
アヒル or ウサギ
2020年2月12日「ソフトバンクグループの2019年第3四半期 決算会見」内容まとめです。
今回も「報道内容」と「会見におけるSBG見解」に隔たりあり。
尚、以下文言につき、以下通りに以降略記します。
- ソフトバンクグループ:SBG
- ソフトバンクビジョンファンド:SVF
- アリババ / Alibaba / 阿里巴巴:BABA
【SBG】ソフトバンクグループ決算会見内容まとめ(2019年10~12月期)
まず決算総論(孫さん見解)は以下通り。
- (会計上)黒字回復
- 株主価値+5兆円
- スプリント・Tモバイル合併最終段階
次に決算各論(孫さん見解)をまとめると、以下通り。
- SBG
営業利益26億円。
ただし、SBGは事業会社ではなく投資会社。
ゆえに「営業利益ではなく、株主価値で実態を測るべき。更に、会計上BABAの寄与分が反映されていない」 - SBGの株主価値
保有株式価値31兆円。純有利子負債6兆円。
9月末から4か月で20兆円から25兆円に増加。 - SVF
3Q決算で営業赤字2,200億円なるも、「9兆円投資して、会見時点で1.3兆円の利益」。 - 財務
運用目標上回る健全性。内規LTVが25%未満に対し、実績16%。

SBG決算資料より
スプリント・Tモバイルの合併
会見前日に合併承認という粋な計らい。もちろん合併はあくまで主に以下観点から裁判所が我々の論点正しいという判決を出した。
- 米国民に5Gを最良の形で作れるという電波・技術をスプリントが保有
- 顧客獲得に優れたTモバイル
- 上記双方良い点を持ち合わせて、高品質・低価格サービスを提供可能
- 固定ブロードバンドの代替
- 全米で雇用創出可能
「会計上の利益」vs「株主価値」
営業利益・純利益より株主価値を見て頂きたい。
SBG結成以降、実質的に投資会社。各事業は事業会社としてSBモバイル・スプリント・BABA等あるが、SBGはその戦略的な持ち株会社。SBG保有財産はほぼ有価証券。
保有株式価値26兆円。純有利子負債5.5兆円。(2019年9月末時点)
中でも、「スプリント負債は、SBG連結会計上ノンコース(SBGは直接返済義務なし)ながら、SBG連結でカウントすべき」という議論あったが、Tモバイル合併承認により、晴れて当該議論は終了。
ゆえに、SBG純有利子負債5.5兆円を差し引いた額、つまり株主価値(Shareholder’s value)は20兆円。(2019年9月末時点)
「株主価値」という概念はM&Aの歴史が浅い日本で一般的でないが、欧米では一般的。
決算会見時点現在、保有株式価値は31兆円に増加。純有利子負債6兆円。2019年9月末から4か月で、20兆円から25兆円に増加。
財務方針
財務方針はWeWorkの反省から、引続き以下の通り。
- LTVは「平常時25%未満・異常時でも上限35%で運用」との内規。対して実績は16%(LTV=純有利子負債/保有株式価値)
- 少なくとも2年分の社債償還資金を保持
- SVF・子会社から継続的な配当を得る
- WeWorkの反省から、投資先の救済は行わない
SBGを測るに好適な指標:「営業利益」or「株主価値」
ここで1枚の絵を見て頂きたい。
左から見るとアヒルの顔、右から見るとウサギの顔。「言われればなるほどな」と。
さて、私はなぜこの絵を出したか。
左から見ると営業利益、右から見ると株主価値。同じSBGを一方から見れば営業利益、他方から見れば株主価値。どちらが大切なのか。結論は、「営業利益ではなく株主価値を見るべき」。
それゆえ、「SVFの3Q営業損益は2200億円の赤字だが、1か月強経った現在、+3,000億円」という言い訳じみた説明。また、「SBG全体では営業利益は+26億円だが、1か月強経った現在、+3,000億円で実質3026億円」という苦しい言い訳になってしまっている。
私からすると、これは誤差。なぜなら、会計上の利益が実態ではなく、「保有株式-借入という株主価値がどれぐらい増減したのか」が大事。売上あんまり関係ない。
皆さんも投資しているとして、皆さんにとって複数銘柄の株式を持っていたとして、売上や営業利益が大事か?「100万円投資して25万円借入あり、それが倍増したか半減したか」が投資家の成績の物差し。
保有財産が26兆円が31兆円に、4か月で5兆円増加。みなさんの財産が4か月で5兆円増えたら嬉しいと思いません?そんな豆腐屋さんみたいに簡単には増えないですが(笑)
株主として持つ純資産が20兆円から25兆円に増加。なぜなら保有株が26兆円から31兆円に増えた。つまり5兆円、財産が増えてる。これが4か月の我々の最も重要な成績。
つまり、事業会社ではなく投資会社なので、営業利益・売上は関係ない数字。この余計な数字があるがために、SBGの価値を複雑にさせている。
UBERとアリババの営業利益がSBGに何%反映される?
