企業価値より40%割安なソフトバンクグループ(9984)は買いか
ソフトバンクグループ(以降SBG)は、正味価値より4割安い値付けになっています。
「正味価値:1万円」vs「株価:6,000円」
SBGが90%をいまだ保有し、残り10%分のアーム株が9月14日に上場しました。
9月24日時点で、アームの時価総額は7.9兆円。対してSBGの時価総額はわずか9兆円とほとんど変わりません。

SBG保有株式(出所:決算資料)
ほかにもSBGはソフトバンク、Tモバイル、ドイツテレコムなどを傘下に持ち、ビジョンファンドを通じて多くの株式を保有。

出所:ソフトバンクグループ公式ページ
その株式価値16.9兆円から純負債を差し引いた正味価値は15.54兆円(2023年6月30日時点)。これを1株あたりに直すと10,616円。対して現在の株価は6,000円強と4割ほど割安です。
このNAVは、SBGが一貫して掲げている数字で、SBGの時価総額はNAVよりほぼ常に安い状態が続いており、市場評価は芳しくありません。
近年、ネガティブ報道が飛び交った
たとえば2021年頃には、SBGに対するネガティブな報道や情報が飛び交いました。
ビジョンファンド(SVF)が累計赤字となったことや、孫氏が大赤字を受けて投資を控えたことで、「素人投資家」と揶揄する論調さえありました。

2023年Q1決算資料(出所:SBG)

2023年Q1決算資料(出所:SBG)
背景に、国際会計基準の特徴
たしかに大赤字ですが、SBGは「国際会計基準(IFRS)」を採用する投資会社ゆえ、保有株式の株価変動が決算に毎度反映されます。
国際会計基準を採用する会社の保有株式は、満期保有目的の債券と異なり、評価損益を決算に反映させる必要があります。そのため、市況が悪いと如実に数字として表れます。
したがって、そもそも損益が大幅に上下するジェットコースターのような決算になる構造です。これは投資家からすると実態が読みづらく、敬遠され、株価が割安に推移する要因になりがちです。
(ちなみに、SBIグループも同様のことが言えます。参考:【高配当株】SBIホールディングス(8473)が割安な理由と投資判断)。
2021年から大赤字、財務を強化し、守りを固めた
とはいえ、市況が悪く保有資産価値が下がったことは事実なので、2021年からの赤字傾向を受け、SBGはこの3年間、徹底的に守りに入りました。
もともと社債の発行が多く、レバレッジの高い、ハイリスク・ハイリターンな経営姿勢ですから、総資産に対する借金を減らすなど、財務を強化。

2023年Q1決算資料(出所:SBG)

2023年Q1決算資料(出所:SBG)
2023年6月23日の株主総会で孫氏は、「いよいよ反転攻勢」と繰り返し、守りに入った3年間を経て「5兆円を超える手元流動性を持っている。守りは十分できた」とし、「ワクワクしている」とこれから攻めに転じる意欲を見せました。
2023年から、いよいよ反転攻勢
実際、8月8日に発表された2023年度Q1決算では、投資を再開。

2023年Q1決算資料(出所:SBG)

2023年Q1決算資料(出所:SBG)
AIがあらゆる産業を再定義し、加速度的に進化するという展望のもと、今後控えるAI革命の先端を担うべく仕込みをしている旨、孫氏は述べています。

