう(※)平均時給は、予想よりやや弱い
- 失業率は、予想より強い。FRB10-12月見通しが3.8%なので、「金融引き締め姿勢の緩和期待を打ち消す数字」と市場がとらえる可能性
- 非農業部門雇用者数は、「依然高い水準」と受け止められる可能性のある20万人台であり、予想より強い
平均時給はわずかに弱かったものの、失業率・非農業部門雇用者数ともに強い結果。特に失業率は、FRBの達成めどとも言える「10-12月の見通し3.8%」と割合にして約10%の乖離があり、金融引き締め姿勢の緩和期待を打ち消す内容と言えそうです。
そもそも「失業率が仮に3.8%という結果が出たとして、雇用環境がFRBの想定以上に悪化と市場がとらえて株高となり、さらにこの先発表される物価指数が単月で予想以上に鈍化」となっても、単月のデータのみでFRBが「はいインフレ懸念解消された」となるのは考えにくいでしょう。
生産性の向上なしで賃金だけが上昇すると、「賃金・物価スパイラル(インフレによって賃金上昇が加速することで、さらにインフレ率が上昇する悪循環)」と呼ばれる悪性インフレの原因になる可能性があり、FRBが避けたいであろうシナリオ。
ただし、IMF(国際通貨基金)によれば「悪性インフレとなるケースは稀」との検証結果(過去50年間に先進国で2021年と同様の状況(すなわち、物価上昇率が上がり、賃金の伸びがプラスとなる一方、実質賃金と失業率が横ばいもしくは低下している状況)が見られた21の事例を検証した結果、賃金・物価スパイラルの発生には至るケースは稀)。
つまり、「過去の傾向という観点においては、インフレは収まっていく可能性が高い」と言えそうです。
とはいえ、傾向はあくまで傾向であり、悪性インフレの可能性が排除できない以上は、政策当局者としては悪性インフレとならないように利上げはするということでしょう。
まとめ
シカゴ連銀の総裁など、FRBメンバーがたびたび言及し重視される労働市場は、今月弱い指標が続いて引き締め姿勢の緩和期待が醸成されるも雇用統計で打ち消された格好。
今年は総じて「市場が期待する(株高)→ 指標またはFRBの発言や議事要旨等の内容で期待が打ち消される(株安)」というサイクルが続いています。
短期的には、年末にかけてアノマリー通り上昇するのかは興味深いところです。
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