孫さん:「Uberの株の上下が営業利益に結び付くか、BABA株の上下がどう影響するか100%断言できる方」、手を挙げてください。
え?ちょっと待ってください。ここにいるのは、専門家のはずです。常日頃SBGを見ている方ですよね。もう1度聞きます。
「Uber・BABA株が、営業利益にカウントされるか分かる方、挙手ください」
え?1人いました。残りの人全滅ですか?これ大問題ですよ。私が悪いです。私が説明しきれてなかったからですね。明日からモノの見方を是非、変えてください。はい、挙手の方、どうぞ。
回答者:「Uber:100%、BABA:0%」です。
孫さん:正解です。正解ですが、これ問題ですよ。100人ぐらいここにいて、専門家の皆さんの中で、たった1人だけ手を挙げられた。
Uberは100%営業利益にカウント。BABAは1円もSBGの営業利益に会計上カウントされない。
何が違うかと言うと、UBER・WeWork・Slackは、SVF経由で保有。SVFはOperating Companyゆえ、ファンドのGeneral Partnerとしてカウント。
一方、BABAはファンド経営でなくSBG直接あるいは持ち株会社を通じて実質的に保有。ゆえにファンド会計ではない。従って、BABAの株価がいくら上がっても営業利益にカウントしない。
営業利益26億円の中に、BABAの株価が反映されていない。実際は5兆円、保有株の価値増加分のうち4兆円分BABAだが、それが会計上は反映されない。
ウサギかアヒルかの絵で言うと、SBGの業績指標はただ1つ、右から見ましょう。株主価値が増えたのか減ったのか。
その価値で言うと、この4か月で5兆円増えた。投資会社として立派な成績。
SBGの時価総額は12兆円。2000年頃のピーク時は20兆円。当時を遥かに上回る株主価値25兆円。この20年間、一貫して二字曲線で株主価値は上昇。
保有財産は工場や土地ではなく有価証券。1株あたりでは5,700円。1株あたり皆さんが持っている価値は12,000円。約52%ディスカウント。
だからこそ最近物言う株主とか(笑)、興味を持っていただいたりしとるんですけども。要は評価されていない。良いか悪いかは別として、一貫して株主価値は増加。世の中の眼は「危ういSBG、倒産しそうなSBG」とみている人が多いが、実態は違う。
