創業以来の大赤字を出したソフトバンクグループ(SBG)の決算会見が先ほど終了しました。
本記事はIR資料にフォーカスしたものと言うより、会見内容ならびに同社CEOの主な見解にフォーカスしてその内容を筆者がまとめたものになります。
会見自体を要すれば、以下3点。果たして今後どうなるのか、大注目です。
▶会計上の利益は大赤字も、株主価値はむしろ上昇中。
▶ビジョンファンド(SVF)は2年間で1.8兆円の利益創出
(内訳:評価益1.3兆円・実現益0.5兆円・評価減0.6兆円)
▶孫正義さん曰く、「私から見れば大勢に全く影響なし、戦略に変更なし、このまま粛々と前に進むのみ。」と強気コメント維持。
【SBG】ソフトバンクグループの決算会見内容まとめ。赤字計上も会見は強気維持。
決算会見中の主な孫正義氏の主張をまとめたものは以下の通り。
株主価値の方が会計上の価値より重要なことは再三言ってきた通り。
一応国際会計の基準に則り、数字を計上してはいるが、そこを目線として形容しているわけではない、何を目線にしているかというと株主価値。つまり一貫して言ってきたのは、会計上の利益ではなく株主価値、これが唯一最大。
これが前回の発表時点では25兆円の保有株式に対して、SBG本体が責務を負っている純負債が4.9兆円、これを差し引いた株主価値は20.9兆円であることを前回申し上げた。
今回どうなったかというと、保有株式は27.9兆円に増加。株主価値は22.4兆円に増加。
つまりSBGの唯一最大の価値である株主の価値は、この3か月間で会計上の利益は最大赤字だが、株主価値は1.4兆円増え、最大価値に。
前回と今回の差異は、アリババが2兆円増。これが最大の原因。
こういうことをいうと、「また孫が良いとこどりをして適当なことを言ってる」と批判されると思うが、これが事実。事実として、SBGは最悪の決算の中で、株主価値は増えているというのが事実。
ということで、孫正義さんは、あくまで会計基準は会計基準として、株主価値に唯一最大の重きを置いているスタンスを維持。
評価益の算定基準については後述の通り。
ビジョンファンド(SVF)保有株式の価値
ビジョンファンド(SVF)がウーバーやスラック上場後も下落しているし、WeWorkでも失敗しているではないか、SVGは大赤字だろうとの憶測に対して、孫正義さんが述べる事実については、以下の通り。
事実として、SVFの保有株式の価値は、「2年間で1.8兆円の増加、うち1.3兆円は評価益、実現益は0.5兆円、評価減が0.6兆円」
投資先約90社のうち、37社が価値増大、22社が価値減少、金額では3:1。3勝1敗。
たとえば、やり玉に挙がるウーバーやスラックは事実として以下の通り。
- スラックは上場時より株価下落も、我々が投資した時の5倍程度。
- ウーバーは上場した時より価値は下がっているが、我々が投資した時の株価と比べると同等。
世の中の全世界の約5,000社のベンチャーキャピタル(VC)が世界平均13%程度だが、我々はこれだけ大損したと言われているが、実情は世界平均VCの倍近いIRRを叩き出している。(ただ「以前掲げていた40%からは、20ポイントほど低下」している旨、質疑応答で記者から指摘され、孫正義さんはそれも事実として認める)
どうしてこれほどボロボロに言われるんだろうか、たまには言い返したくもなるが、いずれにせよ、SVFは損失どころかむしろ2兆円プラス。SVFの投資額8.2兆円に対し、2兆円の益を出したということ。
SVF投資先のウーバーやスラックについて、上場後の株価ばかり着目されるが、買値はそれより低いことを強調。
評価益の算定方法
では評価益をどのように算定しているのかについて、以下孫さんの回答。
お手盛り・鉛筆なめなめで評価してるとの批判あるが、勝手に適当に評価できない構造。
SBIの評価フレームワークは、報告のフレームワークとして国際会計基準などある。
当局規制の厳守の下ファンド運営実施。IAB自身がチェックする諮問委員会等があり、監査法人のデロイトなどに監査をされる立場で、私やラジームなど投資運営する人間は入ってはならないとの基準あり、厳正に行われている。
ウィーワーク(WeWork)の件について
なぜ今回、SBGがWeWorkに対し、様々な財務パッケージを用意したのか、救済だったのか、という疑問については、以下の通り孫さんが回答しています。
