「長期の資産形成には、投資信託とETFどちらが好適か」というご質問に回答します。
「分配金なしで再投資される投資信託における税の繰り延べ効果」も併せて検証します。
ただ、いずれにしても細部にこだわりだすと沼にハマるので、「投資信託・ETFどちらでも資産運用の必要条件は、現時点では満たしている」ことも申し添えておきます。
どちらでも十分に有用な商品です。
- 理論的な数字を重視する人は、投資信託
- 分配金が欲しい、出口戦略重視なら、ETF
個々人の目的と嗜好に合わせて選択するかたちでよいと思います。
長期の資産形成には、投資信託とETFどちらが好適か
題名: 投資信託とETFの優劣について
メッセージ本文:
お世話になります。
いつも楽しくブログを読ませていただいております。
題名から少し補足させていただくと、資産形成の観点から見た分配
【現状】
社会人一年目22歳女性。
現在、つみたてNISAを限度額まで活用しているが、資金に余裕
【投資目的】
配当金での生活でなく純粋に老後へ向けた資産形成。
【投資期間】
定年後に売却として、40年を目安に考えている。
【質問内容】
ETFと投資信託の大きな差は信託報酬かと思うが、近頃は投資信
ETF売買における為替手数料や配当への課税(米国ETFの場合
お忙しいかとは思いますが、どうかお返事をいただければ幸いです
よろしくお願いいたします。
つみたてNISAを社会人1年目時点で既に開始済、更に今後40年を目安に老後の資産形成ということで、投資期間を長くとれそうですね。大きなメリットです。
理論上の数字を重視する人は投資信託
結論としては、純粋に老後の資産形成目的の場合は、どこに重きを置くか・目的にもよりますが、理論上の数字を重視する方には投資信託が一案と思います。
投資信託の場合、「自動積立」で手間も省け、税金を先送りできます(ETFの自動積立はSBI証券等で設定可能ですが、投信であれば他社もやっています)。
対象の投資信託は挙げて頂いているものも含め、以下3つが候補です。
- SBI・
バンガード・S&P500インデックス・ファンド - eMaxis Slim S&P500
- 楽天VTI
米国集中投資を避けたい方は、以下2つの全世界株式インデックスファンドが候補です。いずれも経費率は安いです。
- eMaxis Slim全世界株式
- 楽天VT
分配金が欲しい、出口戦略を重視なら、ETF
一方で、ETFから得られる分配金という定期的なキャッシュフローも有用な側面があります。
取り崩しと分配金は理論的には似ていますが、後者のほうが心理的な抵抗は小さいという人もいます。
分配金や、出口戦略(後述)を重視する場合は、ETFが一案です(ETFは上場しているので、機動的な売買をしたい人にも適します)。
- VTI(全米株式)
- VT(全世界株式)
このあたりが、ドル建てで投資できる代表的なETFです。ドル建てであれば、ドル転の手間はありますが、投資候補の選択肢はグッと広がります。
東証上場のS&P500連動ETFも
また、現在は【1655】iシェアーズ S&P500 米国株ETFで「外国税額控除」のデメリットを消せるETFもあります。外国税額控除に抵抗ある方は、こちらも向いています。
- 【1655】iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF
- 【2558】MAXIS 米国株式(S&P500)上場投信
上記2つの円建てETFも候補です。外国税額控除の手間も省け、米国現地税によるリターン押し下げのデメリットがないからです。(出所:日本取引所グループ)
ETF・投資信託を比較するポイント
ここで一旦ポイントをまとめます。
純粋に老後の資産形成など長期運用の場合、投資信託が選択肢となる主な理由・ポイントは以下4点です。
▶ 分配金を自分で再投資する必要(手間の観点)
ETF:あり ⇔ 投資信託:なくせる
▶ 分配金
ETF:あり ⇔ 投資信託:なし / あり
※投資信託は分配再投資型の場合「なし」
▶ 分配金に対する課税(税制の観点)
ETF:あり ⇔ 投資信託:なくせる
※ただし、元本が多く長期にわたる投資かつ配当控除を無視した場合に限り、有意な差が生じる。また、外国税額控除は東証上場のS&P500連動ETFでなくせる。
▶ 出口戦略(現金化する時の局面)の違い
【ETF vs 投資信託】分配金の再投資、手動で必要か否か(手間)
ETF・投資信託の両者ともに、SBI証券で自動積立が出来ます。しかしETFは、基本的に分配金を自分で再投資する必要があります。
老後の資産形成目的ならば、老後を迎えるまでの資産形成期のキャッシュフローが不要なので、再投資する前提としています。
一方、投資信託は分配金が自動で再投資される再投資型のものがあります。
以上から、投資信託の方が手間はかかりません。