潮目が変わった決算発表というのが、今日の決算発表。
決算内容まとめ
何の潮目が変わったか、以下3点。
- 黒字回復
- 株主価値+5兆円
- スプリント・Tモバイル合併最終段階
会社の理念は「経済活動のみならず、あくまで情報革命を通じて人々に幸せになってもらいたい」というのが我々の経営理念。そのためだけに経営している。
上場会社として株主の皆さんから大切な資金を預かっているので、その責任として「株主価値の最大化を図る」のが我々の使命。
以上が決算会見の主なまとめです。次は質疑応答です。
質疑応答
以下は日経・ロイター・フリーランス・News Picks・Wall Street Journalなどの記者さんたちとの質疑応答です。
Q. モノ言う株主の件、SBGにとってメリット・課題あるか?
A.物言う株主もモノ言わない株主も、我々にとって大切なパートナー。全ての株主に忌憚なき意見を言ってもらいたい。
常に心を開いて、経営をよくする提案は積極的に取り入れる。株主として投資価値が増えて欲しいのは、全株主の願い。
モノ言う株主の気持ちもサイレントな株主の気持ちも、心はひとつ。そのため、意見は大いに歓迎。著名な株主が我々の仲間になって頂くのは有難いこと。
Q. 2号ファンドの資金集め状況・船出の時期は?
A.WeWork・ウーバー問題などで、予定していた投資家パートナーには心配かけた。
忌憚ない意見も頂き、話し合い中。近日進展あり、何らかの形でファンド1の続きがスタート。
今日現在はSBG自らの資金で投資継続。常に数兆円の現金が手元にあり、借金を差し引いた価値25兆円の資産あり、余裕資金あり。自前で投資継続可能、あるいはパートナーに安心頂いて参加頂くなど複数の選択肢あり。
Q. エリオットの件、2004年からSBG株保有との由。いつ頃話したか?エリオットの3つの要求への回答なかったが。
A.エリオット経営陣と会ったのは2週間ほど前。じっくり話した。自社株買いは、SBGはかねてから「資金余裕あれば自社株買い実施」との基本的な考えに一致。
ただ、どの程度の金額規模・実施時期は、社債の格付けもバランスとして保つ必要あり。社債のトータルバランスと余裕資金を見て、タイミング・規模をうかがう。時々自社株買い実施というのは、双方一致。
2点目の社外役員、18年近くSBGの役員やって頂いたが、本業専念ということで退任。今後新たな社外役員増やしていきたいと考えている。
そのため、エリオットさんが言う言わないに関わらず、次の株主総会に向けて、候補を探している。いずれにせよ6月の株主総会に行いたい。ここもエリオットさんと一致。
3点目のSVFのガバナンス、透明性高める点については、リミテッドパートナーからは「WeWorkのような失敗せぬよう」と厳しく叱咤受けている。ガバナンスしっかり実施、透明性についても深める。
基本的にイギリス当局の規制を受けているファンドゆえ、ルールに則っている。更に襟を正して皆さんに納得いただけるガバナンス・透明性を深めたい。
Q. 良きブレーキ役と思しき柳井氏が昨年末に取締役退任。孫さん暴走懸念あるが、今後ガバナンスOK?関係悪化?
A.10数年取締役をされ、ほぼ毎回厳しい意見あり。私も良い意味で、健全なプレッシャーとして受け止めていた大変貴重な存在、尊敬。貢献に深謝。
柳井さんとしては、「本業に専念したい」との由。他会社の取締役をするほど手が回らないという思いは私も同じゆえ、返す言葉なかった。
友人としては今後も大切な関係。良きアドバイザー。社外役員の籍あるなしに関わらず、ゴルフもやる間柄。今後もゴルフを時々やって叱咤激励受けたい。
Q. 営業利益は忘れて良いとの由。孫さんは事業家ではなく投資家?グループ全体が会見を見ると思うが、事業会社の人は立つ瀬なしでは。
A.(質問を遮って)それは全く違う。役割が違う。事業会社の経営を否定しているわけではない。私自身も事業会社として30年、事業を行ってきた。
毎日利益を気にしながらオペレーションしてきた。そのことを否定するわけではない。「事業会社が正しくて、投資会社は偽の経済人」では、バフェットさんの立つ瀬がなくなる。バフェットさんも立派な経済人。
多くの事業会社の経営陣も立派な経営陣。役割が違うだけ。どちらが尊いという話ではない。
ヤフージャパンもアリババもウーバーも、戦略的な持ち株会社として株を持ち、間接的に影響を与えつつグループとして群戦略として、数百社が力を合わせて情報革命をやっていく。
Q. ビルゲイツからバフェットになるということ?
A.私とバフェットさんはやり方が違うが、大まかに言えばそういうこと。どちらが尊いということではない。
Q. 記者が何か書く時、「投資家・孫正義」で良いということ?
A.簡潔に言うとそういうことだが、本当は違う。情報革命家。
情報革命を行うのが私の本業。SBGは群れで情報革命を行いたい。一般の言葉で翻訳するならば「投資家」と言う方が分かりやすいかもしれない。
台湾の一面記事に以前、「日本から孫正義来る」そこに冒険投資家と記載あり。ベンチャーキャピタルの意と思うが、なるほどと思った。バフェットさんは冒険投資家ではなく賢い投資家。私はまだやんちゃ・クレイジーな投資家。
