イスラエル戦争を受け、株式市場はどうなるか。過去30年の戦争とS&P500の関係を確認
2023年10月7日、イスラエルでは「戦争状態」と宣言される事態となっています。
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに対して大規模な攻撃を実施。ロケット弾が多数発射されたほか、イスラエル領内に侵入した武装集団による襲撃が報じられています。
米国株先物は下落で反応
10月6日の雇用統計を受け、大きく反発していた米国株(ダウ平均株価)ですが、10月8日夜時点では徐々に下げ幅を拡大。-0.41%と小幅に下げています。
戦争が始まるなんて、どうなるんだろう、
保有株はどうなってしまうんだろう
そんな不安な方もいるかもしれません。
過去30年の戦争では、米国株は暴落には至らず
結論としては、過去の戦争で米国株は、
- 上昇継続
- 短期的に下げても持ち直す
といった展開がみられました。
① 湾岸戦争:20%下落、終戦時+7%
湾岸戦争は世界の主要産油国イラクで起きました。イラクのクウェート侵攻をきっかけに、米国主体の多国籍軍がイラクと交戦しました(1990-1991年)。
下図は「開戦日(1990年8月2日)を起点とした、米国株(S&P500)と原油価格(WTI)」のチャートです。
開戦から2か月後の10月11日、S&P500は底をつけ、上昇に転じました。開戦から半年後の翌年2月には終戦、開戦時の水準を回復し、上昇基調へ。
- S&P500:19.9% 下落(351→295)、終戦時には 7%上昇(351→375)
- 原油価格:一時70%上昇後、終戦に向け反落
② イラク戦争:一貫して上昇
イラク戦争とは、米国が主体となり、英・豪、ポーランド等が加わる有志連合によって、イラクの大量破壊兵器保有を口実としてイラクへ侵攻した軍事介入(2003-2011年)。
下図は「開戦日(2003年3月20日)を起点とした、S&P500と原油価格」です。
S&P500、原油価格ともにリーマンショック期まで一貫して上昇しました。
- S&P500:+78%(932→1,565)
- 原油価格:上昇
③ ウクライナ戦争:インフレに作用(間接的な影響)
2022年2月24日に勃発した、ロシアとウクライナ間の記憶に新しい戦争です。
下図は「開戦日を起点とした、S&P500と原油価格」のチャートです。
S&P500は、開戦から当初3%ほど上昇後、下落傾向です。
しかしこの時期に材料視されたのは、主に米国の金融政策の転換、つまりインフレを受けての利上げに対する懸念でした。2021年後半からインフレ高進の兆しが意識されはじめ、開戦前(年始)の時点で米国株はすでに下落基調。
したがって戦争の影響としては、原油価格の一時的な上昇や、ウクライナが穀倉地帯であるがゆえの穀物価格の上昇など、米国のインフレに間接的に一部作用したと言えます。
グルジア侵攻、クリミア危機:影響は軽微
なお、以上のほかに、
- ロシアのグルジア侵攻(2008年)
- ロシアによるクリミア危機(2014年)
がありますが、それぞれ紛争期間が12日、1ヶ月と短く、同期間における米国株は約2%、1%の上昇と大きな影響はみられませんでした。
以上から、戦争と株式市場の関係としては、以下のようにまとめられます。
戦争によって株式市場が暴落に至ったケースは近年みられず、湾岸戦争やイラク戦争において、
- 下げても持ち直す
- 上昇継続
といった影響がみられました。
1990年 湾岸戦争
- S&P500:開戦2か月で-19.9%、終戦時には +7%
- 原油価格:+70%超
2003年 イラク戦争
- S&P500:上昇し続け、ピーク時には+78%
- 原油価格:大幅に上昇
2022年 ウクライナ戦争
- 原油や穀物価格の上昇によって、米国のインフレに作用
今後の焦点:局地的な紛争にとどまるか、全面戦争へ拡大か
湾岸戦争・イラク戦争ともに原油価格は大幅に上昇しました。
では、同じく中東で起きている今回のイスラエル戦争はどうなるでしょうか。
近年、今回のようなイスラエルとガザ地区の紛争が株式市場へ与える影響は、限定的であったケースが認められます。たとえば、2014年にイスラエルはガザ地区に侵攻し、2千人以上が犠牲。それでも、当時日本株をやっていましたが、市場の特段の材料視はありませんでした。
仮に今回イランなどを巻き込んで中東全体におよぶ戦争になれば、原油価格の上昇が想定され、米国のインフレ悪化要因。その場合、利上げへの思惑で株価には逆風となることが考えられます。
今後の焦点の1つは、
- 局地的な紛争にとどまるのか
- 中東全体に広がる全面戦争となるのか
①・②どちらに事が進むのか。
仮に②になると、親イスラエルの米国、親イランの中国・ロシアという大国の利害が関わり、場合によっては世界戦争に発展する危険性もはらむため、さすがに他国からの大規模な介入はなく、局地的な紛争にとどまるのでは、とは考えられます(というか、願います)。
ただ、市場は行き過ぎた反応をみせることもあるため、いずれにしても「エネルギー価格の上昇 → インフレ再燃 → 米金利高止まり」がリスクシナリオとして挙げられると思います。
まとめ
- 過去30年間の戦争では、戦争を直接的な原因とした株式市場の暴落はみられない
- 局地的な紛争にとどまれば、パニックになる必要はないとの判断にはつながる
- 今後、「交戦国が中東全体に拡大等 → 原油価格の上昇 → 米国をふくむ世界的なインフレ悪化に作用 → 利上げ懸念によって株価には逆風」がリスクシナリオか
「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」という投資の格言があります(人命に関わることを材料視する道義的な側面はここでは立ち入らず)。
原油価格の動向はとくに輸入にたよる日本への影響は無視できず、インフレに苦慮する米国にも作用する一方で、日本や米国にとって中東は地理的には遠いことになります。
市場の大きな変動はだれも予期しないかたちで訪れるので、リスクを取りすぎないことが肝要と思います。
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なお、「近くの戦争は売り」という格言があるように、ウクライナ戦争では交戦国のロシアの株式市場は暴落しました。
金の動きにも注目したいところです。
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