「2028年度までに、金融所得による社会保険料負担増の可能性」について思うこと
SNSでは、以下報道が話題です。
自民党は、所得に応じて徴収される医療や介護の保険料の算定に、株式配当などの金融所得を反映する仕組みの徹底に向けた議論を始めた。25日、プロジェクトチームの初会合を開いた。現在は確定申告をした人のみ保険料に反映され、不公平との指摘があった。
見直しによって未申告だった人の保険料が増える可能性がある。算定の事務を担う自治体の負担が増えるなど課題も多く、2028年度までに可否の検討を進める。
高齢化によって膨らむ医療や介護の費用を賄うため、金融所得を踏まえて保険料負担を増やし、社会保障制度の持続性を高める狙い。
配当などの金融所得は今まで分離課税で社会保険料に反映されておらず、いわば資産家優遇制度であったと言えます。したがって、不公平の是正という観点にかぎれば説得性があります。一方で、ほかの観点から以下にいろいろ記します。
個人的には以下の観点から「まぁそらそうなるよなぁ」という感じです。
- 少子高齢化
- 今まで「取れるところから取る」という徴税傾向
- 資本主義のお面をかぶったマイルドな社会主義
日本の状況に鑑みれば、もとより今後の諸制度と政策には特段の期待は持ちにくいでしょうから、みずからできることを粛々とやるのみです。
① 少子高齢化
社会保険である年金制度を一例にとってみましょう。年金制度は賦課方式といって、現役世代が高齢者の年金財政を支える構造です。
したがって、少子高齢化で現役世代より高齢者のほうが多いと、必然的に現役世代の金銭負担が重くなります。
これを是正するには、高齢者への年金支給額や医療費などの支援を減らすことが本丸となりますが、民主主義である以上、多数派である高齢者からの集票が肝になるため、「高齢者に不遇となる政策を掲げる動機が政治家にはたらきづらく、ひたすら現役世代の負担が増えやすい」という構造的な要因を指摘できます。
したがって今回の件にかぎらず、人口構造と財政健全化という御旗や手法が根本的に変わらないかぎり、手を変え品を変え実質的な増税が続くであろうことは容易に想像がつきます。
②「取れるところから取る」徴税傾向
今までの税制・増税を振り返ると、「取りやすいところから取る」という傾向がみられます。
たとえば社会保険料にしても、天引きで簡便に徴収できるサラリーマンの負担率が一貫して上昇しています。
今回は自治体の負担が事務的に増えるという足かせはあるものの、金融所得ならば多数派を占める金融所得が低い層からの支持は得やすいであろうことから、その観点においては政策的には実現しやすそうです。
議員定数削減はせず、裏金や実質的な脱税があってもみずからは地位を保持するという「自らの襟は正さない行動様式」がもはや当たり前になっている現代日本において、「取りやすいところから取る」という徴税傾向はある意味なんら不思議ではありません。
「収入の多寡で保険料が変わる」というのは、そもそも保険の基本概念である「受益者が均等に負担する」共済とは相反するわけですが、それすらも易々と超越するのが我らがジャパンの政策。そしてさらには、かような状況でも唯々諾々とした有権者が多数派を占めるならば、むべなるかな、といったところであります。
③ マイルドな社会主義
基本的に我らがジャパンは、ムラ社会的性質ゆえか、はたまた「平等」「集団主義」「協調性」という美名の下に「出る杭を打つ」風潮ゆえか、なにかに秀でたり突出していたりすると、抑圧される傾向がときにみられます。
これは海外経験をもとに他国と比べても日本において顕著です。資本主義というのは格差拡大装置であると同時に、伸びる人をとことん伸ばす側面もあるでしょう。対して社会主義とは、「平等」の名において「やる気や潜在能力があっても、その動機を抑圧する構造」が特徴的な一面を持つ制度でもあります。
拙著『#シンFIRE論』にも記した通り、金銭的に裕福になり、心に余裕が生まれれば、必然的に他者や社会に目を配る余裕ができ、他者へ貢献できる潜在余地も大きいはずです(性悪説ではなく性善説にもとづくかぎり)。
したがって、人を育むことと同様、後ろ向きになにかを抑圧するのではなく、むしろなんらかの活動を自由に促進させるほうが人間の潜在能力を十全に発揮させられるはずですが、日本というマイルドな社会主義国では前者の措置が取られがち、という見方もできそうですね。
まとめ
ということで、以下の観点から「まぁそうやわなぁ」という印象です。
- 少子高齢化
- 今まで「取れるところから取る」という徴税傾向
- 資本主義のお面をかぶったマイルドな社会主義
「どのような状況になろうとも、自分ができることを粛々とやりきるだけ」という人生に通底する基本理念があり、自分なりの巨視的な状況把握があれば、とくに意外性もなく、今まで通り「自分がコントロールできる領域において、建設的かつ前向きに事を処して日々を過ごす」という部分はゆるがないものと思います。
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今回の報道にしても、巨視的に社会構造を見ていれば、自分なりに状況把握や傾向をつかむことができ、判断軸が形成されます。そうした観点でも『#シンFIRE論』で例示しています。