ユニクロ賃上げに見える「グローバル資本主義の極致」

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ユニクロ賃上げに見える「グローバル資本主義の極致」

 衣料品店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは11日、3月から国内の正社員約8400人の賃金を上げると発表した。ボーナスも含む年収の引き上げ幅は数%~40%ほどになる見込み。同社は欧米の正社…

ユニクロが「国内正社員の年収を最大4割アップ 初任給は30万円に」と話題になりましたね。

これはとくに不思議なことではなく、

  • 日本の賃金が(世界と比較して)下がるところまで下がってきた
  • 現代に浸透した「グローバル資本主義」が行くところまで行っている

といった象徴的な一例だと見ています。

事実、ユニクロによれば、「欧米の正社員の年収が日本に比べて高い傾向があり、差を縮めるのがねらい」とされています。

現代は、国境を越えて資本が自由に移動できる「グローバル資本主義」です。グローバル資本主義では、各国の賃金が同等になっていく力がはたらきます。今回のユニクロの賃上げは、その象徴と言えるでしょう。

これを機に、

  • 現代はどのような時代か
  • どのような歴史をたどってきたのか
  • 資本主義、新自由主義の特徴
  • 賃金が伸び悩む日本特有の事情

など見ていきます。

グローバル資本主義とは、新自由主義の世界版

では、そもそもグローバル資本主義とは何でしょうか。確認しておきましょう。

現代の特徴として認識しておきたいのは、欧米(とくに、英サッチャー政権、米レーガン政権)に追随した小泉政権の郵政民営化に代表される「新自由主義」です。新自由主義とは、簡略化していえば「政府が市場に介入せずに、規制緩和をして、市場原理・競争に任せましょう」という考えです。

「小さな政府」という言葉を当時聴いたと思います。これは、「政府の役割を小さくして、市場に任せましょう」という新自由主義的な考えが背景にあります。

「市場に任せる(=新自由主義)」ということを多国間で共通しておこなうと、「資本の移動に制約を設けずに、自由に移動させる(=グローバル資本主義)」ということになります。

グローバル資本主義では、お金は高いところから低いところへ

グローバル資本主義、つまり資本が国境を越えて自由に移動できるようになると、「障害物のない川の流れ」と同じように、自由市場では、お金も高いところから低いところに流れます

具体的には、たとえば電子部品が「日本で20万円かかるけど、ベトナムでは10万円でつくれる」ならば、工場や人手の需要は日本からベトナムへ流出します日本でその工場から失業者が出ることは、ベトナムで倍の労働者が雇われることを意味します。

つまり、内外の賃金格差が縮まる

つまり、国境を越えて資本が自由に移動できる「グローバル資本主義(新自由主義)」では、ある2国間の賃金格差が有意に縮まるまで、人件費が相対的に高かった国(例:日本)では賃金の下方圧力が強まるということです。

背景には、「世界中でヒト・モノ・カネが自由に移動できるようになり、日本とベトナムの労働力が簡単に交換しやすくなったこと」が挙げられます。「同じように作れるなら、ほな安いとこでモノを作ろう」となりますね。資本主義は制約を設けないと、このように経済原理だけで物事が動きます

新自由主義が生まれた背景→共産主義の崩壊で、資本主義の有効性を喧伝する必要が薄れた

これは歴史をひも解く必要があります。

前段で「英サッチャー政権、米レーガン政権あたりから新自由主義が採用された」旨を述べました。このとき、どういう時代かというと「冷戦が終わっていく時代」です。

「冷戦の終わり」と「新自由主義の始まり」は密接な関連が見られます。

なぜなら、資本主義の対極であった共産主義が崩壊に向かい、資本主義国家が「人々にとって心地よい資本主義を整え、資本主義というイデオロギーを守る必要性が薄れた」からです。

当時の歴史を振り返れば、冷戦期は資本主義国家で「福祉の充実」「失業対策」が整っていた傾向がみられます。これらは資本の効率という観点からは非効率ですが、人々にとっては心地よい政策です。全体最適より部分最適を優先して、資本主義を守ろうとしたわけです。

「新しい資本主義」という考えは、いわば必然

ところが、ソ連が崩壊し、資本主義に対抗するイデオロギーはなくなった。「社会主義革命を阻止する」という強力な動機もなくなった。資本主義の極致ともいえる新自由主義が現代に蔓延したのは、これらが理由です。