Q. BABAの位置づけは?
A.「BABAの株を売るべき」という話は、この5年毎年言われてきた。SBGの経営陣や外部からも言われた。でも、売りたくない。最小限にしか売りたくないということでやってきた。
結果、売るべきだと言っていた値段よりこの2・3年で3倍。持ってた方が良かった。私の考えは正しかったと思う。ただし永遠に1株も売らないということではない。バランスよく考えるべき。
BABAの売上は年間40%増加、純利益・FCFも40%近く増加。まだ伸びる余地あり。慌てて売るつもりなし。
Q. 「BABA株売却か、自社株買い」という二者択一だと思うが?
A.借金の返済に使うのか、配当に使うのか、自社株買いに使うのか、タイミング・スケール・方法論を考えるべき。
私は、SBGの最大株主。株価については、当然関心あり。SBGの企業価値を増やしたい思いは同じだが、方法論は我々経営陣に任せて欲しい。
Q. 潮目変わったとのことだが、「反省するが委縮せず」から積極的になるということ?
A.日々毎日反省しているが(笑)、前回申し上げた通り委縮していない。戦略に一切ブレなし。
ビジョン・戦略は微動だにせず。本決算はスプリント合併最終段階・投資利益堅調など潮目変わった。積極的な経営を継続可能と思っている。
Q.「投資会社として見て」とのことだが、SVF営業利益は累積赤字。どう受け止めている?
A.先述の通り9兆円投資し、決算会見時点で1.3兆円の利益。SVFは失敗ではなく、相当ファンドとして成功。かなり成績の良いファンド。今後、更に良化すると内心思っている。
SVF以外にもBABAあり。BABA・UBERへの投資、何が違うのか。私から見ると何も違わない。ただ、ウーバーやSVFの投資は、パートナー資金を預かって、専門部隊を作って実施している。以前は専門部隊なく、私のマインドとしては、ヤフーもBABAへの投資も同じ。
ゆえに、ソフトバンクを事業会社とみるのか、一方で1995年からソフトバンクは投資会社だったと見る人もいる。両方正しい。SBGは事業会社・投資会社の両面あった。
Q. 10~12月期で、SVFの赤字要因は具体的に何?
A.WeWork問題やウーバー株下落で、2000億円の赤字。
そこから1か月たったいま、3000億円利益が増えて、1000億円の黒字。これが実態。何月何日で成績を切るのかで見方変わる。SVFはまだ初期、一喜一憂するほどではない。
未上場も含めて投資先で価値が増えたのは30数社、減ったのも30数社で、差し引き1兆円増加。
Q. OYOは目論見外れた?
A.ホテルオーナーも増加、世界中でホテル数・宿泊客も急増中。2万以上のホテルが加盟。数多ある中でいくつかのオーナーの意見と食い違うことはある。OYOは若い会社。成長過程で色々ある。
【SBG】ソフトバンクグループ決算会見内容まとめ(2019年10~12月期)
決算での主なSBG見解を以下再掲します。
- (会計上)黒字回復
- 株主価値+5兆円
- スプリント・Tモバイル合併最終段階
- SBG
営業利益26億円。
ただし、SBGは事業会社ではなく投資会社。
ゆえに「営業利益ではなく、株主価値で実態を測るべき。更に、会計上BABAの寄与分が反映されていない」 - SBGの株主価値
保有株式価値31兆円。純有利子負債6兆円。
9月末から4か月で20兆円から25兆円に増加。 - SVF
3Q決算で営業赤字2,200億円なるも、「9兆円投資して、会見時点で1.3兆円の利益」。 - 財務
運用目標上回る健全性。内規LTVが25%未満に対し、実績16%。
BABAへの依存感が否めないのも事実と思います。BABAの今後に大きく左右されるとも解釈可能。

BABAが保有株式価値の過半を占める
そのBABAの今後に対して、孫さんは強気という構図です。
孫さんの株主価値に関する主張は一貫しています。ただ今回は2Q決算の時より、「営業利益はあまり関係ない」という論調が強くなった印象です。
また、孫さんと記者さんたちの間で情報に非対称性が大きくある印象。その一方、決して「上から目線」でもない孫さんの姿勢でした。
一方、「10~12月期で、SVFの赤字要因は具体的に何?」という質問に対しては、直接的な回答を避けた印象。非上場株の評価・バリュエーションについては気になるところですね。
今回も孫さん節が炸裂した決算会見内容でした。早速PTSで下げてるようですが、大きく下げれば再度インを検討。
Best wishes to everyone!
2Q決算の時も会見内容を見ているかどうかで受け手の印象は大きく変わると思います。