三菱地所(8802)決算における質疑応答の感想
三菱地所(8802)の2023年3月期決算の質疑応答を読んだ感想文を配信申し上げます。
安定性と堅牢性を重視した手堅い印象
感想は以下のとおりです。
- 20年代後半に竣工「Torch Tower」(丸の内)で成長加速が見込まれる
- 利益成長と自社株買いによってEPS・ROEの成長めざす
- 会社側も現在の株価水準は自社株買いが必要(≒割安)と感じている
- 財務レバレッジをあまりかけず保守的な姿勢
- 株価が足もと軟調な原因は、「大丸有の再開発に伴う賃貸利益の剥落が、短期的な目線での利益成長を懸念する材料」と市場で誤認されている可能性
- 配当性向の引き上げにはおそらく慎重
①「Torch Tower」竣工で見込まれる成長加速(27年度~)
地所の牙城である丸の内エリアは容積率が緩和されたことで高層ビルの再開発がされるようになりました。
Torch Towerは再開発の目玉で、2027年度に竣工予定。延べ床面積の増加によって、賃料の成長加速が見込まれています。
② 利益成長と自社株買いで、EPS・ROEの成長めざす
EPSは1株あたりの利益(=利益÷株数)です。したがって、自社株買いによって株の総数を減らせば、EPSは増えます。
株価は軟調地合いが続いており、企業側からすれば安く自社株を買えることになります。実際、質疑応答でも
経営陣
との会社側の発言が確認できます。
③ レバレッジを大きくかけず、保守的な財務戦略
質疑応答では、以下の発言が確認できます。
株主
効率性を高めたほうがよいのでは?
これはまさに三菱地所の株主の多くが考えるであろうことです。この発言をかみ砕くと、要するに「保有不動産の含み益がたくさんあるのだから、いざとなれば売って利益を確保できるし、借金を多くして投資をして、利益成長をめざしたほうがよいのでは?」という意味ですね。
これに対し、経営陣の財務戦略は以下のとおりです。
経営陣
ネット有利子負債/EBTDA 倍率をコントロールすることで財務健全性を保つ方針である。
海外における金利上昇など足元の状況を考慮すると、レバレッジを高めることはややリスクが大きいと考えており、現時点では現状の格付けを維持するという方針に変更はない。
個人的には、これはきわめて妥当な財務戦略だと思います。金利上昇が続く局面で借金比率を上げないことは、財務安定に必要ですね。
④ 株価軟調の原因:「再開発に伴う賃貸利益の短期的な剥落」
再開発に伴う賃貸利益の剥落とは、大手町・丸の内・有楽町エリア(いわゆる「大丸有」)で再開発中のビルについては、工事期間中は賃料を得られないので、そのぶん利益が落ちる、という意味でしょう。
裏を返せば竣工後は賃料を得られることになります。だからこそ「短期的な利益成長」という文言なのでしょう。
つまり「中長期的には再開発が利益成長を加速させる要因になるにもかかわらず、工事中は賃料が一時的に得られないマイナス面を市場が着目している」、つまり市場の誤認に近いのではないか、ということだと考えられます。
⑤ 配当性向の引き上げにはおそらく慎重
質疑応答を見るかぎり、配当性向の引き上げには慎重な姿勢が見られます。
真っ当な財務判断だと思います。不動産事業は物件取得への投資額が大きいですから、配当にまわす余力は小さくなります。
逆に言えば、配当利回りの高い不動産株は、財務レバレッジが高い(資本に対して借金が多い)可能性を疑ってみる必要もあるでしょう。
まとめ
「不動産賃貸が柱」という三菱地所の業態は、大失敗がないかぎり、安定して確度の高い収益を見込めます。大失敗とは、たとえば買収・投資の失敗や財務レバレッジのかけすぎ(=金利上昇による財務負担の悪化)など。
もっとも、丸の内というエリアの限定性に着目すると、成長性はさほど高くないとは思います。
- 会社が掲げる2030年の目標EPS:200円
- 2024年度の予想EPS:130円
したがって、目標EPS200円は、年率7.4%の成長を6年続ければ達成できる数字です。二桁成長のような高成長ではないですね。
急激な成長を望まなければ、安定して確度の高い不動産賃貸業として現在の株価水準は長期目線で妙味ありと個人的には感じています。
関連記事