我々はウィワークに対して救済というより、我々の投資した際の株式価値が高すぎたということを大いに反省し、我々の株価をもう少し安く仕入れた形に株価を洗い替えしたいというのが一番の願望だった。
来年の4月に契約上、更にSBGは1.5milのワラントをコミットしてたので、1.5milの出資を行う契約義務あり。弁護士にチェックしたが反故に出来ない契約。従い、どうすれば価格の見直しができるのか苦慮した。
投資前の条件は、47bilの株価評価、つまり「1株当たり$110$追加出資義務」と契約済。今回財務パッケージを用意したことで、見返りとして、「1/10近い株価に評価替えが可能に」なるよう、同じ投資した額でもより多くの株式を得られるように、交渉した。
来年の4月に1.5milの現金をウィワークに入れるのを今年10月に前倒しするので、価格1/10にしてほしいとの交渉打診。
これだけでは交渉まとまらないので、金融機関からの支払い保証枠へのサポート及び無担保の債権または担保付のシニア、これらをトータルで用意して、その見返りとして17%の株式を事実上無償で我々に追加でもらう交渉を実施。
我々は追加で株式を得るために投資するというよりも、追加投資なしで取得株価を安く下げるということをしたかった。
信用枠を与えることで、現金を追加せず、既に契約済の出資金額の前倒し及び信用枠を与えることで事実上の株価を下げる。SBGの持ち株比率は12.8%から41.2%に増加。つまり事実上、追加の現金出さずに、約1/4($89.4 → $19.33)に取得平均価格を下げる交渉が成功した。
これは、ハードな交渉をする必要あったが、マルセロ中心に成功裡に終わった。実質的な持ち株価格を1/4に下げることに成功した。
沈みゆくWeWorkに救済したという見方多いが、我々から見れば、現金を出さずに取得価格を1/4に下げることができたというのが我々の本音。
しかしWeWorkが本当に沈んでは意味がないので、マルセロが会長として企業統治に乗り込むことを決定した。
スプリントの立て直し・合併に専念してたが、重要案件としてWeWorkの再建に注力してほしいということで指示した。
ということで、「追加出資義務の前倒しおよび信用枠を供与することで、取得価値を1/4にする」というスキームおよびその交渉が着地したことに対する意外感があります。
また、ウィーワーク関連の反省点として以下2点を挙げています。
1.価値を高く見すぎた。対策として財務パッケージで取得価値1/4に。
2.投資先のガバナンス。創業者のアダムニューマンが多くの権利(上場後に1株権利20倍)について取締役会が決定してしまった。つまり投資後にガバナンス悪化を食い止められなかった。
ではそのウィワークが沈みゆく船ではない理由については、以下の通り孫さんは回答しています。
そもそもなぜウィーワークが「沈みゆく船」ではないのか
まずウィワークビジネスは赤字で急激に赤字幅も増加しているのが事実。一方の事実として、その背景として、粗利が低い。そして経費が高い。従ってEBITDAが赤字。これまでこのような数式。
それに対し我々は、粗利を挙げる、経費を下げる、従って利益が出るというシンプルな立て直し。
どうやるのか、結論から申し上げると、簡単。なぜ簡単か。
まずそもそもウィワークはビルディング数・座席数を倍増させてきた。倍増が続いている時に、どうなっているかと言うと内装が建設中、建設中の建物は売上ゼロ、しかし仕掛品として大いに経費かかる。資産計上できるものはするが、それでも経費かかる。ビルの開拓のために営業マンが動くし、内装の設計をするデザイナーは膨大な部屋を新たに設計している。これらは売上ゼロで経費先行。
新規ビル年々倍増な中、ビルは13か月以上経つと立派な利益出る。7-12か月は利益的に黄色信号、1-6か月は大赤字。この大赤字の1-6か月の新規ビルが全体の40%を占める。
かかる状況なので、ビルディングレベルで利益が出ない。実際に約700のビルが今月既に開業。700のビルがウィワークのビルが世界中に開業する。稼働率は何%のところにお客さんがついているのか精査済。
例えばNYのマンハッタン、最初の6か月は稼働率低いが、12か月を過ぎると約88%。すべての稼働率を加重平均すると、時間と共に稼働率急激に上昇。
施策として、新規契約のビルをSTOP。増益体制が整う2-3年内は新規契約をゼロにする。尚、東京は99%埋まっていて黒字という例もあり、例外あるが原則新規ストップ。
