為替介入後のドル円は「元の木阿弥」
ドル円相場は為替介入前の水準まで戻ってきましたね。
介入すると、今までドル円相場に参加してこなかった人まで市場変動に乗じて利益を得ようと介入と反対の売買に参加する人もいるでしょう。過去、介入が成功した確率は半分以下であり、介入で相場が反転する可能性は高くないと考えられるからです。
すると、介入後に介入と反対のポジション(=今回でいえば円売り)を取れば、未来が過去の延長線上にあると考えて期待値を算出する場合は「利益を得られる可能性は50%以上期待できる」と考える投資家が存在し始めるのも自然なことでしょう。
たしかに、半分以上の確率で、介入した分の値幅の利益を取れるのであれば、投資としては悪くない賭けです。
中期的には「介入はよいタイミングだった」となる可能性も考えておきたいところです。
エネルギー価格の下落が続いている
中期的には、引き続き円高への反転を意識。インフレもエネルギー価格の観点においては鈍化要因となる見通しを認識しておきたいです。

WTI先物(SBI証券より)
たとえば通貨の実需面である貿易収支。原油価格は景気後退懸念を織り込みつつあるでしょうか。6月以降かなり下げています。よって、エネルギー価格の観点においては、米インフレ鈍化要因であり、日本の貿易赤字縮小要因(=円高要因)です。
なぜなら、今年の日本の貿易赤字は、数量ベースで増加したのではなく、価格ベースで増加しており、LNGや原油、石炭といった資源価格の高騰によるところが大きいと言えるからです。加えて、日本のLNG価格は原油との連動性が高い(日本は欧州と異なり、天然ガスの価格決定方式が原油に連動する長期契約が多い)ことから、原油価格が下がれば全体的に貿易赤字の縮小要因(=実需面での円高要因)になると考えられます。
債券市場はインフレがいずれ収まるとみている
また、債券市場の見通しとしては、最近のFRBのタカ派姿勢とは対照的に、予想インフレ率(BEI)は落ち着いてきており、市場はインフレがいずれ収まると考えているようですね。
今後もインフレが鈍化すれば、来年から再来年にかけての利下げ期待を市場はいずれ早々にとらえてくる可能性が考えられます。これも円高要因。
金利平価説
ちなみに、理論的なことを言えばインフレ通貨は通貨安要因(=インフレ通貨である米ドルはドル安要因)であり、金利平価説にのっとれば、物価上昇率の低い日本はいずれは物価上昇率の高い米ドルより強くなる、つまり円高に反転することになります。

みずほ証券より
ただし、上図のとおり現実には金利差と逆相関になっておらず、必ずしも金利平価説の通りにならない(つまり高金利通貨が下落しない)ことがけっこうあり、金利平価説から直接的に為替は見通せない場合が多いと思います。
ドルインデックスの水準からは、すでにドル高は相当進んでいる
ドルの総合的な強さを示す「ドルインデックス」は引き続き強く、20年ぶりの高値となり、ドル全面高。米国も徐々にドル高による業績圧迫の懸念が指摘されはじめそうな水準です。
この事象自体はFRBの姿勢に与える影響としてはドル安要因(企業に配慮する金融政策をとる余裕がある場合)ながら、とはいえインフレが落ち着いていない現状を踏まえれば配慮している余裕はなく、「ドル高による米企業の業績圧迫を理由としてFRBがスタンスを変えるということは考えにくい」と考えられます。
ただし、ドルインデックスがここまで上がってきたということは、「ドル高はすでに歴史的に見ても相当進んでいる」ということは言えるでしょう。このような節目はやはり認識しておきたいところ。
通貨はあくまでゼロサムゲームなので、2000年代の円キャリーからの反転のときのように、既存ポジションの反転が起きれば巻き戻しが考えられることは常に意識しておきたいところです(トルコのような高インフレ+慢性的な経常赤字などの脆弱な経済基盤でないかぎり)。
個人的にはやはり引き続き通貨のリバランスを徐々に進めたい(ドル建資産が増えた分を、円に換えて通貨を分散する)と考えています。
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