読者の方から以下のようなコメントを頂きましたので、「なぜ高配当株の長期保有による資産運用をしたのか」について述べます。
三菱サラリーマンさん、こんばんは!
私も現在、高配当株の購入を検討しています。
米中貿易戦争での株価急落に巻き込まれて、この間成長性に惚れて購入した中国光大国際(00257)は大幅下落です(香港ハンセンの話で恐縮です)。。
このような時、いつも三菱サラリーマンさんのように高配当株や連続増配株を買うべきだったと後悔しています 笑
まず、投資手法は多様であって良い
まず最初に申し添えたいのが、資産運用の手法は個人の嗜好や経済状況などによってベターな手法は変わってきます。
ですから、弊サイトの基本的なスタンスとして、「特定の投資手法を礼賛し、特定の投資手法を批判する」つもりはありません。
「みんな違ってみんな良い」というと陳腐な表現になりますが、まさにそれが信条です。個人の多様性があって然るべく、投資手法も多様性があって然るべきです。なぜなら、投資のゴール・そこに至る道程は、人によって異なるからです。
インデックス投資だろうが、グロース株投資だろうが、ディフェンシブ株だろうが、高配当株だろうが、シーゲル銘柄だろうが、集中投資だろうが、各人によって得意な手法や適した手法は異なります。
ただし、日本で跋扈していた(している)信託報酬など手数料が高いユーザーフレンドリーでない金融機関ファーストな投資信託だけは、ダメです(笑)
また、トルコリラや南アフリカランドなどの新興国高金利通貨も個人的には推せません。高金利からのスワップ収入は魅力に見えるかもしれませんが、中長期的には通貨価値自体に毀損により、スワップ収入が減殺される傾向が多分にあるからです。
話を戻しまして、株式投資であろうと、なんであろうと、個人の価値観はあまねく多様ですので、「各人違っていて、それで良い」というのが基本スタンスであることを、まずは申し添えておきます。
個人が各々に合った、好きな手法を追求すればそれで良く、単一な最適解というより個々人にあった多様な方法論があってよいと思います。
高配当株に投資した理由・メリット・デメリット・トータルリターン。
それでは、「なぜ私がFIREを達成するまで、高配当株・連続増配株を選好してきたのか」を述べます。
詳細は上記記事に譲りますが、「配当による株主資本の流出、ならびに配当課税による配当控除を考慮しない場合に限った税引後リターン押し下げという”デメリットと思しき理論的側面”を考慮してもなお、それを上回るメリットを実感するから」という側面があります。
代表的な例として、下落相場でも「配当による買い増し原資・キャッシュフロー」が創出可能なことが挙げられます。
たとえば無配当の成長株に積極的に投資してこなかった理由はここにあります。また、以下も考慮しています。
- 暴落の際、無配株が多いと現金比率がない場合に定期的に買い増せない
- 弱気相場が長期にわたると、配当がないと精神衛生上、相当キツい(これは実際に経験しないとわかりにくいかもしれません)
- フロー(配当)がないため、経済的自由達成度(支出÷配当)が明確に「%」で算出できない
私はセミリタイアに至るまで、個人的に定期的に買い増せるかどうかを重視してきました。投資方針もライフプランニングも定期的に買い増しできるかが密接に関連しています。
高配当株のメリットを考察
高配当株のメリット・デメリットのうち、まずメリットを考察します。
人生の目的を達成するための「手段」として有用
高配当株のメリットは、以下目的と親和性が高いことにあります。
- 日々変動する資産額ではなく、配当をKPIとすることでFIREに至るまで心地よく続けやすいと判断
- 株式を買えば買うほど、右肩上がりに積み上げていくことができ、高いモチベーションで続けやすいと判断
- 自分でコントロールできない運用利回りではなく、自分でコントロールできて資産運用に決定的である「入金力の最大化」に集中しやすいと判断
- 「年間生活費 ÷ 年間配当」でFIRE達成度を明確に算出でき、人生の大きな決断に踏み切りやすいと判断
上記が核心部分です。つまり、「人生の目的を達成するための手段としての配当の積み上げ」を速く達成するに適していました。
無配株の特定パターンを避ける
私の最も避けたかったパターンは、無配当・高PERの銘柄に投資していて、成長期待が剥落して下落するパターンでした。
例示すると2018年7月のフェイスブック(FB)が該当します。
一時的に20%下落。尚、のちに値を戻しています。
こうった局面では、配当利回りによる株価の下方硬直性(=下支え効果)が見えづらい上に、高PERだった銘柄なので、下落幅が読みづらく、通常のPERまで下落することを想定したりすると、下落余地の想定幅が大きくなります。(PERはあくまで目安にすぎませんし、結局は投資対象を信じられるのかが肝要であることも申し添えます)
