日本銀行「国債買入れの減額ペースを緩める、物価上昇は今後減衰すると考えている」
6月17日に開かれた金融政策決定会合後の日銀植田総裁の記者会見を聴いてみました。
まず会合の要旨は以下のようにまとめられます。
- 政策金利0.5%で据え置き
- 長期国債買入れの減額ペース
2026年3月まで:原則、毎四半期4,000億円程度ずつ減額
2026年4月~2027年3月まで:原則、毎四半期2,000億円程度ずつ減額 - 必要な場合には適宜計画の見直しや、国債の買入れを実施
長期金利と国債買入れについて

出所:日本銀行
長期金利は金融市場で形成されることが基本としつつも、必要な場合には国債買入れをおこなうと。
要は「長期金利は金融市場で形成されることが基本ではあるが、必要な場合には介入する」と。
今までYCCによって人為的に長期金利をおさえつけてきたわけですから、長らく国家管理相場であってきたわけであり、今後もその色彩は残るのでしょう。
ちなみに田村審議委員は「減額ペースをゆるめずに国債買入れを減らしていくこと」を提案したものの否決されたようですね。理想は減額ペースを緩めないことでしょうけど、足もと長期金利が上昇傾向にある以上、現実的には配慮せざるを得ない状況に追い込まれたということかと思います。
物価上昇率について
物価上昇率について以下のように総裁は回答しています。
- 物価上昇率が3%を超えているのは、輸入物価上昇と米価格の上昇が主因であり、先行きについてはこれらの影響は減衰していくと考えている
- 先の展望レポートの通り、経済と物価は下振れリスクのほうが大きいと判断している
ということで、今までの内容を踏襲したものであり、「あくまで一時的な物価上昇」とのスタンスを崩していません。
もう3年は物価上昇が続いているのに「一時的」というのは無理があるかと思いますが、「利下げすればインフレ加速、利上げすれば財政圧迫」というジレンマがある以上、利上げをしない理由をこうして後付けするしかないといったところでしょうか。
国債買入れ減額ペースを緩める目的は?
記者会見の質問で「国債買入れ減額ペースを緩める目的は」と問われた際に、以下のように回答されています。
- 財政への配慮というよりは、長期金利の乱高下による経済への悪影響を考慮した
これもこう答えるしかないですよね。
「財政を配慮して金融政策を決定した」なんて言おうものなら、海外勢が足元を見て国債を売り崩してくる誘因になりかねません。
ETFの処分はどう考えているか?
従来通りの回答に終始していました。
今後も検討を続けていく、ということでしょうけども、ちなみに過去に日銀が買い入れた銀行株売却の事例に照らし同様のペースで保有ETFを売った場合は「100年以上かかると思う」と以前言及していたとおり、凄まじい規模感かつ全ての保有ETFを売却することが現実的ではないことがわかります。
まとめ
特段新たな内容はないというか、基本的に従来のスタンスを維持しつつも、順当に考えれば「足もと国債が売られていたことを受けて長期金利の上昇に配慮して国債の買入れ減額ペースを緩めた」というのが内実ではないかと思います。
- 利下げすればインフレ加速
- 利上げすれば円キャリトレードの逆回転リスク、財政圧迫リスク
このジレンマがある以上、インフレを放置し、財政問題はインフレで「解決」(インフレによって債務を圧縮)するしかないのだろうと思います。
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