YCC柔軟化後、銀行株にとって好ましい長短金利差は拡大したか確認
YCCが修正された翌週である今日、注目の債券市場は荒れた動きはみられません。
長期金利は日銀が上限とした1%に張り付くこともなく、0.6%程度にとどまっており、債券の売りは限定的です。
もっとも、9年ぶりに0.6%台に乗せた段階で日銀は臨時の買いオペ(国債を買うこと)を実施しており、ゆるやかな金利上昇となるよう配慮している姿勢が感じられます。
銀行の収益に影響する長短金利差を確認
さて、YCC柔軟化にともなう金利上昇は銀行株にとって好材料です。実際に金利上昇の内訳を見て、本当に銀行の収益増につながるかを確認してみましょう。
銀行の収益増加の要因となるのは、一般に長短金利差が拡大する局面といわれます。つまり、調達金利である短期金利と運用金利である長期金利の差が拡大するときです。
では、長短金利がどうなったか確認してみましょう。
長期金利:上昇した
日銀のYCC修正を受け、中長期の国債利回りは素直に上昇しています。新発2年債利回りは半年ぶりにプラス圏に浮上し、新発20年債利回りは1.205%と3月以来の高水準。したがって、中長期の金利は上昇しています。
短期金利:横ばい
短期金利(無担保コール翌日物金利)は横ばい圏で推移しています。マイナス0.087~マイナス0.050%で推移し、加重平均金利は前週末の日銀公表値(マイナス0.059%)とほぼ同じ水準です。したがって、短期金利は横ばいです。
つまり、YCC柔軟化が決定された翌週である本日は、長短金利差が拡大しています。したがって、この状況がトレンドとして続けば、銀行の収益増加につながっていくと考えられます。
ただし、以上は教科書的な話です。
実際には業容が多様化したメガバンクの収益構造は複雑で、むしろ長期金利よりも短期金利のほうが銀行収益に影響を与えるといった見方もできます。たとえば企業向け貸し出しはTiborという短期金利に連動するものが主であり、個人も住宅ローンは変動金利という短期金利に連動するものが主です。
また、長期金利の上昇は債券の新規投資による利回りは上昇する一方で、すでに保有する債券の価格は下落し、含み損を抱えることになります(邦銀の国内債券の平均デュレーションは一般に3~4年程度と短いため、長期債ほど下落率は高くはないが)。
加えて、国内の預貸金利差の影響は、海外進出や業容が多角化したメガバンクよりむしろ地銀に対して相対的に大きく、株価の上値余地はむしろ地銀のほうが大きいのではとも思います。ただ、株は人気投票でもありますから、雰囲気でメガバンクのほうが買われることも大いにあるのが難しいところでもありますね。
まとめ
- 伝統的に、短期で資金を調達して長期で運用する銀行は、教科書的には長短金利差が拡大すれば、銀行の収益増につながるとされます。
- 実際にYCC柔軟化後、短期金利は横ばいで長期金利が上昇し、長短金利差が拡大していることが確認できました。
- 一方で、貸出金利は短期金利に連動するものも多くみられ、業容が多角化したメガバンクは、以前よりも国内金利の動向による影響は相対的に少なく、むしろ地銀のほうが金利上昇の恩恵を受ける可能性(ただし、人気がなければ業績としてよくとも株価には反映されない)