米20年債に3,000万円を投資。損切りしたほうがよいか
以下のご質問に回答しています。
米国の生債券に3,000万円投資しています。
20年の長期債、利率3.875%、
最近の長期債の急落や、格下げもあり、解約したほうがよいですか。
初めまして。
三菱サラリーマン様のブログや著書をもとに、お金とは何かなと考えてきた50代半ばのものです。
もし、お時間があれば読んで頂けたらと思います。
2年前に夫が亡くなりました。自宅で4年看取りました。当時から午前中だけ働き続けております(年間120万円程度、月に8万円位)
亡くなってからは1日1日を終わらせる事で精一杯です。夫の遺族年金が毎月15万円
投資は
- 積立てNISA 楽天VTI 300万円(100万円程度プラス)
- ideco楽天VTI 80万円(15万円程度プラ ス)
- VYM 500万円(80万円程度プラス)
ずいぶんアメリカに偏りがあるなとは思い、来年からはオールカントリーか、8資産均等などに分散予定です。
とにかく小さく、国の税制が有利なものだけやってみようか、という考えです。
他、夫が残してくれた現金が7,000万円ほどありましたが、それには手をつけず、60歳までこれまで通りに月8万円程度働けば、私1人なら十分やっていけると思っていました。
ところが、最近になって働くのが苦痛になってきました。
私の収入ではギリギリです。働く時間を増やしてなんとかしなくては、とお金のことをずっと考えてばかりでした。でも、実際には今の精神面では働けないのではと思うようになりました。
そんな中、アメリカ生債券をうっかり購入してしまいました。
- 3,000万円
- 20年、利率が3.875%、月に約8万円程度
つまり、もう働きたくなかったんだと思います。疲れてしまったんだと思います。
しかし、不安な中の判断が、アメリカ政府が破綻したらどうしたらいいか、など考えると、間違いだったように思うようになりました。
今、解約しますと、約260万円の損失になります。かなりの痛手です。でも、ずっと破綻のことを考えるよりは解約したほうが良いのか、世の中にはもっとつらい人は沢山いて、ちゃんと働けばなんとかなる、いや、仕事はもう精神的に無理なんじゃないか、とグルグル悩んでおります。
三菱サラリーマン様なら、こんな浅はかなことはされないと思います。
投資は自己責任です。
これからの景気後退、アメリカ国債の格下げ、アメリカ生債券は解約した方が良いと思われますか。夫が遺してくれたお金なのに、何してるんだろう。
要領を得なくて大変申し訳ありません。夫が亡くなり、息子も病気になり、お金の相談を誰にもできずに困っております。
お時間があればで構いません。もし、ご回答頂ければこんなに有り難いことはありません。どうぞよろしくお願いいたします。
こんにちは。いつもご覧いただきありがとうございます。
お金の相談会は応募多数につき対応しきれず、一時停止とした次第です。すでに応募くださった方々とのご相談を終えたら、また条件を整えて再開予定です。
さて、ご状況拝察します。以下回答になっていましたら幸いです。
国債への信認低下は、市場指標からは感じられない
たしかに、米国債の格下げ、財政赤字もあり、「米国政府が破たんしたらどうしよう」と、20年債の損切りをお考えになるのもわかります。
ただ、市場指標の観点からは、国債への信認低下(財政破綻の懸念)は現状みられないと考えております。以下詳しく見ていきますが、難解であれば下段の赤枠に飛んでもらえればと思います。
長期金利の上昇要因
まず、現在長期金利が急上昇(=長期債の価格が下落)しています。
なぜそうなっているのか、探ってみましょう。まず一般に長期金利の上昇要因として、主に以下5つ挙げられると思います。
- 景気回復の進展
個人消費や設備投資などが拡大して資金需要が高まることから、金利上昇要因 - 期待インフレ率の上昇
名目長期金利=実質長期金利+期待インフレ率 - 金融引き締め
政策金利の上昇にともない、長期金利にも上昇圧力 - 財政拡大等の資金需要増加、または国債の需給悪化(≒国債の信認低下)