次に経費削減。新規ビルが年々倍増できたが、この成長のための経費(設計・ビルの交渉など)が全体の経費の半分占めていた。これをなくすため、経費が半分以下になる見通し。
これら施策によりWeWorkは改善する。
SBGは難しい経営の再建を何度もやってきた(Yahoo BB、Vodafone、Sprint)が、一貫して同じことをしている。
WeWorkも、1年半後には、収益を稼ぐビルに生まれ変わる。理由は稼働率の上昇。なぜ上がるのか、各棟精査・加重平均の上。工夫するのではなく、単に時間が解決する。特別なことは不要。新規のビルを一旦ストップすることで、稼働率↑、収益↑となる。それだけの話。
これがビルに対する粗利の改善。
①不採算の新規事業を全て削除
②新規のビルを止める
③経費半減させる
以上。一気にV字回復を見込む。今後の結果を見て、ご批判頂きたい。何度も経営の再建をしてきたが、成功させてきた自負がある、シンプルなロジック。
新規ビルを止め、契約を止め、健全な利益を保った↑で徐々に新規を加える形にする。それにしても我々が高く買いすぎたので、株式の調達価格を1/4に洗い替えたということ。救済という意味合いではない。
そのように見えたことで、株価も下がりCDSも下がったことで、誤解を招いたので深く反省。
ということで、改善案は非常にシンプル。説明としても明解な内容となっています。
なお、ウィーワークがIT企業ではないのではないかとの指摘に対しては、「上述事項はあくまで基礎編の施策であり、基礎編の施策が進む中で、今後AIの観点も加えた応用編の施策を打ち出していく」との旨、孫さんは回答していました。
財務ガバナンス・方針について
財務規律については、改めて以下の通り明言しています。
投資先はあくまで独立採算であり、彼らが赤字になっても救済しにいくような投資はなく、今回のような例外は終わりと。
- 我々のLTV(財産価値に対する純有利子負債)は25%未満原則で運営。異常値でも35%を超えないことを維持。
- 少なくとも2年分の償還社債の返済財源を手元に現金で置いておく。
- SVFなど潤沢なグループ会社から配当を得る。
ビジョンファンド(SVF)の投資選定基準とは
一方でSVFの投資の物差しはどうなっているか。以下の通り明言しています。
- IRR30%など割引率を前提として、企業価値の算定を行う。
- 他の投資グループの投資判断に左右されるものではない。
企業価値の唯一最大の物差しは、フリーキャッシュフロー。
売上の何倍、EBITDAの何倍、粗利の何倍などで測られること多いが、何か1つ指標を選ぶならFCF。ただし今現在のFCFで見ると、インターネット創業期はみんな真っ赤。アリババもアマゾンもそうだった。何年後かにFCFが出るようになり、軌道に乗った時点でのFCFの倍率が企業価値の唯一最大の物差しであると思慮。
FCFのシグマを出す際に、その時点のFCFに対して成長率というもう1つ重要な物差しあるが、15倍~45倍など散らばっているが、散らばりいると、売上年間成長率に対してFCFが何倍の時価総額でついているか、この平均値を取ると、30%なら大体25倍など具体的な数値として落とし込む。
ということで、非常に定量的かつ明確な投資選定基準である旨、述べています。
IT革命はまだ続く
インターネット創業期も今と同様に場ぶっている、赤字会社に多額の投資をしていると言われていたが、実際にネットバブルも弾けて損失も出したが、データトラフィックは二字曲線で伸び続けており、今から20年間インターネットの成長期と同様に伸びると思っている。
ソフトバンクグループ決算内容まとめ
ということで、以上改めてまとめますと以下の通り。
▶創業以来の1兆円規模の大赤字、ぼろぼろな決算だが、株主価値は1.4兆円増。(仮定ながらアリババの2兆円増を会計上含めて良ければ黒字だった。)
▶株主価値もSVF価値も増加。
▶LTV17%ということで、ノンリコース(返済義務)外して考えても健全な範囲。
これを受け、市場がどのように反応し、今後ソフトバンクグループならびに孫正義さんには、俄然大注目です。
Best wishes to everyone!
同じく日本株のJリートに関する現在の状況はこちら詳述しています。
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