この場合、20%も下げると狼狽売りにも繋がりやすいです。ここで売ってしまうようなタイミング売買だと「あの時売らなければ…」と精神的に後悔してしまう確率が高まります。
それまでたとえ大きな利が乗っていても、一瞬の下落により1年分の含み益が一瞬で吹っ飛ぶこともあります。
私はFXでそういう局面を幾度となく痛烈に経験したので、これが最も個人的に嫌うパターンです。(2021年1~3月に無配株・成長株が大きく調整しました。その際にもろうばい売りが散見されやすかったのは、記憶に新しいところです)
2018年のフィリップ・モリス【PM】のように、成長株だけでなく高配当株でも20%の急落はもちろん起こり得ます。ただ、配当の有無による心持ちや狼狽売りの蓋然性は変わってきやすいと思います。
以前、ファクトセット【FDS】を購入しました。連続増配株ながら成長株であり、配当利回りは1%台でした。のちに買い戻しましたが、一旦は売却しました。
当時の私は、FDSの下落局面では「精神的に、心地よくなかった」というのもあります。とはいえ、今はだいぶ受け止め方は変わりました。
高配当株であれば、このような精神状態になりにくいことは、経験済みでした。ただし、その後のコロナショックではそれまでの傾向と異なり、大きく下がる高配当株が多かったですね。中立を期すため申し添えます。
配当という”仕組み”がキャッシュフロー・KPIを生む
株式は配当が吐き出されるたびに、利益確定と同じ作用が働きます。
配当には課税され、株主資本の流出分よりも税金分減ったものが手取りになります。配当を受け取ったからと言ってそれ自体が錬金術のように資本を生み出しているわけではありません。
したがって、利益確定と原理的には変わりません。「配当分課税されずに事業に再投資した方がリターンは高まる場合がある」という見方もあります。
ちなみに、事業への再投資は効率的とはかぎらない
ただし、事業への再投資はかならずしも効率的とは限りません。GAFAMのように一部のIT企業のイメージが強いために、事業への再投資が効率的というイメージがつきやすいかもしれませんが、一般的にはそうとも限らないのです。
私も企業で投資回収の領域を学んだことがありますが、想定通りのIRR(利回り)になるとは限りませんし、新規事業への投資は失敗することもあります。
その一方で、配当を吐き出すことで、それが定期的なキャッシュフローとなり、目に見える形で証券口座に入金されます。そしてその配当は、投資家が趣味に使おうが、下落局面で買い増す余資にしようが自由です。
つまり、「事業への再投資の効率性への不透明性」を消して、「投資家へ資金の用途を一旦委ねる」ことも意味するわけですね。
この自動的に一部利益確定されるという”仕組み”も悪くないです。この”仕組み”があれば、以下メリットがあります。
- 目に見える形でのわかりやすいキャッシュフローが生み出され、KPI、そして経済的自由達成度の指標となり、モチベーションの持続・向上が図りやすい
- 下落局面での買い増し余資になる
いずれも精神面で実感できるメリットです。投資において私が重視するのは、「ベストかどうかは不明なるも、精神面で自分に好適な、少なくともベターな解」です。
精神面に寄与、暴落への備えとしての親和性
これもFXでいやというほど感じましたが、結局自分の精神とどう向き合うのか、どういった投資方針を設けて、どうその方針を貫くのか、ここが肝になってくると感じました。
実際に下落局面・暴落局面になったときに、配当で毎月数万円でもキャッシュフローが生み出されるかどうかで、心持は一変します。
配当収入を増やすことで、暴落局面への備えとしてきました。
リーマンショックで、スプレッドが開きつつドル円が急落していくのを間近で見ていましたが、それが人生で初めての暴落だったので、その時冷静ではありませんでした。
暴落でも冷静にいられる仕組み、これを作ることが先決と私は思います。
暴落というのは今この時も、これから先も常に起こり得ることなので、常にそれを頭の片隅に入れながら備えておくことが必要になります。
FIREに至るまでの時期における私の場合、その備えは定期的なキャッシュフローを大きくすることでした。その備えは、高配当株と親和性が高いのです。
高配当株のデメリット・注意点
逆に、高配当株のデメリット・注意点も述べます。
- 「配当を多く出す=良いこと」ばかりではない
- あくまで業績・利益・キャッシュフローが大事
- 「配当利回りが高い=買い時」とは必ずしも限らない
- 買値・資金管理・買い増し余資の有無、重要
- 配当金は増えることもあるが、減ることもある
- 損することもあるし、株価が下がり続ければ不味
