投資に手間と時間をかけたくない場合、ETF・投資信託どちらがよいか。
ETF・投資信託の特徴・違いを踏まえた上で、両者に関する以下ご質問にお答えしています。
題名: 今後の投資金の分配
メッセージ本文:
(少し前に誤って未完成の内容を送信してしまっております、申し訳ありません。)
穂高さま
はじめまして、○○と申します。
35歳ソフトウェアエンジニアです。
今後の投資金の分配をどのようにしていくか相談させていただきたくお問い合わせさせていただきました。
<投資の目的>
月並みですが老後資金と個人資産の拡大です。
老後資金の具体的な目標は、60代で最低月5万の配当金を目指して投資をしています。
70代くらいから投資信託の切り崩しを始めたいとおもっています。
収入減や無収入となったときの生活資金、というイメージです。
働くことは好きなので、形や手段問わず体力のつづく限り生産活動をしたいと思っているタイプです。
個人資産の拡大については隠居生活には興味がないものの、経済的な足枷がなくなれば、好きなことでビジネスを始められたり、時間を切り売りするタイプの仕事からの脱却が容易になるなど、魅力的なことも多いと感じています。また完全に経済的な自由がはいらなくとも、部分的な自由が徐々に増すことはとても大事なことだと感じでいます。
<相談内容>
現在月定額で投資している資金とは別に、月によってばらつきがあるのですが3〜10万ほどの余剰発生するので、その投資先について相談があります。
自分なりに考えた結果、現状以下の2つのいずれにするかを悩んでおりますが、投資初心者のため、色々とまちがっているかもしれず、ご指導いただけるとありがたいです。
– 1: 将来の配当金を目的としてVYMを買う
– 月5万の配当金と考えると、私の試算が間違っていなければ、残り25年ほどで2500〜3000万ほどの投入が必要と認識しています。現状の投入では足りませんがとりあえず始めるという考え
– その場合、SBI証券に定期で現金を預けVIX指数が28を超えタイミングでその時点の買付余力で買うという仕組みにしたいと考えています
– 2: 3〜10万という金額がそこまで大きくないため、個人資産拡大のため引き続きeMAXIS Slim 米国株式の特定口座枠を追加投入していく。
配当金を優先したいのか、総資産増加を優先したいのか、私の「決め」の問題でもあるような気も致します。たとえば、ETF配当金という形でも、投資信託の切り崩しという形でも月5万円という現金を手元に出すことは実現可能、と考えると、投資信託一択にしてしまった効率が良いのか?という気もいたします。
一方、現在選んでいる投資信託の銘柄は分散はきいているとは思うものの、一点集中であることには変わりなくETFも見据えた方が良いのか、とも考え、この辺りからあまり考えが進まないという状況です。
<現状>
ドルコスト平均法で投資信託をしています。
個別名柄を詳細にみていく楽しみが、あまりわからないことから今後もドルコスト平均法をコア戦略としていくつもりです。手間と時間はあまりかけたくなく、また気持ちの面で振り回されることも望んでおりません。
また奨学金の返済も月3万ほどございます。
無利子、有利子両方借りていますが、年利が0.6%なので無理に繰り上げ返済をするより、その分は投資に回した方がいいかなと考え、毎月最低額で細々返済しているかんじです。
ちなみに、奨学金支払残高分の現金はあるので、どうしても繰上返済の必要が生じた場合は一括で返済することもできます。が、特別なことがない限りそのようにしようとは思っておりません。
加えて
– 自己投資をして買付余力を増すこと
– 健康維持
にも時間と資金を割きたいため、すべての余剰資金を投資に注ぎ込んでいるわけではありません。
iDeCoについては使い勝手の不便さが気になり満額利用していません。
昨年度から副業をはじめ、今回はじめて確定申告をするので、少しの節税もできる予定です。どれくらいかは試算できていません。
以上のようなことを踏まえて現状です。
月額投資金額 9万円 運用期間2年
– eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
– 楽天証券・つみたてNISA 33,333
– 楽天証券・クレカつみたて 16,667
– 楽天証券・特定口座 30,000
– 三井住友・DC日本リートインデックスファンド
– iDeCo 10,000
長文となり失礼いたしました。
もし機会がありましたら取り上げていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
詳細にありがとうございます。
回答
ポイントになる部分を黄色マーカーでハイライトした上で、以下抽出しました。
- 月3~10万円の追加的な投資先をどうするか
- 投資に手間と時間をかけたくない
- 60代で最低月5万の配当金が欲しい
- 70代くらいから投資信託の切り崩しを始めたい
- 投資信託へ投資する場合、eMAXIS 米国株は米国一点集中が気になる
また、お悩みになっている投資先は以下2案と理解しました。
- 将来の配当金を目的としてVYMを買う
- 3〜10万という金額がそこまで大きくないため、個人資産拡大のため引き続きeMAXIS Slim 米国株式の特定口座枠を追加投入していく
回答:全世界株式の投資信託で取り崩す
回答としては②の改変バージョンとして「eMAXIS slim 全世界株式へ投資し、60代で月5万円を取り崩し、70代も引続き取り崩し」というかたちが一案です。
回答の背景
このように回答する背景としては、以下の通りです。
- 投資に手間と時間をかけたくない
→ 再投資の手間がかからない投資信託が好適 - eMAXIS 米国株は米国集中が気になる
→ 全世界株式で国別リスク分散を図る - 60代で最低月5万の配当金が欲しい
→ 理論的には取り崩しで対応可能
②については、「米国集中が気になる」ということですので、全世界株式へ投資することが代替案として挙げられます。好調であってきた市場が将来も好調とはかぎらないので全世界株式への投資は、常に一定の合理性があると言えます。
