「日本たばこ産業(JT)の今後の見通しについてどう考えるか」というご質問を頂きましたので、5つの観点を踏まえた上で、以下回答申し上げます。
JTの株価はどこまで下がる、今後の見通しについてどう考えるか
いつもブログを拝見させていただいてます。株式や投資のみならず、生き方や、考え方など勉強になります。自分の考えをしっかり持ちながら、そして他者を否定しないところなど素晴らしいと思います。
私は36歳、3歳になる息子の育児中です。
薬剤師をしています。
独身時代から母の影響で株やFXをやっていましたが、出産後、息子のために確実に資金を増やしたいと思い、配当金投資にたどりつきました。
(中略します、中略部分は別途回答申し上げます)
また、JTの今後はどう考えていますか、教えて頂けるとありがたいです。
よろしくお願い致します。
日本たばこ産業(JT)というたばこ株の今後を考える際に、以下5点を考慮してみます。
- たばこ株のイメージ(社会的便益・損失)
- たばこの中毒性・価格弾力性
- ESG投資
- 直近キャッシュフロー
- 財務状況・借入金推移
【JT 今後の見通し】①たばこ株に対するイメージ(社会的便益・社会的損失)
JTというたばこ株について言及する上で、まず以下2つの事象のうち両方を念頭に置きたいところです。
- 社会的便益
- 社会的損失
たばこについては、社会的な損失がありますね。一方で、たばこ税による税収を財源とした公共サービスを国民は等しく享受しているのも事実です。
たばこは健康に良くないです。副流煙は私も好みません。個人の感覚ながら、社会的損失が社会的便益を上回っているように感じられます。
(だからこそ政府は増税により社会的便益を増大させようとするわけですね。経済学で言うところの「市場に任せていると個人や企業などの社会的負担が増す「外部不経済」を改善すべく導入するピグ―税」に該当します。)
純粋な投資対象として見る場合には、社会的便益と社会的損失の両面を認識した上で、客観的に投資先の事業を見るのも一案と思います。
【JT 今後の見通し】②たばこの中毒性・価格弾力性
JTが扱うたばこの中毒性・価格弾力性について、知人による印象的な一言があります。
「たばこは1箱1,000円を超えても買い続けると思う。健康に良くないのは分かってる。けど、やめるのは難しい。」
たばこの中毒性・価格弾力性の小ささ(=価格上昇率ほど販売数量が減少しないこと)を、示唆しています。
下図は、日本の1990年~2018年における「たばこの販売数量と販売代金の推移」です。
(出所:一般社団法人 日本たばこ協会)
1990年のたばこ販売数量・販売代金を100とすると、2018年は40・82です。
つまり、販売本数が6割減少した一方、値上げにより売上高は2割弱の減少。
「減収が続く先進国」と「増収が続く新興国」の綱引きが当面続くかもしれません。なお、中国では私の周囲の20代は、30代や40代より喫煙者は少ないように感じます。
【JT 今後の見通し】③ESG投資
JTの株価低迷の一因として、ESG投資の影響が挙げられます。
というのも、JTの株主構成推移における外国法人保有割合の減少具合が、株価低迷に酷似しています。
JTの株価推移を見てみましょう。
2015年から下落の一途を辿っていることがわかります。
下図・下表は日本たばこ産業(JT)の有価証券報告書が示す所有者別株主分布(=株主構成)の推移です。
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 6月 |
|
政府及び地方公共団体 | 33.4% | 33.4% | 33.4% | 33.4% | 33.4% | 33.4% |
金融機関 | 15.9% | 17.2% | 17.3% | 18.6% | 19.9% | 19.0% |
金融商品取引業者 | 2.3% | 2.8% | 2.8% | 3.3% | 3.2% | 4.5% |
その他の法人 | 1.3% | 0.6% | 0.8% | 1.0% | 1.1% | 1.1% |
外国法人等(個人以外) | 33.6% | 32.1% | 30.9% | 27.4% | 20.0% | 16.9% |
外国法人等(個人) | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