2023年Q1決算資料(出所:SBG)
孫氏の展望:AI革命の先導役
その他、孫氏の展望を以下のとおりまとめます。
「チャットGPTを開発した(米新興企業)オープンAIのサム・アルトマン氏とは何回も毎日のように(オンラインで)チャットしたり直接面談している。ものすごいAI革命が起きる」
ソフトバンクの宮川潤一社長は20日の定時株主総会で、文章や画像などを自動で作成する生成人工知能(AI)の独自開発を進めていることを明らかにした。その上でコール…
どれほど株を持っているとか、どれほど利益を出しているとかは一時的な現象であり、まだまだこの物語は続きます。まだまだ満足していません。5兆円や6兆円では満足する男ではない。10兆円でもまったく満足しません。まだまだ胸の高鳴りが続いています。これが僕の1番重要な想いだと思います
AIに関するニュースや記事を独自の切り口から発信します。
このように、SBGは常に情報革命・AI革命の先導役となるべく、未公開株や新興企業への投資を大胆に実施。成熟企業への投資と異なり、ハイリスク・ハイリターンの投資手法です。今までアリババやアームなど成功例もありますが、WeWorkのような失敗例もあります。
2016年7月に3.3兆円(240億ポンド)で買収
2023年9月に上場、時価総額9兆円(9/22終値)
- つまり、アーム株の価値は約3倍に
孫氏の行動はとかく矢継ぎ早。アーム上場を終えた2日後には、英FTが「ソフトバンクGがオープンAIへ数兆円レベルでの投資を検討」と報じました。
金利上昇局面の現在は、目先の割高感が懸念されますが、孫氏は6月に「目先の損益にこだわらない」として、積極的なAI戦略を鮮明にしています。
そうした孫氏の勇猛果敢なAIに賭ける姿勢、これがSBGの企業価値の源泉でもあり、WeWorkに代表されるようなハイリスクの源泉でもあるという二面性を指摘できます。
アーム上場、「AIバブル崩壊」「AI革命の端緒」のどちらか
孫氏は「グループをあげてAI革命の先端を担う」と発言。
水面下で事業準備を進めているという。その中核はSBG傘下の英半導体設計企業「アーム」が担い「(同社の半導体チップを使い)AIが人類の未来に与える、その影響の根源になるような発明や発案を進めている」とした。
ソフトバンクグループ(SBG)が6月21日に開いた株主総会で、孫正義社長は「反転攻勢の時期が近づいている」と述べた。SBGの2023年3月期の連結決算(国際会計基準)は最終損益がマイナス9701億円で、2期連続の赤字。SBG傘下でAI企業な...
2023年9月14日にアームが上場しました。同日PERは66.9倍(24年3月期ベース)と高く、エヌビディアの同42.9倍より割高です。
この割高感にもとづいて
- 現在はAIバブルであり、バブル崩壊シナリオを描く人もいれば、
- 孫氏のようにAI革命の端緒にすぎないとする人もいて、
その見方は二分されます。
SBGへの投資は、中長期的に後者のシナリオに賭けることでもあるかと思います。
NAVを大きく下回る株価
冒頭で示したNAVについて掘り下げておきます。

2023年Q1決算資料(出所:SBG)
冒頭の通り、1株あたりNAVは2023年6月末で10,616円に対し、足もとの株価は7,000円以下と本来価値から3割以上安いです。
「SBGのNAV算出方式は通常と異なる」と指摘する向きもあります。たしかにNAV(Net Asset Value、時価純資産)は、一般に純資産に含み損益を加えて算出しますが、SBGは保有株式の公正価値から純負債(有利子負債)を控除して算出しています。
ただ、SBGは「連結処理される直接投資」ではなく「ビジョンファンド経由で投資する投資会社」であることから、純資産ではなく保有株の公正価値から算出するこの方法はおおむね理にかなっていると考えます。
NAVの推移

2023年Q1決算資料(出所:SBG)
NAVは中長期で拡大し、足もとから孫氏の言うように「反転攻勢」となるか注目です。
まとめ
- SBGの現在の株価は、NAV(正味価値)より約4割安い
- アームが買収から3倍化するなど、神通力は健在
- コロナショック以降守りに入っていたが、いよいよ反転攻勢へ
- SBGへの投資は、孫氏の積極果敢なAI投資に賭けることでもあり、中長期的に「AI革命は始まったばかり」というストーリーに賭けることでもある
2021年3月期 決算説明会(2021年5月12日)で、孫氏は以下のように語っています。
同じ投資会社でも一時的な博打のような、相場が『下がった』『上がった』と一喜一憂するような、そういったものではなく、AIを使って新しいビジネスモデル、新しいテクノロジーで産業を再定義するような会社をどんどん生み出します
SBGは業態上、短期的には相場変動によって業績が上下に振れやすいです。
一方、一貫して大局観をもって先読みする孫氏が率いるSBGに対しては、投資家も同様に中長期の目線で構えることが求められるのでしょう。
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SBGには、2019年にも投資をしていました。
SBGは以前からマーケットと実態の乖離が生じやすい企業の1つだと感じています。