①「配当を多く出す=良いこと」とはかぎらない
まず、「配当を多く出す=良いこと」とはかぎりません。
あくまで、配当の主たる源泉は「株主資本」です。配当が吐き出されると、理論的には株価は配当分下がります。なにか錬金術的に配当金が生み出されているわけではありません。
あくまで配当の主たる源泉は、業績であり、利益であり、キャッシュフローです。これが大前提です。
特に個社においては、個々の業績や財務に目配りすることが欠かせません。(そして、目配りしていたつもりでも、リスクの顕在化を事前に把握するのが困難でもあります)
そして、配当を吐き出すたびに、課税されます。課税されるたびに無配株と比べて税金を先送りにできず、その点に限れば、理論上リターンを押し下げる要素にもなり得ます。(ただし、あくまで配当控除を考慮しない場合に限る)
配当が多ければ、そして数十年単位の長期にわたると、その影響は応分に大きくなることもあります。
また、配当利回りが極端に高い(4~5%以上)銘柄は、将来見通しが悪いために株価が下がり、結果的に高配当になっていることもあります。「配当利回りが高い=よい」とはかならずしも限りません。
② あくまで業績・利益・キャッシュフローが大事
配当という「定期的な不労所得・キャッシュフロー」の主たる源泉は、あくまで業績であり、利益であり、キャッシュフローです。
そのため、高配当株であればなんでも良いわけでは当然ありません。
「今後も業績・利益・キャッシュフローが見込めると思しき企業」に投資を試みるのが基本です。
仮に「沈みゆく可能性のある船に投資する」ということであれば、沈むリスクを承知の上で投資したり、分散を徹底することが必要になってきます。
③「配当利回りが高い=買い時」とは必ずしも限らない
配当利回りが高いということは、背景に「潜在的なリスクをマーケットが織り込み始めている」可能性があります。(一方、市場に短期的な「歪み」や「行きすぎ」がある可能性もあります)
つまり、減配リスクや業績低迷、セクター由来あるいは景気サイクル由来・市況サイクル由来の低迷期の端緒を反映する場合もあります。
配当利回りの上昇は、購入タイミングの材料になり得ます。なり得ますが、株価下落のクッションにもなり得るその一方で、当然ながら更に下落するリスクもあります。
ですから、個別株において「配当利回りが買い時の目安になるケースもあります」が、「配当利回りが高いというそれだけの事象で以て、買い時になる」とは必ずしも限りません。
尚、ETFでは経験上、配当利回りが目安になることは散見されます。
④ 買値・資金管理・買い増し余資の有無、重要
これは特に個別株に言えることですが、買値は重要です。
「長期的に右肩上がりが望める」と思えるようなETFであれば、淡々と積み立てていくことで、その期待が実現した際には恩恵が享受できます。
しかし、特に個別株では株価が上昇するものもあれば、横ばいのものもあれば、低迷期が長く続くものなど千差万別、そのボラティリティは比較的高いものになります。
低迷期が続いて上昇を描くパターンを例に挙げると、この場合、資金管理・買い増し余資・心理面も非常に重要になってきます。
「その株式が低迷期を挟んでも長期的に上昇する」というシナリオにBETする場合、下落途中に買い増し余資が尽きると、買値が高くなってしまいがちです。
ゆえに、入金力や配当の多さなどが心理面でも買値面でも大きく関係してきます。
例えば、直近ではタバコ株はその最たる実例として挙げられます。
BTIなんかは、底で大きく買い増しできたケースとして、高配当株かつ短期間で+40%という大きなキャピタルも得られました。
ただし、このタイミング投資は、あくまで資金管理や現金比率、当人の心理面などあらゆる要素が絡んできます。
⑤ 配当金は増えることもあるが、減ることもある
配当金は増えること(=増配)もありますが、減ること(=減配)もあります。
業績・利益・キャッシュフローが継続的に低迷すれば、金利や社債発行状況など資金調達環境や、経営陣の意思決定次第ではありながら、減配を余儀なくされることもあります。
ですから、「必ずもらえる」とは限りません。最近では、日産自動車が好例と思います。
⑥ 損することもあるし、株価が下がり続ければ不味
株式投資をやっている以上、含み損となる可能性は厳然としてあります。
長期投資、つまり投資期間を長くとれば、損失が限定的になる傾向が過去ケースで見られますが、含み損に堪えかねて売ってしまえば、その傾向の果実を享受することはできません。
いくら高配当だからと言って、株価が下がり続けて当人が生涯を終えてしまうと、配当というキャッシュイン(フローに着目)の観点からは意味がありますが、資産形成(ストックに着目)の観点に限った場合、好ましいとは言えないでしょう。