個人その他 | 13.7% | 14.0% | 14.8% | 16.3% | 22.4% | 25.2% |
(出所:日本たばこ産業 有価証券報告書)
上図・上表を見ると一目瞭然で、株価低迷と歩調を合わせるように外国法人が2015年・特に2016年以降大きく売り続ける一方で日本の個人投資家が買い支えている構図が続いています。
下図は欧州・米国・カナダ・豪州・ニュージーランド・日本など証券投資環境が整っている先進各国における総運用資産に占めるESG投資の割合です。
(出所:Global Sustainable Investment Review)
欧州が2014年以降は縮小しているのが意外ですが、全体としては2014年以降増大しています。
このESGの売りが尽きることがあれば、潮流変化の兆しになるかもしれません。
ちなみに日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、歩調を合わせるように2015年9月にPRI(Principles for Responsible Investment: 責任投資原則)へ署名し、ESG投資に取り組み始めました。
【JT 今後の見通し】④キャッシュフローは危険水域
では、肝心の直近キャッシュフローはどうでしょう。JTの2019年上半期におけるキャッシュフロー増減です。
(単位:百万円)
企業結合による支出という投資キャッシュフローは定常的なキャッシュフローとは言えませんが、これを考慮したフリーキャッシュフローは1,396億円です。
対して配当支払額は1,343億円とほぼ同額となり、フリーキャッシュフローベースの配当性向は96%です。EPSベースの配当性向の70%台より高い値になります。減配を注意したい数字です。
今期はやや特殊要因含むため、引続き四半期ごとのキャッシュフローは要注目と思います。
【JT 今後の見通し】⑤財務状況 借入金推移
下図はJTの有価証券報告書から集計した「社債及び借入金」と「支払利息」の推移です。
(単位:百万円)
・2015年に2,000億円強だった債務は、2019年6月末時点で1兆円を突破。
・支払利息も2015年の40億円から、2018年には163億円まで増加。
日本は低金利環境にあり、且つ借入自体は必ずしも悪いことではありません。あくまで資本コストを考慮した上で、通常は資金調達が行われます。
ただし「頭打ちの業績/キャッシュフロー」+「財務悪化」の両者が出会うと、減配リスクを感じさせます。要注視です。
JTの今後の見通しまとめ
以上述べてきましたように、2015年以降における
- JTの株価下落
- ESG投資の高まり
- JT株主構成のうち外国法人の保有割合現象
の3点は全て歩調を合わせるように推移しており、有機的に繋がってくるかのようです。
ESG投資は、業績に関係なく、環境・社会・企業統治の観点から投資判断を下す意思決定ですね。配当利回りが何%に達してようが売られますから、参考にすべきではありません。業績堅調な銘柄にかぎれば、相対的に投資機会が創出される可能性はあります。
欧州のESG投資割合が下がってきているのが気にはなりますが、全体としてESG投資という潮流は少なくとも2018年まで続いています。
また、少なくとも2019年6月末まで5年前から外国法人の持分割合が33.6%から16.9%まで半減、株価も4,850円から2,230円まで半減しています。この外国法人の売りがいつまで出続けるのかがポイントになると共に、キャッシュフローや財務も見逃せません。
キャッシュフロー・借入金の観点からは、既に危険水域にあると思われ、いつも述べている通り、投資するにしても分散が必須です。
尚、JTの株主構成にご興味ある方は、以下JTのサイトで四半期ごとに更新されているようなので、参考になると思います。
以上ご参考になりましたら幸いです。
JTの第一四半期決算です。
将来見通しに確信が持てるか否かというのは、買い増しする際の判断に直結してきます。個別株よりもインデックスファンドやETFが無難でしょう。
コメント
JTは僕の主力銘柄なので、今回の非常に的確な分析は大変参考になります。
ありがとうございますm(__)m
金融機関はむしろ買い増しているのですね。
一応のお墨付きですね。