米FRB利上げによる影響を考察
世界の覇権国家である米国の金融政策は、先進国・新興国問わず、世界経済に影響を及ぼしてきました。
株式市場においても例外ではなく、米FRB(連邦準備制度理事会)の一挙手一投足に色濃く影響されると言ってよいでしょう。
象徴的なのが、2013年5月に起きた「テイパー・タントラム(かんしゃく)」と呼ばれる市場関係者のかんしゃくとも言える過剰反応です。
当時のFRB議長バーナンキ氏が緩和縮小の可能性に言及した途端に、以下のようなパニック的なリスク回避行動がありました。
- 株価急落
- 長期金利上昇
- 商品価格下落
- 新興国通貨売り
- ドル売り円買い
それぐらい米FRBの方針は世界に影響を与える、という好例と言えるでしょう。直近では米FRBが自ら利上げによる新興国への影響について、発信するほどです。
そんな主要な因子であるアメリカの中央銀行・FRBの利上げによる影響を以下3つまとめましたので1つずつ見ていきます。
米FRB利上げによる3つの影響
- 外債依存度の高い新興国から資金流出⇒新興国通貨安・国債信用低下
- ドルペッグの国・地域の通貨が売り圧力を受け、利上げ⇒不動産下落
- 米利上げ局面終盤ではドルは下落しやすい傾向
米利上げ影響①:外債依存度の高い新興国から資金流出⇒新興国通貨安・国債信用低下
なぜ新興国から資金流出?
米国の長期金利が低い時期(≒利下げ局面)は、投資家は基本的により高い利回りを求めて新興国(一般的には1人あたりGDPが1万ドル以下の国々)の株式や債券を選好する傾向があります。
新興国は自国通貨の信用力や流動性が低いこともあり、米ドル建てでも国債や社債を発行します。ただ、先進国ほどの財政基盤や信用力はない分、利回りが高くなります。
その高い利回りを求めて、投資家は新興国の金融商品を購入するという行動ですね。米ドルの金利が低い時期であれば、基本的には金利差により、相対的にドルに対する新興国通貨安圧力は和らいでいる状態です。
そのため新興国の利払い負担も少なく、新興国の脆弱性が覆われる時期ですから、利回りを追求する投資家もリスク選好的になれます。
米利上げ⇒利払い負担増・米国へ資金回帰
一方で、米国が利上げを行い、米ドルの金利が上昇すると、米ドル建てである以上は米ドル建て債券の利払い負担が増えてしまいます。(米ドル建て債券を発行すればするほど、外債依存度は高まりますね。)
更に、米金利が上がるのであれば、わざわざリスクを取って信用力の低い新興国へ投資せずとも、米国へ資金を回帰させて高金利を享受した方が良いですよね。なので、財政基盤の不安定な、脆弱性の大きい新興国から資金が流出して、米国へ資金が還流するわけです。

上場インデックスファンド新興国債券(1566)の1年チャート
上図は上場インデックスファンド新興国債券の株価推移ですが、利上げペースの速まりに伴い、債券価格の下落が鮮明になっています。
外債依存度の高い新興国ってどんな国?
基本的に外債依存度や財政基盤の脆弱性は格付けに反映されます。債務比率を確認しても良いですが、格付けを確認する形でもOKです。

新興国の国際格付け(出所:NIKKEI STYLE)
アルゼンチンは以前もデフォルトを起こしており、100年債を発行したことでも、ある意味、名をあげました。元々国家財政が脆弱です。財政赤字・経常赤字・インフレ率全てにおいて脆弱です。
トルコも2018年5月現在、通貨リラが下げ足を速めており、過去最安値を更新し続けています。政治リスクも一因ですが、2017年から1年間にわたって、米利上げと歩調を合わせるように一貫して下落。

トルコリラのチャート推移(1年間)
トルコは経常収支の赤字も巨額で、外債依存度が高いため、米利上げ局面では資金が流出しやすい国です。高金利通貨は基本的にこういった無視できないリスクが潜んでいます。
こうした新興国の信用不安がきっかけで株式市場も暴落し得るので注意が必要です。90年代後半のアジア通貨危機は記憶に新しい事象ですね。
ちなみに、日本は今のところ国内投資家が国債保有の過半を占めます。ところが外国人投資家の保有割合がじりじり上昇しており、この傾向が顕著になってくると日本も危なくなってきます。
国内で消化されてるうちは、信用不安が顕在化しない限り、国債の売り浴びせは起こりにくいですが、外国人投資家が国債の過半を握るような事態になると、売り浴びせのターゲットになりやすくなるでしょう。過去何度か日本国債売りを狙ったヘッジファンドもいますね。
外国人投資家であれば当該国の債券に投資する経済合理性がなければ当然売却してしまいます。そうすると国債価格は下落し、新規発行の利払い負担が増えてしまい、IMFの支援もなくば、最悪のケースはデフォルトという事に相成ります。
米利上げ影響②:ドルペッグの国・地域の通貨が売り圧力を受け、利上げ⇒不動産下落
ドルペッグ(通貨の相場変動を米ドルに連動させること)を採用している代表的な国・地域と言えば香港です。以下の通り、香港は米国の政策金利に合わせて連動します。

香港と米国の政策金利 (出所:三井住友アセットマネジメント)
2017年~2018年にかけて米FRBの利上げが段階的に行われており、香港ドルは米ドルに対して下落し、香港の中央銀行である金融管理局が通貨防衛に追われました。

香港ドル/米ドルの推移(出所:香港金融管理局)
2018年4~5月の香港ドル買い介入額は日本円で約1兆円。米国の長期金利の上昇により、香港ドル売りの圧力が強まっており、利上げ観測が浮上しています。(そもそも米国が利上げをすると、ドルペッグの香港も追随し、政策金利を引き上げるのは既定路線ではあります。)
利上げ観測が起こると、低金利を背景に価格が上昇していた不動産に下げ圧力がかかります。理由は、利上げによって、
- 「HIBOR(注)が上昇」 or 「大手銀行がプライムレートを上げる」
ことになり、住宅ローン金利が上がるため、不動産取得のハードルが高まり、需要が冷え込むからです。
香港の住宅ローン金利は、基準金利である香港銀行間取引(HIBOR:英国LIBORの香港版)か、大手銀行のプライムレート(最優遇貸出金利)が基になる。
余談ですが、香港の不動産市場は市場規模が小さい割に中国本土からの投資資金が多いですから、資金供給が多く、短期金利が上がりにくいことが特徴です。
そのため、金利の低い香港ドルを借入れて、金利の高い米ドル建ての金融商品で運用するキャリートレードが盛り上がりやすいです。
米利上げ影響③:米利上げ局面終盤ではドルは下落しやすい傾向
利上げ局面において、金利の上昇に伴って当然ドル高が起こると考えがちですが、さにあらず。
特に、利上げから3年経過時点においてはドル安になる傾向があります。
過去の利上げ局面における、
- 利上げ開始時期
- 利上げから3年経過時点でのドル実効レート騰落率
を示したものは以下の通りです。
- 1986年12月: -11.9%
- 1994年2月: +0.1%
- 1999年6月: -7.4%
- 2004年6月: -9.8%
- 2015年12月: -5%(2018年6月時点)
過去5回の利上げ局面を振り返ると、ドル安傾向にあることがわかります。
「利上げをするから、利上げ局面において必ずしもドル高にはなるわけではない」ということは頭の片隅に置いても良いところですね。
教科書通りに行かないのが市場の難しさでもあり、面白いところでもあります。
ご参考になれば幸いです。
Best wishes to everyone!