手持ちのドル資金を活用できる「米ドルMMF」、金利が高い時期に有用
本記事では、手持ちの米ドル現金の活用先として選択肢となる「米ドルMMF」について紹介します。
たとえば、米国株へ投資している人などで、米ドル現金がある場合、金利のつかない外貨口座にそのまま置いておくよりも、MMFへ一時的に置いておくことで利子収入を得られます。
私も、2019~2020年にかけて、「米ドルを金利収入を得ずにそのまま現金として置いておくより、利子を得られるMMFがよい」と考えたためです。2022年以降、MMFの利回りは高まっており、米ドルの現金はMMFに置いています。
それでは、MMFとは何か、活用法、デメリットなどを以下紹介します。
米ドルMMFとは
MMFと聞いても、どんな商品なのか、ピンと来ないかもしれません。
「信用力の高い国や企業が発行する債券へ投資する商品なので、基本的に元本割れはないが、稀に元本割れがあった商品」という理解でよいでしょう。
以下もう少し掘り下げます。
米ドルMMFとは、米国債のなかでも償還期間が1年以内の国債(=米財務省短期証券「T-Bills」)やコマーシャルペーパー(CP)などの短期債券に投資する投資信託です。
- 一般にT-Billsは、高い安全性と高い流動性を持つ傾向です。
(FRBによる公開市場操作の主たる対象でもあります) - CPも、発行主体が信用力の高い企業にかぎられ、短期資金を調達するために発行するものです。
つまり、MMFとは「信用力が一般的な水準より高い短期債に投資したもの」といえます。ただし、後述のとおり、過去まれに元本割れしています。
米ドルMMFの種類
米ドルMMFは、下表のとおり、数社が扱っており、それぞれ投資先は微妙に異なります。
米ドルMMF (SBI証券で購入可能なもの) |
利回り (2023年1月30日時点) |
---|---|
ブラックロック・スーパー・マネー・マーケット・ファンド | 3.791% |
ニッコウ・マネー・マーケット・ファンド | 3.733% |
ノムラ・グローバル・セレクト・トラスト | 3.775% |
ゴールドマン・サックス | 3.798% |
SBI証券「MMF一覧」より
たとえば、2023年1月時点における直近の目論見書によれば、日興は主要投資先が「コマーシャル・ペーパー(CP)」であるのに対し、ブラックロックは「レポ取引」です。
補足
コマーシャル・ペーパー(CP)とは
企業が短期で資金調達するための、無担保の約束手形のことです。企業が銀行等を通さずに資金を直接調達する点で、社債と同じです。社債の償還期間は通常 1年 以上である一方、CPの償還期間は通常 1年 未満で、30日 以内のものが多いことが特徴です。
レポ取引とは
投資家が短期的に資金を貸す代わりに、利息を得る取引です(レポ取引とは、短期的な資金調達の一形態であり、ディーラーが投資家に通常オーバーナイト(翌日)またはあらかじめ定められた期間で証券を販売し、翌日または一定期間後に追加の利息または割増金を現金の貸し手に支払って証券を買い戻します)。
米ドルMMFの利回り推移
2022年は、米国が利上げに踏み切った年です。米ドルMMFの利回りがどうなったか見てみましょう。
上図のとおり、FFレート(米国の短期金利)と連動して上昇しています。それもそのはずで、MMFの投資先は短期債券なので、短期金利に連動します。
短期金利はFRBが操作します。つまり、
- FRBが利上げをする
- =短期金利が上がる
- =米ドルMMFの利回りも上がる
といった傾向があります。
米ドルMMFの活用法
手持ちのドル資金の預け先として活用できます(MMFの利回りが高い時期には、利子も多くなります)。
たとえば、米国株を買う前や売却時に、米ドル現金としてしばらく保有する場合は、MMFへ資金を置くことで利子収入を1日単位で得られます。
ちなみに、多額の資金があれば、短期債で運用するだけで利子収入も相応に多く得られます。たとえば、1,000万円あれば、元本割れのリスクが株式より著しく低いなかで、税前 30万円(利回り3%の場合)の利子収入が得られます。
米ドルMMFのデメリット
ただし、リターンがあればデメリットもあります。以下を確認しましょう。
- 元本割れリスク
- 税制・為替リスク
- 手数料
① 元本割れの事例:過去に2度
MMFの元本割れは、米国史上2度起きています。
- 機関投資家向けの小規模MMF「コミュニティー・バンカーズ」が基準価額の1ドルを下回り0.94ドル に(1994年)