国債の乱発や信認低下があると、需給が悪化し、金利上昇要因 - 期待成長率・潜在成長率の上昇
潜在的な経済力の強さは、金利上昇要因
結論としては、以下現状をふまえていくと、このうち「⑤潜在成長率の上昇」が背景として考えられると思います。
まず、②ではない理由を以下みていきましょう。
10年の期待インフレ率は上がっていない。現在の長期金利上昇は、インフレ期待の上昇によるものではない。
- 期待インフレ率は、直近 2.2~2.4% で安定して推移
したがって、「名目長期金利=実質長期金利+期待インフレ率」であることから、昨今の10年債利回りの上昇は、インフレ期待の上昇によるものではないことを意味します。
国債の信認低下というより、中立金利の上昇を反映して長期金利が上昇しているのではないか
では長期金利の上昇は何が背景なのか。以下にそれぞれまとめています。
- 好景気
→ 米経済は依然として強い - 金融引き締め
→ 金融引き締めは今に始まったことではなく、9月FOMCで短期金利が高止まりする見通しが示唆されたことで長期金利にも上昇圧力はかかりやすい状況 - 財政拡大等の資金需要増加、あるいは国債の需給悪化
→ 普通、国債への信認低下は、通貨安と連動する。しかし下図ドルインデックスは堅調で、通貨安は起きておらず、国債の信認低下を懸念した金利上昇ではないと考えられる
以上から、現在の長期金利の上昇は、潜在成長率の上昇による中立金利の上昇を反映しているという解釈ができます。
補足
実際、パウエル議長は9月のFOMC会見で「累積的な利上げをしているのにも関わらず、想定外に米景気は底堅く推移していることから、いままでの中立金利の水準ではインフレを抑制することができない」との認識がみられました。
となると、米国政府の破たん懸念といった根本的な要因で、今後長期金利がいまよりさらに加速度的に上昇し、高止まりする状況は考えにくいことになります(もちろん、市場の先行きを読むのはきわめて困難ですが)。
むしろ最近の長期金利の上昇はやや不可解であり、
- 株価の下落
- 景気減速
- 地政学リスクによる安全資産への逃避
といったかたちで長期金利の上昇が修正される可能性を念頭におきたいところです。
20年国債は解約したほうがよいのか
では、以上をふまえて、ご質問の20年債は解約したほうがよいのか、という点について。
これからの景気後退、アメリカ国債の格下げ、アメリカ生債券は解約した方が良いと思われますか。
まず、景気後退をご懸念されていますが、一般に景気後退はむしろ長期金利の下落要因であり、長期債の価格上昇要因です。
米国債の格下げはたしかに影響ネガティブですが、上段で述べたように市場はドル売りには傾いておらず、財政破綻を懸念とした長期債の価格下落は考えにくい現状かと思います。
3つの選択肢
とりうる選択肢は、以下3つ挙げられます。
- 生債券は保有継続し、含み損の縮小を期待
- 損切りするにしても、一部にとどめる
- 勉強代と割り切って、損切りをして短期債に移す
私なら①を期待し、様子見します。生債券なら、米政府の破たんといった極端な状況にないかぎり、満期になれば元金が返ってきます。
しかしもし精神的に多大な負荷があるならば、②・③になるのだろうと推察します。拝見するかぎり、株式で同程度の含み益があるのはいくらか心強いですね。
今は「逆イールド(短期金利のほうが長期金利より高い現象)」で、長期債より短期債に妙味があると思います。短期債は長期債に比べ、米政府の破たんリスクや金利上昇リスクがほぼないにもかかわらず、利回りは同等かむしろ高い状況だからです。
まとめ
- 一般に、国債の信認低下は通貨安をともなうが、現状みられない
- 現在の米長期金利の上昇は、国債の信認低下というより、中立金利の上昇を反映しているのではないか
- であれば、長期債の一方的な下落よりも、株安や景気減速でこれまでの長期債下落がいずれ修正される可能性を念頭に置きたい
- 現在は逆イールド。長期債より短期債に妙味あり
回答になっていましたら幸いです。
関連記事
短期債と長期債については、以下に記しています。