そのため、特に固有の値動きをする個別株では買値が重要です。そして、これは高配当株に限りませんが先述の通り資金管理、給与などその他キャッシュフローの有無、当人の心理面なども重要になってきます。
米国高配当株のリターン検証(米国成長株と比較)
下図はJPモルガンのデータ、「米国高配当株と米国成長株のリターン比較・内訳」です。
1993年1月を100とした場合の配当再投資なし前提で、高配当株・成長株におけるトータルリターン比較は下表の通り。
配当再投資なし | 高配当株 | 成長株 |
キャピタルゲイン | 543.5 | 824.7 |
インカム(配当) | 340.6 | 94.5 |
トータルリターン | 884.1 | 919.2 |
配当再投資しない前提では、高配当株より成長株がリターンで上回っています。
しかし、以下「配当再投資あり」の場合では、「配当再投資の影響」ならびに「高配当株の特長」が感じられます。
配当再投資あり | 高配当株 | 成長株 |
キャピタルゲイン | 543.5 | 824.7 |
インカム(配当) | 340.6 | 94.5 |
配当再投資によるキャピタル | 541.3 | 225.6 |
配当再投資によるインカム | 341.9 | 22.3 |
トータルリターン | 1,767.3 | 1,167.1 |
高配当株が成長株を大きくアウトパフォームしています。
これもあくまで理論的なデータに過ぎず、税の繰延効果を考えると差し引いて考える必要があるとは思いますが、こういった側面もあるということですね。
企業景況感が拡大局面で劣位
高配当株は景気拡大局面では、バリュー株や景気敏感セクターにやや劣後するという過去データがあります。
企業景況感が調整局面で優位
景況感の調整局面では、やはり高配当株のリターンの底堅さが特徴的です。
1957~2012年:市場平均に優位
米国高配当株=高リターンの時期(1957~2012年)

出所:Jeremy J. Siegel, Stocks for the Long Run” 5th Edition, McGraw hill 2015 Figure 12-2, Returns to S&P500 Stocks Ranked by Dividend Yield, 1957-2012, page 180-181
2007~2018年:市場平均と同等
2018~2020年:市場平均に劣後
米国高配当株ETF【VYM】のトータルリターン推移は、下図の通りです。

赤:S&P500、青:VYM
2018年までS&P500と同等ですが、2018年以降、劣後しています(緑枠)。
趨勢を変えたのは、GAFAMです。Game Changeと言ってよいほどの変化。
直近の値動きの印象が強まりがちですが、この新常態が続くと見るか、以前の傾向にいずれ戻ると見るか、ここがポイントですね。
以上のデータ・客観的統計値から言えることとして、「高配当株はトータルリターンにおいて、良好な時期も多かった」ということは言えるのではないでしょうか。人間は直近の値動きを過大認識しやすいので、過去を振り返ることは一案と思います。
まとめ
ということでまとめます。
- 日々変動する資産額ではなく、配当をKPIとすることでFIREに至るまで心地よく続けやすいと判断
- 株式を買えば買うほど、右肩上がりに積み上げていくことができ、高いモチベーションで続けやすいと判断
- 自分でコントロールできない運用利回りではなく、自分でコントロールできて資産運用に決定的である「入金力の最大化」に集中しやすいと判断
- 「年間生活費 ÷ 年間配当」でFIRE達成度を明確に算出でき、人生の大きな決断に踏み切りやすいと判断
1つ申し添えておきます。私に適した投資手法が、万人に適するとは限りません。なぜなら、暴落時の心理的な受け止め方、投資のゴール、ゴールに至る道程など多様な要素が絡み合うからです。
その点だけは心に留めておいていただければ幸いです。
いずれにしても、人間は感情があります。理論だけでは語れない部分がありますね。私は経験上、投資においてメンタル面は非常に重視しています。
Best wishes to everyone!
配当金のメリットについて、詳述したものです。
逆に、高配当株のデメリットについて焦点を当てたものです。
色々な投資手法がありますね。
コメント
「いずれにしても、人間は感情があります。理論だけでは語れない部分はありますね。」
一番大事なことですね。「運用は続けてゆくのが難しい」という言葉は運用を始めて、年収以上の額に達したのちに総資産が3割以上減る経験をした人にしか理解できないと思います。追い詰つめられたときの感情に重きを置いて高配当株(ETF)をすすめることは、実践家にしかできないことだと感じました。