マイナス金利が常態化するという異常事態は新常態となるのか

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「喉元過ぎれば熱さを忘れる」

これは特に日本で顕著かもしれませんが、多かれ少なかれ人間においてこの現象はありますよね。

なぜなら、環境の変化に適応するために誰しもが「慣れる」からです。

慣れることは、環境に適応する際に非常に重要なのです(ふだん特段いやと思わないのに、長期休暇後に出社がきつく感じる人は、この「慣れ」の効果が弱まっているからとも解釈できます)

一方で、この「慣れ」が引き起こすものの1つに、「バブル」と「金融緩和の神格化」があります。

マイナス金利が常態化するという異常事態

昨今の金利を例に挙げてみましょう。

当初はECBがマイナス金利を導入し、日銀も導入しました。当時は、「マイナス金利」という異常事態というか、前例のない事態に大衆やメディアは注目し、センセーショナルに取り上げていました。

しかし今やどうでしょう。金利はマイナスに沈んだままですが、もはやこれが新常態と言わんばかりに関心を向ける人は大きく減りました。人間の特性を考えれば、ごく自然な流れです。

関心を向ける人が減ったであろう中、改めてこのマイナス金利が続いている状態について考えてみましょう。

金利とはそもそもなにか

よく見られがちな言説として、「株式とは、企業に投資しているのであって、金利の上下は企業の本質的価値に関係ない」というものがあります。気持ちはわかりますが、理論的には誤っています。

金利は株価の決定因子として非常に重要な要素であるため、株式投資で市場平均以上のリターンをねらう人であれば、金利には目を配っておいた方がよいです。

そもそも金利というのは、経済学的に言えば「資金需要」の裏返しという側面があります。

資金が欲しい人がいるからこそ、資金の供給側の対価として金利が付くわけですね。

資金需要が大きい(=お金を借りたい人が多い)と、需要と供給の関係で、利子率である金利も上がるわけです。これは想像に難くないと思います。

ではこの「金利」というものを理解した上で、話を進めます。

昨今の金利状況として、日本・欧州の金利はマイナス金利を導入しても物価上昇率に大きな変化がみられず低位で推移してきました。そしてマイナス金利の導入に至りました。

そして、米国も下図(Tradingeconoics.com)の通り、インフレ率が高まらず、長期的に0%近傍に収れんしてきたことがわかります。

インフレ率が高まらないため、限定的な利上げ幅に留まりました。FRBの使命の1つである「物価の安定」を実現するために、利上げせずともそもそも物価上昇率が高位でないため、利上げをする必要がありません。

ゆえに、米財界や米国株投資家の間でも「物価を基準に利上げをする時代は終わった」「金融緩和をしてもインフレが起きない時代に突入している」との論調まで見られはじめています。

私はそのようには考えていません。人間の脳の構造やDNAが根本的に変異しないかぎり、人が関わる歴史というものは繰り返しますし、冒頭に述べた人間の「慣れ」によってバブルは必ず起きるでしょうし、金融緩和の副作用はいずれ必ず時間差でインフレとなって表れると考えています。

低位なインフレ率の象徴として、FRBのパウエル議長が、「日本と同じ過ちを犯さないために、インフレが低位に推移する前に、事前に利下げの手を打つ」と言うほどです。

つまり、「インフレ率が高まらない結果、利上げせずに済み、その結果、米国株にとって(一時的にせよ)良好な状態が続いている」というのが今の状態です。

「金融緩和をしてもインフレは起きない」?

では、「金融緩和によるインフレはもう起きない」と主張する論拠を考えてみましょう。たとえば以下が一例として考えられます。

「資金需要が大きい(=お金を借りたい人が多い)と、需要と供給の関係で、利子率である金利も上がる」と先述しました。

この論を借りれば、「金利が低い=資金需要が小さい」わけですね。

つまり、金利が低位で推移してきた今、マクロ的に見れば、「お金を借りたがる企業が少ない」そして、以前と比べて「お金を借りたがる企業が少なくなった」という仮説が成り立ちます。

この、「以前と比べてお金を借りたがる企業が少なくなった」現象も、近代を振り返れば、想像に難くないのは確かです。

時代の変容に伴う、産業の質的変化

なぜなら、「産業革命以降、重化学工業を主体として、重厚長大な設備への投資が必要で、その設備投資のために多額の資本が必要で、大量生産・大量消費による経済成長(尺度はGDPという、やや一面的な指標)が21世紀のIT革命までの一連の流れだった」からです。

つまり、IT産業が勃興するまでは、利潤創出の為には多額の資本が必要であってきました。

しかしIT革命で時代は変わりました。事業を営む際に以前ほど資本が必要でない形態の企業が勃興しました。米国企業で象徴的なのは、GAFAとも呼ばれる巨大IT企業群です。

これらIT企業の特徴は、Form 10-Kを見れば一目瞭然ですが、PLを見てもキャッシュフローを見ても、投資支出が僅少にも関わらず、利潤創出力が半端ではありません。

グーグルもアマゾンもフェイスブックもアップルも、サービスを提供するたびに大量の物質的な資源や資本を必要とするものではありません。

では次に日本企業を見てみましょう。象徴的なのはソニー(SONY)です。

以前はテレビなどの家電主体でしたが半導体を経て、今や圧倒的な稼ぎ頭はリカーリング事業でもあるプレイステーションネットワークの月額料金です。

これも大きな家電などと比べ、物質的な資源や資本を必要としません。毎月月額料金を徴収するたびに設備投資が必要なわけではありませんよね。

重厚長大な重化学工業から、ITサービスに業界の中心は移ってきました。時価総額ランキングの変化を眺めれば、その趨勢は明瞭です。

まとめ

一応こういった「産業構造の変化」が「インフレが今後は起きないのではないか」という主張の論拠としては考えられます。

しかし繰り返しながら、個人的にはその論には懐疑的です。遅かれ早かれインフレは起きるのではないでしょうか。その場合はFEDも利上げせざるを得ず、米国株の良好な環境は一部崩れる可能性が考えられます。

ただしいずれにしても、「低インフレ・低金利の長期化という異常事態が今後数年は続く可能性があるということには留意して、一定のポジションを株式に割いていくのが妥当である」という結論にはなります。

しかし繰り返しながら喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人間の性です。インフレが起きないという異常事態が今後永続的に続くケースは想定しない方がよいと思います。

Best wishes to everyone.

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公開日:2019年7月19日