イランがイスラエルへドローン発射、過去の地政学リスクにおける市場の傾向
本記事では、イランがイスラエルに報復攻撃をしたことを受け、歴史的経緯の概略と過去の株式市場における傾向を記します。
地政学の観点
まず米国とイスラエルの「特別な関係」に関して。米国におけるユダヤ系は人口は約750万人で、全体の2%程度に過ぎません。しかし政財界にはユダヤ系有力者が多く、政治的にはその大きな存在感が目立ちます。
- イエレン財務長官
- ブリンケン国務長官
- 米連邦議会上院の与党・民主党のトップ、チャック・シューマー院内総務
これら現在の政治的有力者もユダヤ系であり、ユダヤの国イスラエルに対して米国は伝統的に友好的であってきました。今回もバイデン政権はイランに自制を求める声明を出しています。
ただし、イスラエルはガザへの苛烈な攻撃により、国際的に孤立を深め、同盟国の米国からも非難されるなど、暴れ馬なネタニヤフ政権とは関係がよろしくありません。
とはいえイランとイスラエルが全面戦争になれば、米国を主体とした西側諸国はまた反イランを明確にする公算が高いでしょうから、その観点においてはイランがそのリスクを冒してまで全面戦争に踏み切る可能性は低いという見方はできます。
その意味では、今回部分的な報復攻撃にとどまれば、イランが体面を保つための軍事行動であり、既定路線と言えると思います。米英がすでにドローンを撃墜していることからも、現状ではイランが抑制的となる可能性は高そうです。一方でリスクシナリオのひとつは、近年の行動に鑑みれば、イスラエル側が抑制的でない場合が挙げられると思います。
なお中東情勢は、元をたどれば英国の「三枚舌外交」に端を発する、歴史的に不都合な真実を内包しています。国際秩序という言葉がいかに霞のようなものであるかを物語っています。
株式市場への影響
さて、今回は金曜にすでに米国株は下げており、サンデーダウも開戦の報を受けて1%ほど下げるも、現時点では反発傾向。市場はイスラエルの動向に注目しそうです(本記事では道義的な見地による各論は記さず)。
近年の傾向
戦争によって株式市場が暴落に至ったケースは近年みられず、湾岸戦争やイラク戦争において、
- 下げても持ち直す
- 上昇継続
といった影響がみられました。
1990年 湾岸戦争
- S&P500:開戦2か月で-19.9%、終戦時には +7%
- 原油価格:+70%超
2003年 イラク戦争
- S&P500:上昇し続け、ピーク時には+78%
- 原油価格:大幅に上昇
2022年 ウクライナ戦争
- 原油や穀物価格の上昇によって、米国のインフレに作用
まとめ
- 過去30年間の地政学リスクでは、戦争を直接的な原因とした株式市場の暴落はみられない
- 今後、「交戦国が中東全体に拡大等 → 原油価格の上昇 → 米国をふくむ世界的なインフレ悪化に作用 → 利上げ懸念によって株価には逆風」がリスクシナリオか
「遠くの地政学リスクは買い、近くは売り」という投資の格言があります。そうした前例に倣えば、悲観する必要はないでしょうが、一方で市場は前例のないこと(例:交戦国の拡大)を嫌います。
日米ともに高値圏にありますから、情勢が落ち着かなければ日本株は深い押し目をつくるかたちとなるか、週末中に落ち着けば材料出尽くし、となるか。いずれにしても市場参加者にとって気になるトピックかと思いますので、過去の傾向をまとめました。
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