今回の「日銀政策金融決定会合」でYCC政策修正となるか注目の理由
本日は「日銀の政策金融決定会合」の内容が発表されます。大注目です。
なぜなら、債券市場で今までにない動きが起きているからです。為替市場では円の全面高で反応しています。
今回の政策決定会合で最大の焦点は、日銀がYCC(イールド・カーブ・コントロール)を撤廃するかどうかです。
異例のことが起きているので、なぜYCCが焦点となるのか、YCCとは何か、そしていま起きていることなどをまとめました。
行きはよいよい、YCC、帰りは果たして。
そもそもYCCとは、「本来市場が決めるべき長期金利を、中央銀行(日銀)が決めること」です。
中央銀行は伝統的に短期金利のみを操作してきたわけですが、近年は長期金利も操作するようになりました。先日の記事「日銀の利上げの概要と影響、投資行動」で時系列をまとめた通りです。
そしていま日本でおこなわれている「長期金利の操作」とは具体的には、日銀が「この値段で国債を買いますよ(=「指値オペ」と言います)」と、人為的に金利を抑制することです。国債の価格上昇は利回り低下を意味するため、一定の価格で買い続ければ金利をおさえることになります。
本来自律的に決まる市場を操作すると、往々にして「ゆがみ」が生じます。そして、ゆがみはバブル同様、往々にしていずれ修正されるのが市場の常です。この「ゆがみ」とは何かは、後述します。
YCCは、以前米国でもおこなわれていたが、破棄された
歴史を振り返っておきましょう。過去にYCCは米国で、1942~1951年にかけて実施されました。
当時は、現在の日銀のように経済環境を考慮して実施されたのではなく、「戦時下で戦費調達のために大量の国債が発行されるなか、金利の上昇を抑えるためにFRBが米財務省に協力した」という経緯です。
戦後、物価上昇に直面し、金利をおさえることは物価安定を損なう(なぜなら通常、金利を上げて物価高騰を退治するので)ため、YCC政策は撤廃された、という歴史があります。FRBは当時の教訓をもとに「出口が大変だから」、YCCはやらない、と。
YCCで生じた「ゆがみ」
上の黄色下線の部分に関して、今の日本と状況が酷似しています。現在の日本も、物価上昇(インフレ)に直面しはじめています。インフレが起きると、通常は中央銀行がインフレを退治するために短期金利を引き上げ、本来ならば長期金利にも一定の上昇圧力が加わります。
しかし日銀がYCC政策によって長期金利を人為的におさえつけているため、市場で適切な長期金利が形成されず、上図のように10年金利の部分だけ凹むという「ゆがみ」が生じています。
以前は日本でインフレが起きる兆候がなかったため、難しい出口戦略に直面しなかったわけですが、いま日本は物価上昇に直面しています。いずれ金利が上昇する(=10年債の価格が下がる)ことを見越して、海外投資家は、YCCが将来的に撤廃されることを見越して国債の売りが近日加速しています。
まず、上図のとおり22年から海外投資家は売り越しに転じ、下図のとおり、2023年1月に入り急増しています。
すでに1月は月間国債買入額9兆円を2日で超える異例の事態です。
YCCの「事前に通告できない」という構造的弱点
このように外国人投資家などから売り浴びせに遭う背景に、YCCは「事前に通告できない(=市場に対して事前に地ならしや対話ができない)」という構造的な弱点が挙げられます。理由は以下の通りです。
YCCは冒頭で記した通り、具体的な中央銀行の行動としては、「金利をおさえつけるために、国債をこの値段で買いますよ(=「指値オペ」といいます)」を実施することです。
そのため、もし事前に「YCCをゆるめます」または「撤廃します」と公式に表明しようものなら、「今後10年債利回りは上昇します(=10年国債の価格が下落します)」と事前に表明することと同じです。
もしこれをすると、その時点で10年債は強烈な売りが市場で生じます。なぜなら、投資家は「事前に売っておけば、YCC撤廃で国債価格が下落し、のちに買い戻せば利益が得られる」からです。みすみす海外の投機筋などにリスクフリーで利益を献上するようなものです。
当然このようにみすみす資金を献上するようなことを当局は避けたいはずで、YCCの方針変更に関してはそもそも事前に通告できない構造です。これが、「YCCは出口が難しい」と言われる一因です。
事前に当局が読売新聞へリークしたか?
そしてここで気になるのが、読売新聞の報道です。
「必要な場合は追加の政策修正を行う」
という文言が含まれています。わざわざこの文言を加えたこと自体が、事前にYCCの政策修正を市場にあえて織り込ませにいった可能性が考えられます。上で指摘のとおり、事前に公式に通告できない構造的弱点をYCCは抱えています。YCC撤廃に踏み切らずあえて短期筋の裏をかくためか、本当に織り込ませるのか、はたまた。
日銀が事前通告で自らを窮地に追い込むような事は考えにくく、リーク元は政府か、というところ。インフレが大敵となる政権にとって日銀を後ろから刺した、または将来的な政策修正を牽制した格好か。
この読売新聞の報道で、ドル円は大きく売られはじめました。為替市場で日銀の政策修正を織り込む動きです。スワップ金利も1%を超え、将来的なYCC撤廃を織り込む動き。1月18日の日銀政策決定会合で、政策修正がどのようなものになるのか、為替や債券市場では大注目です。YCCに関する政策修正の内容次第では、大きく振れる可能性があります。事実、市場はそのリスクを見越してドル円の予想変動率は3年ぶりの高水準です。
今回仮に、YCCの政策修正が行われない場合でも、市場の焦点は「撤廃するかどうか」ではなく「いつ撤廃するのか」へ移っていることから、将来的な撤廃が意識され続ける(=日本由来の円高圧力がくすぶり続ける)ことが考えられます。
今回の基本路線は政策維持との見方が多く、それ以外の選択肢として、YCCの撤廃よりもゆるやかな措置となる「YCCの許容レンジ拡大」、「YCCの操作年限(10年→5年)」などが考えられるでしょうか。
YCC撤廃のXデー
いずれにしても、YCCはいずれは撤廃しないと、政策決定会合で毎回撤廃の思惑で国債を大量に購入し続ける羽目になります。
1月13日には、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りが上昇(価格は下落)して一時0.545%と、日銀が上限と定める「0.5%程度」を突破し、5兆円の国債を購入しています。前日の12日は4.6兆円を購入。先月、9兆円に増額した1カ月の国債購入予定額をわずか2日で超え、足もと17兆円まで急激に拡大しています。
つまり、7年物が10年物より利回りが高いという「金利のゆがみ」を是正するために10年国債を大量に購入しても、是正できていないという状況です。
また、YCCによって金利の「ゆがみ」が続けば、金利の適切な水準がわからず、債券市場の機能が低下します。事実、黒田総裁は「国債金利は社債や貸し出しの金利の基準になるので、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼす恐れがある」と先月20日の記者会見で語っています。
日銀が10年物国債の9割近く、物によっては10割を超えて買い占めているのは異常な事態であり、債券市場で海外投資家から国債が大きく売られていることもYCCによる「ゆがみ」を突かれた格好です。
日銀がYCCという難しい出口をどのようにして描くのか、昨年の円安に続いて、注目する必要があると思っています。
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