- リザーブ社(The Reserve)が運用するMMF「プライマリー・ファンド(Primary Fund)」の基準価額が1ドルを割り込み 0.97ドル に(2008年)
プライマリー・ファンドの元本割れは、経営破たんしたリーマン・ブラザーズの債券を組み入れていた(ポートフォリオ全体の約1.2%にあたる7.85億ドル分)ことに起因します。
通常、MMFが元本割れを起こすと信頼が大きく損なわれるため、資産運用会社は自己資金を投入してでも基準価格の1ドルを保とうとします。しかし同社は大手金融機関を親会社に持たずに独自にMMF事業を展開し、資金余力が足りず、元本割れの回避策をとれませんでした。
短期金利を大きく上回るMMFは、避けたほうがよい
当時元本割れを起こしたプライマリー・ファンドの利回りは 4.04% であり、当時の過去1年間の平均利回り 2.75% を大きく上回っていました。
MMFを選ぶときは、短期金利やほかのMMFの利回りより大幅に高い利回りのMMFは避けたほうがよいでしょう。なぜなら、上記の例のように、高い利回りは往々にして高リスクの商品が組み込まれていることがあるからです。
ただ、たとえば大手証券会社でラインナップされているようなMMF(例:上段の表)は、利回りに大差なく、平均的な利回りと乖離するようなMMFはこれまで扱っておらず、大手金融機関が組成しているため、プライマリー・ファンドのように元本割れの回避策がとれない可能性は低いと現時点では考えられます。
いずれにしても、「まれに元本割れが起きた」ということは認識しておきたいですね。
② 外貨建てMMFの税制:円ベースで譲渡益が発生
譲渡益の税制としては、基本的に外国株式や外国債券と同じですね。以下は、SBI証券のQ&Aです。
外貨建MMFの譲渡(売却)・償還により発生した譲渡(売却)・償還差益は為替差益含め譲渡所得として20%(国税15%、地方税5%)の申告分離課税が適用されます。
なお、分配金は利子所得となり、分配金は月末再投資の際に、20%(国税15%、地方税5%)源泉徴収された後の金額で再投資されます。
※2016年1月より債券・公社債投信の税制が変更になったことで、特定口座に組入れることができるようになり、株式、投信と損益通算が可能。
たとえば、1億円を米ドルMMFへ投資した場合、2023年1月30日時点の利回りは 3.7% なので、仮に年間を通してこの利回りが継続すれば、年間で 370万円 の利子収入を得られます。
ただし、仮に購入時に比べて売却時に 10% 円安に進んだ場合、1,000万円(譲渡益) × 20.315%(税率) = 約200万円 の譲渡税が発生します。
つまり、外国株式や外国債券への投資と同様に、円ベースで利益が出れば税金が発生するということです。MMFを買ったあと、売却時に円安が進んでいた場合は税金が発生するわけですが、これはMMFに固有の税制ではなく、株や債券と類似の税制です。
③ 手数料がかかる:信託報酬 0.3333~0.45% / 年
信託報酬という保有期間に応じて継続的に手数料が発生します。
たとえば、ブラックロック・スーパー・マネー・マーケット・ファンドの年間手数料として 0.3333 ~ 0.45% が発生します(0.75→0.45に改定)。
つまり、表面の利回りが 3% の場合でも、手数料を差し引いた実質的な利回りは 約2.6% ということです。
まとめ
以上から、以下のようにまとめられます。
- 米ドルの現金があるなら、金利がつかない証券口座にそのまま置いておくよりも、米ドルMMFに置いたほうが利子収入が得られる
- 利子収入は、米国の短期金利が高いとき(=FRBが利上げをしてから、利下げし切るまでの期間)に、多くなる
- MMFとは、「信用力の高い国や企業が発行する債券へ投資する商品」
- 米ドルMMFは、過去に2度、まれに元本割れがあった
- 円ベースで課税されるので、元本の基準価額が不変でも、購入時より売却時に円安が進んだ場合、課税される
以上が、MMFを活用する際におさえておきたいポイントになると思います。
ご参考になりましたら幸いです。
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米ドルMMFに関するご質問に、以前お答えしたものです。当時はFRBの低金利政策で短期金利が低く、MMFの妙味は薄れていましたね。
配当金を得たら、再投資までMMFも良案です。