SPYD減配それ自体に、本質的な意味がない理由【配当とリターンの関係】
米国高配当株ETF【SPYD】の直近の減配(減配幅:前年比41%、時期:2020年9月)について、ご質問をいただいています。
まず「分配金は前年比の1回だけではなく、年間4回トータルで見る必要がある」ことを申し添えた上で、以下回答します。
題名: SPYDの減配について
メッセージ本文:
穂高 唯希様
いつもブログで投資や考え方を勉強させていただいております。医療関係・現在育休中・アラサー女子です。
私は元々投資信託で資産運用をしていました。最近は米国株にも興味を持ち始め、元々ズボラな人間でしたが育休中に穂高さんの著書を読み人生の目標が持てた気がしています。このような素敵な本を世に送り出していただき感謝しています。書籍で紹介されていた楽天VTIかVTI・HDVなどに投資してみようと思っています。
また、最近SPYDが減配になったみたいですが、色々な情報を見たものの穂高さんがどう考えていらっしゃるのかを聞いてみたいと思っております。もしよろしければ穂高さまの見解をお聞かせいただけないでしょうか。
もしこの質問をご覧になられていたら、FIRE生活を満喫されている中お時間いただき本当にありがとうございます。お体にお気をつけて、今後も多方面でのご活躍を楽しみにしています。
「減配の配当込み税前トータルリターンに対する理論的影響」は、中立
拙著「本気でFIREをめざす人のための資産形成入門」の純資産と配当のくだりを理解できた方は、本記事の内容はご承知かもしれません。
結論的には、SPYDであれVYMであれVTIであれ、減配しても配当込み税前トータルリターンに対する理論的影響は中立であり、それ自体の事象は本質的に何かを意味するものではありません。
そもそも配当は、税考慮なしトータルリターンに対して理論的に中立(NAVは配当分減るが、減配しても配当込みNAVは変わらない)です。プラスでもマイナスでもないです。
ETFは拙著にも記載の通り、結局は原資産となる構成銘柄が重要であって、ETFの分配金はプールされた資産を払い出すだけです。
そのため、増配であれ減配であれ、配当の増減は、トータルリターンを語る上では関係ないです。配当にかかる税金が変わるだけです。
関係あるケースとしては、既に配当で生活されていて、減配によって目に見える形での払込額(キャッシュフロー)が減るという変化ぐらいでしょうか。また、そうであっても、口数を減らす(売却する)ことでキャッシュフローを創出することは原理的に可能です。
ただし、減配が間接的に示唆することはあります。それは「構成銘柄の調子が直近芳しくない可能性にはなる」ぐらいでしょう。定かではないですが。
これは、たとえば「連続増配銘柄が、過去の増配という要素から、過去堅調な業績であってきた要素になる」ことと近しいロジックです。あくまで「業績・景況感・構成銘柄の状態を示唆する1つの要素」という位置づけということです。
結局、ETFは流動性を見る上でも、リターン・配当を見る上でも、重要なのは構成銘柄です。
特にSPYDは、構成銘柄を決定するロジックを理解していれば、「SPYDは今後も時期によって前年比での短期的な減配は十分あり得る」こともわかります。
そして前述の通り減配それ自体はトータルリターンに対して理論的に中立であるため、減配という単一の事象自体には特に意味はありません。
構成銘柄が重要
ETFを理解しようとすると、以下が重要と思います。
- 「どういったルール・ロジックで構成銘柄が組み入れられるか」
- 「構成銘柄の内訳」
VYM・HDVは①が比較的わかりやすいですが、SPYDはその組入れルール的に1回でガラっと変わることもあります。
SPYDは、構成銘柄の観点からはトリッキーなETF
ゆえに、その意味でSPYDは、トリッキーなETFと言えます。
構成銘柄が大きく変わる可能性があるからです。原理的には構成銘柄の変更タイミングでチェックした方がよいことにはなります。
そのため、ETFといえども、投資初心者の方というよりは、玄人向けのETFという点がコロナ以降は顕在化しています。(組入れルールは同一である場合、コロナ前後でETFの性質という意味では本質的な差異はないのですけどね)
以上を読んで頂ければ、減配それ自体はなんら騒ぐことでもなんでもないことが理解できると思います。
投資の前提条件にも注意が必要
また、市場平均連動型のETFであれ、どんなETFであれ、「将来的に長期的に右肩上がりである」という前提条件を仮になくす場合、短期目線でも中長期目線でも買値が重要になってきます。
「定期つみたて」という手法は、本質的には「最終的に右肩上がりを前提条件としている」ことは、留意しておきたいところです。
ちなみにSPYDでキャピタルが取れないことは全くなく、現にキャピタルとインカムの両取りができている人はいます。
ゆえに、その金融商品自体がどうのこうのという議論は、そもそもの的が外れているという解釈も可能でしょう。
投資でも人生でも、複眼的な視点を持ちたい
どんな状況、どんな投資対象であっても、利益が出る人もいれば、出ない人もいるという、言うまでもない結論に帰着してしまうので、なにも面白くない形になってしまいますが、とはいえ言ってしまえばそういうこと側面があるのが株式投資です。
その辺りがあべこべになると、とんちんかんな結論が出てしまうため、注意必要と思います。
- 分散されているから安心
- ETFだから安心
- ハイテクだから安心
こういった単線的かつ表層的な見方は、大局を見失うので全くおすすめしません。
(そもそも積み立てることと、短期的な値動きに注意することは、本来は背反して然るべきことなので、その2つの事象を自分の中に共存させている時点で不味なわけですが)
- 米国株を疑う
- 投資対象を疑う
など、その前提が崩れても良いように、どっちに転んでも良いように資金管理をしておくというのが、投資というものですね。
米国株も今後ずっと右肩上がりになる保証はなにもなく、あくまで前提条件を添えて投資をしていることを忘れてはいけません。なぜなら、投資をするということは、1つの前提条件として「今後も価値が上昇する」という期待を包含しているからですね。
これはあくまで「期待」であり、いつのまにかこの期待が「無意識の前提条件」になってしまっている方がいらっしゃれば、少し冷静になってもよいですね。冷静に投資とは向き合う必要があります。
それがリスク許容度であり、リスク・リターンの関係性でもあり、現金比率でもあり、という点にやはり関係してくることになります。
ご参考になりましたら幸いです。
Best wishes to everyone!
冷静に株式投資と向き合う一方で、今を生きる私たちは株式投資というツールは、今の世の中の仕組みとして、しっかり活用したい対象ではあります。
元本の最大化は、楽に資金を増やせる大きな要素ですね。こちらも資産形成期には意識しておきたいところです。
資本主義の未来というのも、興味深いテーマの1つです。アフリカという周縁の消失・可処分時間の争奪の先は、どうなるでしょうか。