ただし、分配金を得るということは、消費に回すなり、他の商品への投資に回すなり、といった自由度が生まれることでもあるので、一長一短です。
【ETF vs 投資信託】分配金への課税(税制)
分配金に対する課税は、ETFより投資信託の方が、配当控除を無視した場合は有利です。
なぜなら、ETFの分配金は、原則20.315%の課税が都度なされます。投資信託の「分配金なし・自動再投資」に設定すれば、分配金は課税されず、税負担を将来に先送りできます。
よって、「運用期間中に分配金に対して都度課税されるETF」よりも、「運用を終えて利益確定のときになってやっと売却益に課税される投資信託」の方が、税の繰り延べ(先送り)効果が生じるので、税制上の観点に限ると有利です(配当控除を無視した場合に限る)。
ただ、多額の元本で運用期間が長期でない限り、有意な差は生じません。
ご質問者さんの場合、投資期間が40年を目安と考えていらっしゃるようなので、その前提で以下条件の通り、投資信託による税の繰り延べ効果を試算します。
例)運用利回り4%、運用期間:40年、税率:20.315%
下表のような要領(ケースAの場合)で、毎年分配金に課税されるケース(…A)と、最終年度に課税されるケース(…B)の差異を検証します。
年度 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
元本 | 100 | 103 | 106 | 110 | 113 |
分配金 | 4.0 | 4.1 | 4.3 | 4.4 | 4.5 |
課税額 | 0.8 | 0.8 | 0.9 | 0.9 | 0.9 |
実現益 | 3.2 | 3.3 | 3.4 | 3.5 | 3.6 |
結果は以下の通り。
- A:40年間でリターン 3.51倍
- B:40年間でリターン 4.03倍
では「このリターン差異をどう評価するか」です。結論としては、元本が大きく、運用期間が長ければ、差が大きくなります。
- 元本100万円 → 52万円の差(40年間)
- 元本1000万円 → 520万円の差(40年間)
たとえば20年間ですと、元本100万円の場合、8万円の差にとどまります。
(運用利回りが高ければ課税繰り延べ効果も応分に大きくなります。しかし天才でもない限り、40年にわたる高パフォーマンスは現実的でないことから、そのようなケースは省いています)
以上から、「分配金なしで自動再投資される投資信託は、分配金を出すETFに比べて、税の繰り延べ効果の観点においては有利であり、元本が大きい場合は、有意な差異が生じる(配当控除を無視した場合に限る)」と言えます。
【ETF vs 投資信託】出口戦略
出口戦略とは、老後など資産の取り崩し期を迎えて、運用資金をどう消費に回していくのか、ということですね。
- ETFで自動的に分配金を得るのか
- 投資信託で自動取り崩し設定をするのか
このあたりも好みや場合によって変わってきます。
たとえば、ETF・投信どちらの取り崩し方も抵抗ない方もいるでしょうし、ETFのほうが抵抗ない方もいるでしょう。
投信は取り崩す際に株価が下落していると、取り崩せる額が減るので非効率です。この観点からはETFに分があるでしょう。
一方、ETFの分配金は株価下落の影響は直接的には受けません。ただ、株価の下落が業績の悪化を背景とする場合は分配金がのちに減ることも考えられます。
ただ、ETFは次のようなメリットもありますね。老後にまとまった資金が必要な時期に暴落に遭い、ETFで分配金だけでも得て消費しておいた方がよかった、ということになります。
長期の資産形成には、投資信託とETFどちらが好適か、まとめ
まとめますと、以下の通りとなります。
▶分配金を自分で再投資する必要(手間の観点)
ETF:あり ⇔ 投資信託:なくせる
▶魅力的な側面もある分配金
ETF:あり ⇔ 投資信託:なし / あり
※投資信託は分配再投資型の場合「なし」
▶分配金に対する課税(税制の観点)
ETF:あり ⇔ 投資信託:なくせる
※ただし、元本が多く長期にわたる投資かつ、配当控除を無視した場合に限り有意な差。また、外国税額控除は東証上場のS&P500連動ETFでなくせる。
▶出口戦略(現金化する時の局面)の違い
結局、どの観点を重視し、何に重きを置くかで結論は変わってきます。たとえば米国株に投資する場合は、一例として以下の通り。
- 米ドルでVTIを買う
- 円で楽天VTIを買う
- 円で【1655】【2558】を買う
それにさらに加えるならば、
- 理論的な数字を重視する人は、投資信託
- 分配金が欲しい、出口戦略重視なら、ETF
以上、ご参考になりましたら幸いです。
Best wishes to everyone.
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