ところが、ご承知のとおり、市場だけに任せていては資本が暴走します。効率至上主義、利益至上主義は人々の心地よさを奪います。効率を求めすぎると、人は疲弊しますね。多くの人がもう実感しはじめていると思います。

昨年あたりから、岸田政権で「新自由主義からの脱却」「新しい資本主義」といった言葉が出ましたね。これは時代の要請を認識していれば、必然の流れだと私は思います。

日本の実質賃金の推移

以上の流れをふまえれば、下図のとおり日本の賃金が伸び悩んでいるのも、部分的に納得できるのではないでしょうか。

出所:東レ経営研究所

ただし、ここで疑問が生まれると思います。

アメリカが「自由」という美名を用いる戦略的背景

「じゃあ、なぜアメリカは賃金が上がっているのか?」

国として強いからです。新自由主義という弱肉強食の原理は、最強国に有利です。2番目以下の国は規制緩和によって1番目の国に収奪されます。これは自由貿易でも同じことが言えます。

「なぜアメリカは自由貿易を主導してきたのか?」

国として強いからです。日本に対して農業・畜産(牛肉やオレンジ)をはじめ、保険などの金融も自由化させましたね。半導体も同じくくりでしょう。強い国は食料自給率や産業競争力をこうして他国から奪うことさえ可能であった歴史があります(とくに日本は安保という国家的中枢機能を米国に委ねているのでなおさら立場が弱いですね)。今の中国に米国がしていることは、およそ四半世紀以上前に日本にしたことと似ています。

また、そもそも強い国は国際的なルールづくりを主導できます。当然、自国優先で自国に利するルールを作ろうとします。

このような背景から、各国が新自由主義を採用し、グローバル資本主義体制を世界的に構築することは覇権国であるアメリカに有利な秩序と言えるでしょう。「自由」の名のもとに、他国の市場から富を搾取(ときに収奪)できるからです。

アメリカは、こうして美名のもとに自国に利するプロパガンダ(政治的意図をもつ宣伝)を構築し、流布させるのが上手いと思います。第二次大戦でドイツからその重要性を身をもって学んだのでしょう。

日本の賃金が伸び悩む背景に、ミクロレベルの「同質性」あり

再度、日本の伸び悩む賃金に話題をもどしましょう。

「日本は物価が安く、売上が伸びず、満足に研究開発などの投資もできず、競争力が衰えた」といった見方がありますね。一定の説得力があります。

極上の沖縄そば店が「採算ギリギリ」である理由

実際に、沖縄でその現実を目の当たりにしました。

とある沖縄そばの人気店を営む店主と話し込んだことがあります。ちなみに、その店の沖縄そばはめちゃくちゃ美味しくて感動しました。

店主いわく、かつおぶしなど出汁の段階から原材料にとことんこだわっているので、1杯900円では赤字、600円のデザートを一緒に売り込んでなんとか経営している状態。本当は1,000円以上にしたいが、値上げすると、「ラーメンに1,000円?」と地域で悪評が立つので、上げづらい」と苦しい胸の内を吐露していました。

同質性による無言の圧力ですね。

あの沖縄そばは、2,000円しても食べますよ。それぐらいこだわりを感じる極上の一杯。

本来それぐらい値段をとってもいいのに、とれない無言の圧力を店主が感じている。

つまり、この沖縄そばは非常に競争力があるにもかかわらず、適正な値段で売れず、ギリギリのところで経営している。へたすると閉業に追い込まれない。

これはマクロ的に考えると、「せっかく素晴らしい技術と競争力があるのに、日本特有の同質性の圧力によって適正価格で売れずに技術が姿を消す」ことと同じことが沖縄の個人事業レベルで起きている、と。

国レベルでも個人レベルでも損失です。

ユニクロ → 経済政策 → 資本主義 → 冷戦構造 → アメリカ → 沖縄

と、地球と時間軸を色々とめぐりました。長くなるので資本主義の段階的発展は割愛し、具体例は簡略化しましたが、以上を踏まえると、ユニクロ賃上げのニュースはある意味で必然の出来事のように感じられるのではないでしょうか。

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