「米ドルの覇権はまだ続く」というロイター記事が興味深いので、要約して解説
興味深いロイター記事(上記)がありましたので、以下紹介です。
「当面は米ドルが基軸通貨であり続ける」
要約すると、次のような内容です。
- 昨今のドル兵器化(つまり弊ブログでも2023年に報じていたように「米国のロシアに対するドル資産の凍結(金融制裁)を受けて、各国が『米国と対立するとドル資産を凍結されるかも…』と認識したこと)で各国でドル離れがあっても、米ドルが当面は基軸通貨でありつづけるだろう
半世紀前からドル離れは指摘されていたが、今までドルは健在
その背景として、以下が指摘されています。
- 1960年代から米国の負債の多さを理由に「ドルの基軸通貨としての地位は失われるだろう」との経済学者による観測は幾度もあったが、現在に至るまで基軸通貨として使用されている
- 1945年以来、米国の国内総生産(GDP)が世界経済に占める割合は半減した一方、ドルは依然として世界の外貨準備の約60%を占める
- 米国の輸出入額は世界貿易の10%に満たないが、国境を越えた商取引の4分の3にはドルが活用される。世界金融でのドルの役割はさらに顕著で、通貨スワップの85%、国際的な銀行間取引でドル建てが占めるシェアはさらに高い
印象的だったのは上記①の通り、ドル離れが指摘されたのは今般が初めてではないという点です。
つまり、政府債務の多さを理由にした崩壊論は米ドルも日本円も以前よりありながら、現在に至るまで大きな問題にはなっていないという状況ですね。
関連記事:金融バブル崩壊論。通貨・債務の危機、日銀の債務超過などリスクと対策を点検。
外貨準備に占める米ドルの割合は減っている
②で「ドルは依然として世界の外貨準備の約6割を占める」とあります。弊ブログで以前報じていたように、世界の外貨準備に占める米ドルの割合は確かに足もと減っていました。最新データを以下更新しました(下図:国際通貨基金/IMFのデータを元に筆者作成)。
世界の外貨準備に占める米ドルの割合は足もと53%であり、着実に減ってはいますね。昨今の金価格の上昇の背景には中央銀行の買いが観測されており、米ドル離れと無関係ではないでしょう。
一方でIMFのデータを見ていると、2番手のユーロは18%で横ばいなんですよね。つまり、ロイターの記事でも指摘されているように「米ドルに代わる通貨がなく、移転コストが高い」というのもうなずけます。
米国の対外債務の多さは無視できない
ロイター記事から以下抜粋します。
世界経済の拡大にはより多くのドルが必要となる。
しかし、世界の基軸通貨を外国に供給することで、米国の負債はさらに膨らむことになる。米国が世界最大の対外債務国であり、対外負債が対外資産を26兆ドルも上回っている事実は、ドルの国際的地位のバグではなく特色だ。
トリフィン氏は、遅かれ早かれ基軸通貨の発行国が債務を返済できなくなる転換点に達すると予言した。その瞬間がまだ到来していないとしても、この問題を無視すべきではない。
上記青字の論理展開は、おそらく以下かと考えます。
- 「基軸通貨である」
=決済通貨として多くのドルを供給する必要がある
=米国債など基軸通貨としての実需で通貨が割高=産業の空洞化=米国の対外債務が膨らむ
そして、「対外債務が膨大であると、いずれ臨界点を迎える」という論は私も同感です(これは日本にも言えると思っていますが)。16世紀に新大陸から銀が大量に流入したことで銀価格が暴落した歴史が示唆するように、価値の裏付けがない現在の紙幣は無限に刷れるものではなく、供給が多過ぎれば減価(インフレ)は避けられない、と考えています。
ただ、その臨界点がいつ来るのかがわからないんですよね。したがって、ロイターの論調としても「無視すべきではない」「当面はドルの覇権が続く」といった表現に帰着しているのだと思います。
まとめ
以下のようにまとめられると思います。
- ロイター記事の要旨
昨今のドル兵器化(ロシアに対するドル資産の凍結という金融制裁)によってドル離れが起きている現象があるが、当面は米ドルが基軸通貨でありつづけるだろう - その背景
①半世紀前からドル離れの観測はあるが、今のところ十分にはそうなっていない
②外貨準備や国際決済において、米ドルは依然として支配的な地位を占めている
③ドルに代わる通貨がない(確かにデータを見ると、2番手のユーロが伸長しているわけではない) - 一方で、無視できない問題も
ただし、対外債務は無限に膨張できるわけではなく、臨界点はいずれは来るだろう
本記事を書く際には、ロイターの記事に加えて、歴史と金融の知識、国際機関のデータを活用したことになります。普段のインプット(読書や新聞の閲覧)はふとした時に役に立つようです。
興味深い記事があったので、私見を交えて要約と分析をしてみました。ご参考になれば幸いです。
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