保護主義がなぜ景気後退・株価下落につながるか
昨今の経済・貿易状況、株式市場を語る上で、保護主義に対する懸念は無視できないものになってきています。
そこで、米国トランプ政権が保護主義に走ると、どのような影響・リスクがあるのかについて詳述します。
出来るだけ平易に書いたつもりなので、ご参考にして頂けると幸いです。
マクロ環境:減税&国防費・公共事業費の増大による財政赤字拡大
まず足元の米国のマクロ状況としては、
2017年末に決まった税制改革による大幅な減税と、2018年2月に可決された連邦債務上限引き上げに伴う国防費と公共事業費の増大によって財政赤字が拡大する見通しとなりました。
この環境は1つのポイントです。
完全雇用状態にある米国で保護主義に走ると、どうなる?
米国はついに完全雇用を達成したか、完全雇用にそう遠くない地点にたどり着いたようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が今月実施したエコノミスト調査によると、「米国経済は完全雇用に達したか」との質問に「イエス」と回答したのは全体の42%、「ノー、だが近い」と答えたのは48%だった。
(出所:Wall Street Journal)
米国の失業率は4%近傍まで下がっており、
事実上の完全雇用状態にあると見られます。
マクロ経済学上の概念であり、ある経済全体で非自発的失業が存在しない状態。(出所:Wikipedia)
要は、完全雇用とは「働きたい人はみんな働けている状態」のことです。
完全雇用状態下で先述したような公共事業などの財政刺激策により内需が拡大すると、完全雇用下では「働きたい人はみんな働いている状態」である為、
国内生産の拡大余地がありませんから、国内生産だけではその需要が賄いきれず、輸入が増加して貿易赤字、ひいては経常赤字拡大に繋がります。
輸入増加 ⇒ 貿易収支悪化
輸入増加が起こると貿易収支の観点からは、ご存知の通り、貿易赤字要因になります。
トランプ氏はこの貿易赤字を諸悪の根源とでも思ってるかのような言動が続いています。
しかし、輸入増加は悪いことばかりではありません。輸入増加の正の効果は、インフレ圧力を抑制できるということです。
※そもそもインフレって?
ここで、「そもそもインフレとは何か」を下述しておきます。
平易な言い方をすれば、「みんなが欲しい量より、商品が少ないと、値段が上がり、お金の価値が下がる」ということです。
輸入増加 ⇒ インフレ抑制
国内生産の拡大余地がない中では、商品の数量を増やすには輸入することになります。もうわかりますね。
輸入により商品の数量が増えるので、インフレ抑制になるわけです。なぜならインフレとは上述した通り、みんなが欲しい量より、商品が少ないから起こるわけです。
つまり、何が言いたいかといえば、経済的な観点では、輸入が増えて貿易収支、ひいては経常収支が悪化することは必ずしも悪いことではないということです。
保護主義 ⇒ 輸入増えず ⇒ インフレ抑制効果なし
しかしトランプ政権では「貿易赤字=悪」とされていますから保護主義に走っています。
保護主義に走ると、セーフガード発動などにより関税をかけ、国内産業を守ることにより、輸入が減少しますから、上述したような輸入増によるインフレ抑制効果が期待できなくなるわけです。
インフレ抑制効果なし ⇒ 金利上昇ペース加速 ⇒ 株価影響
インフレ抑制効果が失われるということは、インフレが進みやすくなるということです。
インフレが進みやすくなると何がリスクになるかと言えば、金利上昇ペースの加速に繋がります。
インフレを抑制するために中央銀行であるFRBが利上げに動くからです。利上げペースの加速・金利上昇ペースの加速が何を招くかと言えば、直近の相場でご存知ですね。
今回に限って言えば株価の下落に繋がります。(そうでない場合もあります)
利上げによって国債の利回りが高まりますから、基本的にリスクフリーで高利回りを享受できることになるので、
わざわざ元本毀損リスクの高い高配当株式に資金を投入する理由はなく、株式から国債に資金が逃避します。
金利が上がると借金の利率が上がるわけで、経済活動の活発度が低下し、景気の失速を招くことは想像に難くないと思います。
ということで、「保護主義に走ると、景気の失速・株価下落を招く理由」を述べました。アカデミックな、学問的な話をすると保護主義は貿易論でいう”比較優位”の話にもなります。
いずれにせよ自由貿易は経済学的にはメリットのあることですから、投資家としてはマクロ的に見て成長率を押し下げる保護貿易には走って欲しくないというのが正直なところです。
今後も米国からは目が離せませんね。
Best wishes to everyone!