銀行は、なぜ住宅ローンより収益性の高い資産運用をやらないのか?
以下のご質問に回答しています。
読者
住宅ローン金利が約1%の日本では、
銀行は住宅ローンより株式投資などの運用をしたほうが利益が高まるのでは?
題名: ご相談
メッセージ本文:
穂高様
いつも楽しくブログを拝読しております。著書2冊とも拝読させて頂きました。当方40代半ばの会社員ですが、こんな生き方もあるのだ!と、目からうろこが落ちた気がします。
一つご質問があります。当方、約3,500万円を投資で運用しています。住宅購入を決めたので、3,000万円のローンを組むことにしました。(半分が変動金利で0.3%、半分が全期間固定で1.4%程度です)。
ローンを組めば投資運用資金を取り崩す必要がないので、3,500万円の投資運用が年率で3%以上で成長してくれれば、十分なメリットが期待できると考えています。というのは巷でもよく話題になっている話と思うのですが、一つ不可解なことがあります。
これだけ住宅ローン金利と投資運用益の差が明白なのであれば、なぜ金融のプロフェッショナルである銀行は、住宅ローンではなく投資運用に資金を回さないのでしょうか?どう考えてもそのほうが大きな利益を生むはずです。
住宅ローンの方が安定するからでしょうか?
貸し倒れということもあるでしょうが、それも保証会社が入るので、銀行にはリスクがない(もしくは投資運用よりはリスクが低い)という判断なのでしょうか?
この辺のからくりが分からず、若干モヤモヤしているところです。お知恵を拝借できますと幸いです。どうぞよろしくお願いします。
いつもご覧いただきありがとうございます。
銀行は、リスクの高い資産や取引を規制されている
たしかに資産運用、とくに株式の収益は高いですね。たとえば米国株の過去平均は7%です。
それゆえ、「日本の現在の住宅ローン金利よりはるかに高く、銀行は住宅ローン事業などせずみずから株式投資をしたほうがよいのでは?」とお感じになるのだと思います。
ただ、株式投資というのは収益率(リターン)が高いぶん、変動率(リスク)も高いですね。金融危機では半値になることもあります。このリスクの高さが銀行と相性が悪いのです。
① BIS規制:銀行さん、あんまり借金しちゃだめよ
銀行にはBIS規制といって、自己資本比率を一定以上に保たなければいけない規制があります。「銀行さん、あんまり借金しちゃだめよ」という国際的な規制です。
銀行は経済の潤滑油となる資金をあつかう重要な社会的役割を担うので、カンタンに倒産されては困ります。
それゆえ、「銀行さん、ちゃんと安全に経営してね」という意味合いが込められていると言えます。
もし金融危機が起きたときに、銀行が多くの資金をリスクの高い運用をしていると、一気に自己資本が低下します。バーゼル規制に違反するリスクが高まるわけです。
② バーゼルIII:銀行さん、安全な資産を持ってね
また、リーマンショックを受けてのちに制定された「強化版BIS規制」とも言えるバーゼルIIIは、「銀行さん、より安全な資産を持つように」という趣旨の規制があらたにかけられました。
このように、銀行はリスクの高い運用や資産を持つことが、そもそも規制されている側面があります。
③ ボルカー・ルール:銀行さん、自分で高リスク運用しちゃだめよ(米国)
米国には「ボルカー・ルール」と呼ばれる法律があります。これは、銀行がみずから投資すること(自己勘定取引)を禁止するものです。
2010年夏に成立した米国の金融規制改革法(ドッド・フランク法)の中核となる「銀行の市場取引規制ルール」のこと。2015年7月21日より全面適用されている。
銀行が自らの資金(自己勘定)で自社の運用資産の効率を図るためにリスクを取って、金融商品を購入・売却また取得・処分をする事を禁止する。オバマ米大統領の呼びかけにより、ポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長が提唱した。
2008年の金融・経済危機を引き起こした要因が米大手銀行の放漫経営にあり、金融機関の破綻や公的資金投入による救済が続出したことから、「預金者のお金を高リスク取引に二度と回させない」との理念に基づいて導入された。
リーマンショックは、主に米国の投資銀行が、利益を多く得るためにレバレッジを過剰にかけて資産運用(デリバティブなど)をしていました。
それゆえ、金融市場が暴落したときに、一気に自己資本比率が悪化し、倒産する金融機関が続出しました。
そうした教訓をもとに、「銀行さん、自分でハイリスクな運用しちゃだめよ」という法律が米国にできたほどです。
まとめ
以上のように、銀行には「安全に経営してね」という規制が複数あります。
- BIS規制(バーゼルI、II、III)
- ボルカー・ルール
私たちが生きる貨幣経済は、信用創造といって、銀行が要(かなめ)となって成り立っています。その銀行が放漫な経営をして倒産されては、経済活動が一気に縮小するので困るわけです。
それゆえ、銀行は「みずからの収益性の追求」よりも、「本来の黒子(経済の潤滑油)として安全な経営に徹する」という使命が課せられている、そんなふうにまとめられるかと思います。
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