では①・③の背景を理解するために、ETF・投資信託の特徴・比較を確認してみましょう。
ETF・投資信託の特徴・ちがい
簡便に分散投資できる金融商品として、①ETF・②投資信託の2つに大別できます。主な特徴・違いは下表の通りです。
ETF | 投資信託 | |
---|---|---|
分配金 | 出る | 出る / 出ない |
分配金再投資 | 手間あり | 手間なし (無配型の場合) |
分配金に対する課税 | あり | 先送りできる (無配型の場合。ただし売却時に利益に課税) |
出口戦略 |
|
手動または自動で取り崩す |
購入通貨 | 米ドル(NY上場) 日本円(東証上場) |
日本円 |
主な商品 (米国株) |
|
|
分配金
- ETFは分配金というキャッシュフローが生じるのに対し、投資信託は生じません。
(キャッシュフローが欲しい方は、ETFが適しています。キャッシュフローが不要な方は、投資信託が適しています。つまり、価値観・目的次第です。なお投資信託でも取り崩しでキャッシュフローを得ることは理論上可能です)
分配再投資
- ETFは手動で再投資が必要なのに対し、投資信託(無配型の場合)は自動で再投資されるため、再投資の手間がかかりません。
分配金に対する課税(国内税:20.315%、外国税:10%)
- ETFは分配金が出るたびに課税されるのに対し、投資信託(無配型)は税負担が将来に先送りできるため税制の観点からは効率的です。
(投資信託は、最終的に売却・利益確定の際に課税されます。両者ともいずれは課税されるわけですが、投資信託は課税の先送りがしやすいということです)
出口戦略
- ETFは分配金が自動的に振り込まれるため出口戦略が基本的に必要ないのに対し、投資信託(無配型)は定期売却または手動売却が必要です。
以上のような投資信託・ETFの特徴と違いを踏まえた上でお決めになることがポイントと思います。
なお、「無配型」と記載していますが、厳密には投資信託は分配金を出すかどうかの方針は都度変わるので、あくまで現在に至るまで分配金を出していないだけで、今後分配金が出される可能性は常にあります。
ちなみに投資期間が40年である場合の投資信託による税の繰り延べ(先送り)効果の試算を載せておきます。
例)運用利回り4%、運用期間:40年、税率:20.315%
下表のような要領(ケースAの場合)で、毎年分配金に課税されるケース(…A)と、最終年度に課税されるケース(…B)の差異を検証します。
年度 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
元本 | 100 | 103 | 106 | 110 | 113 |
分配金 | 4.0 | 4.1 | 4.3 | 4.4 | 4.5 |
課税額 | 0.8 | 0.8 | 0.9 | 0.9 | 0.9 |
実現益 | 3.2 | 3.3 | 3.4 | 3.5 | 3.6 |
結果は以下の通り。
- A:40年間でリターン 3.51倍
- B:40年間でリターン 4.03倍
数字としてはこうなります。元本が大きく、運用期間が長ければ、有意な差となります。
まとめ
では以下まとめておきます。
「eMAXIS slim 全世界株式へ投資し、60代で月5万円を取り崩し、70代も引続き取り崩し」というかたちが一案。
このように回答する背景としては、以下の通りです。
- 投資に手間と時間をかけたくない
→ 再投資の手間がかからない投資信託が好適 - eMAXIS 米国株は米国集中が気になる
→ 全世界株式で国別リスク分散を図る - 60代で最低月5万の配当金が欲しい
→ 理論的には取り崩しで対応可能
投資目的と投資スタイルの希望・価値観が明確であれば、それに沿った投資対象やスタイルも明確になりやすいですね。
もちろん、ETFと投資信託のどちらにも投資してみて様子見を経て、主体的に決めるというのもよいと思います。ただしご質問者さまの文面やご希望(手間をかけたくない)などを見る限りやはり投信に分があるでしょう。
ちなみに、以下もコメント申し上げます。
個人資産の拡大については隠居生活には興味がないものの、経済的な足枷がなくなれば、好きなことでビジネスを始められたり、時間を切り売りするタイプの仕事からの脱却が容易になるなど、魅力的なことも多いと感じています。また完全に経済的な自由がはいらなくとも、部分的な自由が徐々に増すことはとても大事なことだと感じでいます。
そうですね。経済的な自由を得られれば、主体的に仕事を選びやすくなるのは大きなメリットだと思います。私も実感しています。これは人生や家族の満足度を向上させる大きな一手にもなり得ると思います。
時間の切り売りからの脱却は、成果物や収入の評価軸に「使った時間」ではなく主体性・創造性に目線が行きやすくなるとも思います。
そのあたりの目線や考え方が変わるきっかけになることがなにより大きなメリットになると思います。
また奨学金の返済も月3万ほどございます。
無利子、有利子両方借りていますが、年利が0.6%なので無理に繰り上げ返済をするより、その分は投資に回した方がいいかなと考え、毎月最低額で細々返済しているかんじです。ちなみに、奨学金支払残高分の現金はあるので、どうしても繰上返済の必要が生じた場合は一括で返済することもできます。が、特別なことがない限りそのようにしようとは思っておりません。
そうですね、0.6%の年利を上回るリターンを想定する場合、投資に回した方が合理的ということになります。
また、借入残高分の現金を確保しているが、一括返済は考えていらっしゃらないということですね。その場合、「残高分×0.6%の利子負担は継続的に発生していることを承知の上で、現金を確保しておきたい」という心情であれば、それはなんら非合理的なことではないですね。精神面への配慮は合理性を上回るメリット(金銭的な効率性より、人生の満足度や精神面が大事という視点)があるからです。
以上、ご参考になりましたら幸いです。ありがとうございました。
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